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ウィルの学院譚〜魔法が失われた世界で精霊と共に〜  作者: ネイン


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第七三話 森林地区防衛戦②

 褐色肌の男は銃を突きつけても退かないウィルとリエルに痺れを切らし、発砲しそうだったが三人組のボス格である七三分けの男が前に進み出て、銃を納めるように指示する。


「この土地を奪い取るような真似は止めて欲しいです」


 ウィルの発言に七三分けの男は「ほう」と(うな)る。


「このお店の人に雇われた用心棒といったところですかね……にしては二人とも子供にしか見えませんが」


 二人の正体を勘繰る男だったが心当たりが無かった。面識はあるはずだがウィルとリエルは髪色を白に染めているうえに、有象無象の一般人は覚えるまでもないという彼の性格が起因していた。


「私たちはこう見えてグロウディスク家の自警団でしてね。貴方たちを無理やり捕まえることもできるのですよ」

「正当な理由なく土地を占拠したうえに人を捕まえるような行為は名家の自警団とはいえ許されませんよ」

「くっ、くくく!」


 ウィルの言い分を聞いた七三分けの男は嚙み殺すように笑っていた。


「何を言い出すのかと思えば、私たちはあらゆる国の政府と企業を動かせるのですよ」

「それは名家の当主だけだよ。僕たちが貴方がたを捕まえて、証拠を掴めばメディアも他の名家も黙ってはいられない」

「そんなことできると思っているのか、もういい……話にならない、やれ!」


 慇懃な口調の男だったが、我慢ならず本性を現したかのように声を荒げる。言外に前にいる二人を射殺するように褐色肌の男に伝えていた。


「分かりましたぜ! 悪く思うなよアニキは仕事第一の人間なんでな!」


 と、言い切った瞬間に発砲音が響く、放たれた弾丸はウィルの額を狙うが――


「――避けれた!」


 魔力(マナ)によって身体の神経伝達速度を向上させているウィルは動体視力、反応速度が人間という種族から逸脱しており、手の動きで発砲されることを事前に予測し、弾丸を横跳びで避けたのだ。しかし、ウィルは長い時間、魔力(マナ)を使うことはできない。身体が魔力(マナ)を使うことに適応できていないのだ。


 弾丸を避けたウィルを目の当たりにし、目を大きく見開く、グロウディスク家の三人。


「こ、こいつどうやって! ぬおっ――!」


 三人のうち発砲した人物が泡を食ったように叫ぶと同時にリエルが指を鳴らす。すると、地面から一本の(つた)が生え、銃に絡みついたかと思えば、そのまま銃を握りつぶした。

 たまらず褐色肌の男は銃を手放す。


「こいつら普通じゃない! アニキ!」

魔法物(マジックアイテム)か! するとこいつら政府関係者か名家の人間⁉ 私たちの不正につけ込むつもりかもしれない! おい召喚しろ! 木ごと燃やせ!」


 七三分けの男は小柄な男の方を振り向くと、


「へい! わ、分かりやした!」


 小柄の男はスーツの内側に手を入れると、青く輝く鉱石を二つ取り出す。


 ウィルとリエルは七三分けの男が言った『おい召喚しろ!』という言葉を聞いた瞬間、嫌な予感がしていた。人工精霊の召喚にほかならないと。

  また、ウィルは自分たちの強さを見せつければ相手が退くことを鑑みるかもしれないという淡い考えもあったが、即座に次善の策を打ってくるあたり、名家の自警団は油断ならない相手であることを再認識していた。


 小柄の男は二つの鉱石を地面に向かって投げると、鉱石から炎が発し、その炎は鉱石を取り囲むように竜巻の形となる。そして、竜巻が消え去ると、それぞれの鉱石から全身から炎を常に発し、頭上に一本角を持った(ひょう)が現れた。

 召喚された豹は体高(たいこう)一〇〇センチ、体長二〇〇センチと、通常の豹と比較するとかなり大きい。


「人工精霊、それも二体!」


 ウィルは焦る。


(リエルは人間相手なら負けることはないと思うけど、同じ精霊相手ならどうなんだ……それに明らかに火を使いそうな見た目だけど相性的にもどうなんだろうか)

 

 彼は幾度かリエルの魔法を見てきたが、草木や蔦など出しては操る頻度が多いので火に弱いかもしれないと思っていた。ただ頻度が多いだけで水や火など、様々なものを出して操る姿も見てきたので判断がつかない。


 また、横目でリエルは見るも、彼女の顔から察するに焦っている様子もない。


(この子たちには勝てるけど、被害が大きくなる。ウィル君が危険)


 リエルは人工精霊の力量を測っていた。難無く倒せそうではあるが問題は戦闘による周囲への被害だ。ウィルや巨木を巻き込んでしまうほど戦闘の規模が大きくなると判断していた。しかし、安全策を考える暇はない。


「いくんだ! フラウロス共!」


 小柄の男が豹型の人工精霊――フラウロスに指示をする。


「ガルルルルッ‼‼」

 

 一体のフラウロスは指示に答えるように、角先から直径二メートルほどの炎の玉をウィルたちに放つ。

 炎の玉は空気を裂きながら熱気を周囲に散らす。

 熱気に当てられたウィルは肌から水分が無くなるのを感じ取るが――、


「ギャッウ!」

 

 フラウロスは(いなな)く。


 向かってきたはずの炎は真っすぐ引き返して、フラウロスに当たり、そのまま、はるか後方へと吹き飛んでいったのだ。森の中に突っ込み、木々をなぎ倒して一〇メートル……五〇メートル……一〇〇メートルと、飛距離を伸ばして視認できなくなっていった。


「な、なんだこの女⁉」


 褐色肌の男は空いた口が塞がらなかった。七三分けの男は精霊が吹っ飛ばされた方向を振り返り、小柄の男は腰を抜かしていた。

 

「リエル助かったよ」

「ふふん、どういたしました」


 自慢気に胸を張るリエル。

 少女は向かってきた炎の玉を緑色のオーラに包ませた右足で一蹴りしていた。単純に魔力(マナ)を足に纏わせて力押しをしたのだ。


「でもウィル君、ここにいると危ない攻撃がくるかもっ」

「危ない攻撃……? それってどういう――」


 ウィルが喋り終わる前に、小柄の男は残っているフラウロスに「あ、あの野郎どもを消し去るんだ!」と、命令する。すると、フラウロス全身から炎を放出する。

 その炎はフラウロスとグロウディスク家の人たちを中心として、円状に放たれる。その規模は巨木周辺の直径三〇メートルほどある土地を覆うほどだった。


魔力(マナ)だけじゃ防げない……ちゃんとした魔法を唱えなきゃ)


 リエルは魔法を唱える。


六芒星(オクタグラム)(シールド)


 精霊の少女は自身とウィル、そして巨木を囲むような六芒星を地面に展開した。

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