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ウィルの学院譚〜魔法が失われた世界で精霊と共に〜  作者: ネイン


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第五一話 食堂に行こう②

(階段でご飯を食べるのが流行っているのかな?)


 ウィルは階段に腰掛けて食事をしている人物の背中を見て言う。


「本当に? 本当に精霊分野を担当できる先生が見つかったのかしら?」


 立ち止まったウィルの背後からクルーナが興奮気味に話しかける。青年は彼女にユリカ・サエという教員が精霊遊学科という専門科を開設しようとしている話をしたばかりだった。


「え、うん」

「なんで上の空なのかしら……あっ」


 クルーナはウィルに横に立つと下方にいる人物を見て固まる。自分と同じように階段で食事をしていたからだ。


「寂しそうだわ」


 お嬢様はぽつりと呟く

 

「僕もそう思ったから君に声をかけたんだけど、君が知らない人だったら何も言ってないよ。赤の他人が声をかけても迷惑だと思われるかもしれないからね」


 ウィルは下方にいる人物に聞こえない程度の声で言う。


「私はルーデリカ家の次期当主よ」

「いや、知ってるから」


 周知のことを言うクルーナに対して怪訝な顔をする青年。


「例え迷惑でも下賤(げせん)な民を救う行動をしないと何も分からないままだわ」

「下賤は余計だよ……えっ、本当に声かけるの⁉︎」


 クルーナは階段を下りて下方にいる人物に近づいていたのでウィルは慌てて着いていく。


「あ……」


 階段で食事している人物は視界に入ってきたクルーナを見ると声を漏らした。その人は赤いロングパーカーを着て、フードを被っており、頭に角が一つある種族なのかパーカの一部が盛り上がっていた。

 また、線の細さと体のラインからして女性であることは分かり、低身長であることも(うかが)える。


「何か……用かな?」


 彼女は顔を見せたくないのか被っているフードを頭に押さえつけていた。


「こんなところで食事して寂しくないかしら?」

「聞き方が悪すぎるよ」


 ウィルはクルーナの発言を咎めたが、


「何よ邪魔しないでほしいわ。それより、貴方もこれから食堂に行かないかしら?」


 彼女は意に介さなかった。


「え……」


 パーカーの子は予想外の言葉を投げかけられて思わず二人を男女を確認する。


「クルーナ様? それに……変態様?」


 一人は名家の令嬢であることを認識したあと、もう一人はここ最近、乱痴気(らんちき)騒ぎを起こしている男だと判断していた。


「変態様ってなんだよ」

「っ、ごめんなさい」


 パーカーの子はウィルのツッコミに思わず頭を下げる。


「あ、いや、僕の方こそごめん! ちょっと思わず口走ったというか」


 予想外のリアクションをとられたウィルは申し訳なさそうに謝罪をした。


「さっきの口の利き方は感心しないわ、ウィルグラン」

「口調に関しては君の方が悪いから」

「そんなことないわよ! 心外だわ、下等な庶民なんかに愚弄されるなんて!」

「誰か下等だよ。本当に君は口だけ悪いよね」


 などと、ウィルとクルーナがやり取りしていると、


「ふふっ」


 パーカーの子は顔を上げて静かに笑う。

 彼女の右目と左目はそれぞれ赤と青のオッドアイで髪の長さが肩に届くぐらいなのが窺える。さらに黒い髪に赤と青のメッシュが入っていて、両サイドの髪を編み込んでカチューシャのようにしていた。


 その上、頭の左上に生えている黒い角があるので一度見たら忘れない特徴的な見た目をしている。そしてそれを見た二人は彼女に心当たりがあった。


「「パ、パプリカちゃん⁉︎」」


 ウィルとクルーナは目を見開いて言う。

 彼女は老若男女に愛され、つい最近、引退したという世界的な竜人アイドル――パプリカ・ミリアだった。

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