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ウィルの学院譚〜魔法が失われた世界で精霊と共に〜  作者: ネイン


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第七五話 森林地区防衛戦④

 ウィルは逃げるにしても、前方にいる二人の敵に背を向けて走るのはまずいと思い魔法物(マジックアイテム)を発動させることにした。

 彼は左腕を伸ばし、手を広げる。


「『スモーク』」


 と、ウィルが唱えると、左手の人差し指に()めた指輪――魔法物(マジックアイテム)が反応し、周囲に煙を巻き散らす。

 この場にいる三人の視界は煙に覆われることになっていた。


「あのガキも妙な力を使いやがるのか!」


 褐色肌の男は煙を鬱陶しそうに手で払うも量が多く、視界は晴れない。


「違う! あいつは指輪型の魔法物(マジックアイテム)を使ってる! それに手で払っている場合か! その魔法物(マジックアイテム)はなんのためにあると思っているんだ!」


 七三分けの男は泡を食ったように叫ぶ。

 彼は相手の動きを注視してたので、ウィルの左手の動きを見て、嵌めている指輪を使って魔法物(マジックアイテム)を発動させていたと判断していた。そして、ウィルを逃すまいと指示を下した。


「そうだった! 『ストーム』!」


 褐色肌の男は思い出したようにウィルがいたであろう方向に向かって横蹴りをする。

 宙に向かって放たれた蹴りだが、足から強風が放たれていた。厳密には彼は革靴に偽装した鉄製の靴の魔法物(マジックアイテム)を履いており、靴から強風が放たれたのだ。

 風の強さは秒速一五メートル――樹木が激しく揺れ、取り付けの悪い看板は外れてしまうほどの勢いだ。


 そのとき、煙の中で背中を向けて走っていたウィルは風の音を聞き、身体を(ひるがえ)せば、


「なっ‼」


 目を大きく見開いて驚嘆の声を漏らしつつ、強風に(あお)られて体のバランスを崩しそうになっていた。

 また、彼が驚いたのは強風の存在ではなく、強風によって、自身と敵の間にあった煙だけ無くなっていたからだ。ただ、煙は敵まで一直線状に晴れた状態になっているだけで周囲に残っている煙に飛び込み、森の中に逃げればいいと思っていた。


「逃がさん! 『アサルトバレット』‼」


 七三分けの男は持っている小型のライフルの標準をウィルに向けて引き金を引き、発砲音を鳴らす。

 対して、ウィルは魔力(マナ)で神経伝達速度と脚力を向上させて、放たれるであろう弾丸を避けつつ煙に飛び込もうとする――刹那の間、視覚情報をもとに頭を回転させる。


(見えない! 弾丸が! 確かに引き金を引いた! なにかが向かっているのは空気を裂く音で分かる! これは魔力(マナ)⁉)


 向かってきているはずの弾丸は見えないが、今の脚力ならば数秒で森の中に逃げ込むことができるので煙の中に向かって跳ぶ。


(あと、ひとっ飛びすれば一気に森の中に!)

 

 ウィルは強化された脚力で森の奥深くまで跳んでいこうとするが――、


「――え?」


 左肩に違和感を感じる。

 大きな衝撃を受けた。

 そんな気がしたので自然と右手で左肩を触っていた。

 右手を見ると手が真っ赤になっていた。


 撃たれた?

 でも発砲音は確かに一回だったはず。

 ライフルの弾丸が透明なだけではなく追尾性能もあった?


 様々な考えが(よぎる)が、脳が痛覚を認識すれば思考がまとまらなくなる。


「あ、あああああああ‼ 痛い! 痛いっ! 死ぬっ!」


 その場で倒れたウィルは肩を押さえながら苦しみ(もだ)える。


「はぁ……はぁ……吐き気が……はぁ……息が上手くできない……!」


 さらに頭痛、吐き気、眩暈の症状が彼を襲う。


 敵が持っていたライフルは魔法物(マジックアイテム)であり、弾を込める必要が無い品物である。弾丸の変わりに魔力(マナ)でできた弾が発射される。くわえて、弾は透明かつ銃身を向けたさきにいる生命を追尾する機能があった。ウィルが撃たれたのは上腕骨に近い部分の肩甲骨(けんこうこつ)であり、痛みだけではなく全身症状が出ている状態だった。


「やりましたぜアニキ!」

「いいから霧を晴らせどこにいるか分からん!」

「はい!」


 七三分けの男の指示通り、褐色肌の男はウィルの声が聞こえたであろう方向に向けて、『ストーム』と、唱えて蹴りを繰り出す。

 そのあいだ、ウィルは声を震わせながらも小声で呟く。


「はぁ、はぁ……『ヒール』……『クリア』…………!」


 彼は左手の指に嵌めている魔法物(マジックアイテム)を行使していた。


 親指の指輪の『ヒール』は傷の治癒を行うが、負傷した部位に指輪を近づけなければならない。擦り傷ならば数分で完治するが今のウィルは骨が削れたうえに血管が断裂しているため、数分で完治しない。ましてや敵が近くにいる以上、一分すら治癒に当てられない。ウィルは少しでも時間を稼ぐために中指の指輪の『クリア』で透明になっていた。すでにウィルがいる場所の煙は振り払われており、敵はウィルを血眼になって探していた。

 

 しかし、透明でいられる状態はたったの五秒だ。

 ウィルは傷の治癒を続けながら、無理やり頭を回転させる。


(今の状態で逃げ切れる自信がない、追尾性のある攻撃がある以上、駄目だ)


 透明状態解除三秒前。


(リエル……僕が力いっぱい叫べば助けにくるだろう……でも)


 精霊の少女を呼ぶのを躊躇(ちゅうちょ)する。

 彼女がフラウロスを追いかけてから一〇分も経っていない。

 情けないことこの上ないが命には変えられないと思う気持ちはある。だが、そんな気持ち以上に。


(リエルも今戦っている。足を引っ張るわけにはいかない……リエルの隣にいられる強さが欲しい、これからも一緒にいるためにも)


 透明状態解除一秒前。


(考えるんだ……全力を尽くすんだ。魔力(マナ)で体が壊れてもいい、リミッターを外すんだ!)


 透明状態解除――ウィルは姿を現した、肩から血が滴る左腕をぶらさげながらも、息を切らしながらも、堂々と敵を見つめていた。

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