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ウィルの学院譚〜魔法が失われた世界で精霊と共に〜  作者: ネイン


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第四九話 精霊遊学科②

「これには事情があるんです! 開放されてない屋上にいるのがバレたらまずいと思ってついつい池に飛び込んだんです。副学長の声を聞くまでこの屋上が開放されてないことを知らなくて!」


 水浸しのウィルは人工池から現れた事情を説明していた。


「だ、駄目でしょ!」


 女性教員はキョトンとしてウィルの話を聞いたあと、立ち上がって言う。ウィルは自分を咎めていると思い、申し訳なさそうな顔をして口を開く。


「す、すみませんでした!」

「風邪引くでしょう!」

「えっ、あ、はい」


 意外な一言にウィルは戸惑いながらも返事をする。 


――数分後。 


 ウィルが人工池から出て上着を脱いでいると、


「しばらくこれを使いなさい」


 女性教員は屋上にあるキッチンカーを模した小屋に入ってバスタオルとエプロンを持ってきていた。


「ありがとうございます、でもこのエプロンは?」

「着替え……だけど?」


 女性は首を傾げる。


「服を脱いでエプロン着たら変態だと思うんですけど」

「え、駄目かしら。君って確か露出狂で有名なウィルグラン君でしょ……だから大丈夫かなって」

「いやいや、その判断はおかしい」


 ウィルは右手のひらを左右にひらひらとさせて相手の考えを否定した。

 次いで二の句を継ぐ。


「それに先生、僕に関する噂は全部出鱈目(でたらめ)なんです!」


 最悪な印象を打ち消すことにしたウィルだが、


「入学試験で下着姿になったのも?」

「下着姿にはなりました……」


 出鼻を折られ尻すぼみに喋る。


「さっき研究棟で全裸になったっていう噂も嘘?」

「全裸にもなりました……」


 視線を泳がせる青年。


「でも、先生は君がどんなにおかしくっても精霊遊学科に興味があるって言ってくれたから嬉しいわ」


 そう言って、女性教員は笑顔を見せる。


「いや……」


 青年は色々と言いたいことがあったが何を言っても無駄だと思い弁明することを諦めた。彼が嘆息したあとに女性教員は自己紹介をする。


「先生の名前はユリカ・サエです。宜しくね」

「宜しくお願いします」


 ウィルはとりあえず一礼する。


「でも生徒があと四人必要でしょう? だから君が私の科を希望しても無駄になるかもしれないし、それに他の人から白い目で見られると思うけど」


 ユリカは少し寂しげに喋っていた。


「大丈夫です。知り合いに精霊分野に興味がある人が一人います。それに僕はもう白い目で見られてます」

「面白いこと言うのね、ふふっ」


 口元に指を当てて笑うユリカ。


「事実ですから、ははは………」


 一方は自虐的に乾いた声で笑っていた。


「じゃあ先生は期待してもいいのかな?」

「あ、はい! 期限の一週間後までにはなんとかします」


 青年はユリカを安心させるように宣言していた。


(クルーナを含めてもあと三人集めなければならない、ゼルとラナックは乗り気じゃないと思うし、僕は変態だと思われてるから集客力は皆無)


 希望する専門科は一週間後までに選ばなければならないのでウィルは精霊遊学科に入ってくれそうな人物を思い浮かべていた。

 

 それからユリカは花の手入れがあると言って屋上に残り、ウィルはタオルで体を拭いたあとパンイチ姿の上にエプロンを着た。


 まず彼がやることは一つ、着ている衣服が無くなったときに備えて学院のあらゆるところに仕込んでいた服を回収することだった。

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