第五三話 友人を勧誘してみた
アダムイブ学院の西館二階は多くの学生で賑わっていた。なぜなら、ここは食堂である。
ゼルとラナックは六人が腰掛けれる長方形のテーブルで食事をとっていた。彼らは並んで座っており、真向かいに座る予定のウィルを待っていた。
ちなみにゼルは熱々のビーフステーキを、ラナックはオムライスを食べていた。
「このパン……中に赤いご飯が入ってるじゃないか……!」
「パンじゃねぇよオムライスだろ」
驚嘆するラナックを横目に見るゼル。
すると、二人の向かい側からウィルが来ていて一言喋る。
「待たせたね」
「遅え……よ?」
ゼルは尻すぼみに発言する。向かい側の真ん中にウィルが座ったかと思えば、その両隣にルーデリカ家の次期当主と見慣れないフードを被った少女が座ってたからだ。
「え、なんで?」
ゼルはぽつりと言う。
さすがのラナックも手を止めてウィルらを見ていた。
「本当に東館のカフェテリアじゃなくてよかったのかしら」
「う、うん……満席だったから」
クルーナとフードを被ったパプリカが会話し始める。
「私の権力であんなやつらどかせられるわよ」
「そこまでしなくてもいいんじゃないかな? ……あはは」
最後は乾いた声で笑うパプリカ。
「二人ともどうしたの?」
ウィルはこちらを見てくる友人らを気にかける。
「それは俺らの台詞なんだがクルーナ嬢とかなり仲良くなったなと、思ってな」
「いろいろと経緯がありまして」
一から説明するのも面倒な上に何を言われるか分からないので、ウィルはクルーナが階段で菓子パンを食べていたことを黙っていた。
「その上、また一人新しい女性と仲良くなっているところを見ると君は本当に節操がないようだね」
「ラナックは僕をなんだと思ってるんだよ」
「一言で言うなら変態」
「なんでだよ」
いい加減言われ慣れてるのかウィルは軽く言葉を返す。
「いくら否定しても私の妹を人質に取っている事実は変わらないね」
「架空の妹の話はもういいよ」
青年は半笑いで言う。
「注文しに行くわよウィルグラン。お昼が終わるからさっさとしなさい」
「はいはい」
クルーナが立ち上がるとウィルも彼女に続く。
また、パプリカも立ち上がり。
「私、こういうところでご飯頼むの初めて」
「ここに来る前はどこでご飯食べてたの?」
竜人の少女に尋ねるウィル。
「えっと、自宅や……楽屋とかで」
パプリカは後半の言葉を小声で言うとウィルは「ああ、なるほどね」と、納得するように言った。さらに青年は外食したことがなければグルメロケをする番組には出演してないことになるという無意味な推測をしていた。
ちなみにアイドルとしてのパプリカ・ミリアはテレビでの露出は少なく、コンサートの実施と世界最大の動画サイトそしてソーシャルネットワーキングサービスでの活動が主だ。
――しばらくして、ウィルらは食事を持って戻ってきていた。その間、ゼルとラナックはウィルが少女ら二人の弱みを握って仲良くなっているという結論に達していた。
「そういえば二人とも入る専門科は決めたの?」
ウィルは向かいにいる二人に聞く。
「俺はまだだ、そもそも入試の成績が下から二番目じゃ人気の専門科には入れないだろうな」
「私は成績的にどこにでも入れるから選択肢が多すぎて決めれないといった感じだ」
二人がウィルの問いに答えると、
「貴方達、精霊遊学科に入りなさい! 人数が足りないのよ」
クルーナが口を挟む。
「いくら次期当主様とはいえ、さすがにそんなよく分からないところには入れないな……」
ゼルは誘い断ろうとするが、
「よく分からないですって?」
「ひ……いや、その違うくて」
クルーナの剣幕にビビり散らしていた。
「入らないと処刑するわよ」
「お、横暴だ! そんなこと現代社会で許されて……」
言い淀むゼル。
彼は助けを求めるようにラナックの方を見る。
「精霊遊学科…………選択肢の一つとしてありかと」
「嘘つけって! お前、何する学科知らないだろ!」
「あれだろう……遊学、つまり色んなところに行くやつだ」
ラナックはクルーナの風当たりに巻き込まれないようにあやふやながらも言葉を選んでいた。
「まぁいいわ。無理に誘いはしないわよ」
その言葉を聞いたゼルは「だったら処刑とか言わないでくれ」と、小声で言っていた。
「でも、正直な話、ゼルは人気のところより精霊遊学科みたいに新設されたところを候補として考える必要もあるんじゃない? 他のマイナーな科だって見る必要があるよ」
「まぁ、確かにウィルの言う通りだな、でもな」
ゼルは友人の言うことに賛同するも納得はしていない模様。
「僕がゼルの立場なら、きっと精霊遊学科含めてマイナーな専門科を見学しに行くよ。就職も大事だけど人気の専門科に入れないなら、やりたいことを見つけだすのも一つの手かと」
「うむむ……そうだよなあ、話だけでも聞いてみるか、俺ちょっと飲み物無くなったからドリンクバー行ってくる」
そう言ってゼルは空になったプラスチック製のグラスを持ってドリンクバーへと向かった。
「ウィルグランさすがだね。目的のためならゼルさえも口八丁で騙すとは」
「いや、騙してないって! まぁ、誘導した感じは否めないけど」
ウィルは心外だと言わんばかりだったが多少は利己的だった。
そんなウィルらの会話は聞きながらクルーナはカスタードたっぷりのパンケーキを、パプリカはポテトバターを細かく食べていた。
「ちなみにラナックは精霊遊学科の話を聞きにこないの?」
「行ってやってもいいという感じだね」
「なんで上から目線なんだよ……ちなみに候補の専門科はどこなの?」
「絞ることさえできていない状況だ。個人的にはパンさえ捏ねることができれば、それでいいんだが」
「学院に何しに来たんだよ」
ウィルは呆れながら言った。




