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ウィルの学院譚〜魔法が失われた世界で精霊と共に〜  作者: ネイン


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第八〇話 フィユドレー家の遺産

 翌日の昼。


 ウィルは人工島の西部にある医療産業地区にいた。ルーデリカ家から一晩中、取り調べを受けたのちに精密検査と治療を兼ねて病院に送られていたのだ。

 病院の名前は『(せい)シルフ病院』と言い、病床数は千を超える大病院であり、敷地内には一〇棟の建物(一号館~一〇号館)がある。入院及び外来機能だけでなく、リハビリ施設、臨床研究施設、食堂が備えられている。ちなみにウィルは病棟でもある一〇号館の一室に滞在していた。


『森林地区にて火災が起き、四名が負傷した。火災の原因は現在、究明中であり――』


 ウィルは電動ベッドで横たわりながら、スマートフォンでニュースを見ていた。

 昨日、起きた出来事は火災として処理されたようだ。

 つまり、ルーデリカ家とグロウディスク家は表面上は対立していないということになる。


 ウィルはスマートフォンを置いて、天井を見る。


「まさか取り調べでフルコースが出るなんて」


 取り調べ中、ルーデリカ家が夜食としてフルコースのディナーをご馳走してくれたことを思い出していた。

 金銭感覚がおかしいうえにフィユドレー家に連なる者だと分かったおかげで待遇が良くなっていた。


「いつになったら解放されるんだろうか」


 ウィルは電動ベッドの背を上げて、上体を起こす。

 精密検査を行った結果、ウィルの身体に異常は無かった。

 怪我はリエルの魔法によって完治しており、入院の必要はなく、ルーデリカ家の都合で待機していた。


 病室のスライドドアが開き、二人の少女が現れる。


「知ってるかしら。ここから南方40キロにある無人島にきゅうりが刺さったパイナップルが生える木があるらしいわよ」


 一人はクルーナ。


「面白そうー、クルーナちゃんは見たことあるの?」


 もう一人はリエルだった。


「本でしか見たことがないわよ」

「あとで取ってきて家の前で植えるから見に来てもいいよっ」

「そんなことできるわけが……いえ、リエルならできるかもしれないわね」


 クルーナはリエルの発言を否定しそうになるも、彼女の強さを思い出して前言撤回する。


「なんか仲良くなってる」


 会話する二人を見て、ウィルは端的に思ったことを口に出した。

 少女らはウィルに近づく。


「ウィル君、もうすぐ帰れるって!」

「ぐふっ」


 リエルはウィルが寝ているベッドに横から跳び込む。ウィルのお腹に頭突きをくらわせていた。


「ウィルグランそれともウィルドラグと呼んだ方がいいのかしら」

「あはは……さぁ、どうなんでしょう」


 クルーナは腕を組みながらベッドの空いてるところに腰掛ける。

 対してウィルは乾いた声で相槌を打つ。内心、狭いベッドの上に集まるなと思っていた。


「顔が暗いけど、なにかあったの?」


 物憂げなクルーナが気になるウィル。

 

「グロウディスクの自警団捕まえたでしょ。中々、尋問で口を割らないのよ」

「向こうの自警団も生え抜きのエリートだろうし無理もないよ」

「今は廃人になる手前まで自白剤打ち込むのを検討中よ」

「よくないって!」


 ウィルはルーデリカ家とグロウディスク家の対立が表面化したときは、悪評でどちらも共倒れすると思った。


「この病院、ウィル君のお母さんと同じ名前だね」


 いつのまにかリエルは丸イスに座っていた。


「実は僕の母親から取った名前なんだ」

「やっぱりそうなんだっ」

「本当に貴方はウィルドラグ・フィユドレーで間違いないわよね」


 クルーナが念を押すように確認する。


「いまさら違いますって言っても通用しないだろうしね」

「そうね」


 と、言ったクルーナはベッドから降りると、


「改めてお久しぶりです。ウィルドラグ・フィユドレー様、ご無事でなによりですわ」


 ワンピースのスカート部分の裾を上げて慇懃な挨拶をした。


「急にどうした」

「クルーナちゃんなんか他人みたいだよ」

「い、一応、礼儀に則って挨拶してるのよ! 茶化さないでくれるかしら」


 クルーナは顔を赤くして声を上げる。そのあと、照れ隠しにわざとらしく咳払いをした。


「戦争が起きてからどうしてたのかしら」

「そりゃあもう、逃げまくったよ。銃撃戦が起きてる市街地や森の中を魔法物(マジックアイテム)を使って逃げたり、疎開先を転々としたり大変だったよ」

「私には想像がつかないくらい大変だったでしょうね。生きてくれて良かったわ」

「はいはいーリエルも同じこと思っているよ」


 リエルは手を上げてクルーナに同調する。 


「ありがとう二人とも」


 素直に感謝するウィル。


「この島に定住したのは貴方の考えなのかしら」

「たまたまだよ。最後に行った疎開先にフィユドレー家の元自警団の人がいたからその人の伝手でここに来たんだよ」

「本当にたまたまなのかしら。必然的にこの島に来ることになると思うわよ、貴方にとってこの島以上に安全な場所があったかしら」

「……まぁそうかもしれないね。この島自体、フィユドレー家の遺産みたいなものだからね」


 ウィルらがいる人工島の名前は『ウィングガード島』、亡きフィユドレー家の当主の名前を取って命名している。そしてウィルの父親の名でもある。

 本島はフィユドレー家が元々、開発した島であり、大戦の影響でフィユドレー家が滅んだあとは旧三大名家と新三大名家が共同で開発を引き継いだ。そして、フュユドレー家に与していた自治体名義の土地となっていたので隠れ(みの)にするには打って付けの場所だったのだ。


 ウィルからすれば島自体が形見であり、思い入れのある場所だ。

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