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第八二話 ルーデリカ家当主①

――夕方。


 いまだにウィルとリエルは『聖シルフ病院』の病室で待機していた。

 二人はクルーナを交えてテーブルの上でタワー積み上げゲーム――いわゆる、ジェンガをしていた。


(ここだ! うおおおおおおおお!)


 ウィルは積まれた木製のブロックを取る。


『カラカラカラカラカシャン』


 タワーは軽快な音を立てて崩れた。


「あーウィル君やっちゃったー」

「貴方の負けね。ひれ伏しなさい」


 リエルとクルーナに野次られていた。


「ひれ伏さないからね」


 ウィルはばらばらになったブロックを集めながら二言目を続ける。


「というかいつになったら僕らは解放されるの」

「本家の方が忙しいから仕方ないわよ。もう少し辛抱なさい」


 ここでいう本家とはルーデリカ家当主を含む重鎮の人間のことだ。

 ルーデリカ家はウィルの待遇について決めかねていたのだ。


 ウィルはフィユドレー家の新たな当主として矢面に立たされつつ、ルーデリカ家の支配下に置かれてしまうことを危惧していた。ルーデリカ家がウィルを手元に置いとけば、フィユドレー家に与していた企業、国際機関、国を手中に収めることができ、他の名家と比較しても頭一つ抜けた存在になる。ルーデリカ家からすればメリットしかないのだ。ちなみにフィユドレー家に与していた者たちは旧三大名家または新三大名家に仕えているか、忠義心を貫いてどこにも属さず孤軍奮闘している状態だ。


 ルーデリカ家がこの絶好のチャンスを逃すわけないとウィルは思っていた。ただ、今は水面下でグロウディスク家と対立してしまっているのでルーデリカ家も一先ず、解決すべき問題があるのですぐに利用されることはないという判断もしていた。


「いつになく怖い顔してるわよ」

「……状況が状況だし思うところがあってね」


 ウィルが眉間に(しわ)を寄せていたので、クルーナが指摘した。


「貴方の立場を考えれば、なに考えてるかぐらい分かるけど。大人しく本家の判断を待ちなさい。もし嫌なこと要求されたら、口添えをしてあげてもよろしくてよ」

「クルーナ……助かるよ」


 クルーナの思わぬ優しい言葉にウィルは安堵する。


「リエルもいるから大丈夫っ、どうしても嫌なことがあったら一緒に世界、敵に回すよっ!」


 リエルはファイティングポーズをし、「しゅ! しゅ!」と言いながら右、左と拳を宙に繰り出していた。


「そうだね。最悪の場合はそうしよう」


 世界を敵に回したときは一緒に戦い続けると、森林地区で戦う前に話し合っていたのでウィルはあっさりと答えた。

 そんな二人の様子を見てクルーナは不安そうな顔した。

 

「冗談よね」

「「…………」」


 二人は無言だった。 


「なにか言いなさいよ、洒落にならないわよ」


 さすがのクルーナも慌てた。


「落ち着いてって、最悪の場合だよ」


 心配をかけたと思ったウィルはクルーナを(なだ)める。


「でも本気の目してたわよ。口調は凄く軽い感じだけれども……いいかしら? クルーナ・ルーデリカの名に誓って貴方たちを敵になんか回させないわよ」

「クルーナ……いつになく優しいね」

「……なんか(しゃく)に障る言い方ね」

「感謝は本当にしてるからね」

「当然よ」


 クルーナはウィルから感じる恩義に悪い気はしなかった。


「クルーナちゃん、ありがと」


 リエルがクルーナの頭を撫でると、


「私、子供じゃないわよ。それに年下の貴方がやることじゃないわよ」

「リエル自我を持ったのは一〇年前だけど、多分ずっと生きてたから年上だもん」


 クルーナは口では強気な態度を取るが、しばらく黙って撫でられているぐらいには悪い気はしていなかった。


 ガラガラと病室のスライドドアが開く。

 ドアからは大型モニターが載ったキャスター付きの台を転がして持ってくるフィルエットが現れた。

 モニター台をウィルらの前に移動させる。


「お嬢様、準備できました」


 フィルエットはクルーナに頭を下げて報告する。

 一方、ウィルは自警団の団長がやる仕事ではないと冷静に思っていた。


「ご苦労様。もう向こうとは繋がってるのかしら」

「ルーターと接続すれば、すぐに繋がります」


 クルーナは労いつつ状況を確認すると、フィルエットはモニターの画面を点けて、インターネットと繋げる準備をする。


「これなに?」


 ウィルはモニターを指さす。リエルは大きなモニターを物珍しそうに見ていた。


「今からテレビ電話するのよ、本家と」


 クルーナはウィルの問いに答える。


「本家の誰と?」

父様(とうさま)よ」

「とうさまって……へ⁉ ちょっと待て!」

「繋がります!」


 ウィルの戸惑いをよそにフィルエットはテレビ電話を開始する――


――モニターが映る。高級木材で作られ、艶が出るまで磨かれた机。席には銀髪センター分けの中年男性が座っていた。


 男の名はドラグーン・ルーデリカ。クルーナの実の父親であり、旧三大名家ルーデリカ家の現当主でもある。顔にたるみは無く若年層にすら見えた。何より特徴的なのが銀髪であることだけでなく、瞳の色素が非常に薄いため赤目をしていることだ。世界の支配層の登場にウィルは(ひざまづ)いていた。そして、主人の登場にフィルエットも同じ行動を執る。


「楽になろうか」


 ドラグーンは体勢を崩すよう伝えるとウィルとフィルエットは立ち上がる。 


「ご無沙汰だね。ウィルドラグ君、今はウィルグラン君と呼んだほうがいいのかな。俺のこと覚えてるかい?」

「お久しぶりです。もちろん覚えています」


 ウィルは一礼する。


(ドラグーン・ルーデリカ、この世界を牛耳る人間の一人……! 一〇年前に会ったきりだけど変わってない)


 大物の登場に多少、緊張していた。


「ウィルグラン君がまさか生きているとは思わなったけど、良かったよ生きてて。これはお世辞じゃないから」

「ありがとうございます。ルーデリカ様も変わりなく元気そうでよかったです」

「本当にそう思ってるのかい?」

「ええと……お世辞です」

「そう思ってても口に出して言うことじゃないわよ……」


 ウィルがあまりにも素直だったのでクルーナは呆れ気味に(とが)めていた。


「はははは、正直な人、俺好きだよ。皆、俺のまえでは取り繕ってるから新鮮で助かるよ」


 ドラグーンは愉快そうだった。

 なお、ウィルは誰しもがドラグーンの前では取り繕うに決まっていると思っていた。

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