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ウィルの学院譚〜魔法が失われた世界で精霊と共に〜  作者: ネイン


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第四七話 大戦の影響

 急に舞い上がったクルーナだったがウィルにはその理由が分かる。もともと、精霊分野の研究はルーデリカ家が中心となって推進していたものだからだ。


 それにクルーナが関心を持つのは容易に想像できる。その上、忌避(きひ)されている精霊分野に興味があるウィルの存在でテンションが上がるのも無理もない。


「でもよ、精霊分野の研究って大戦で悪用されてるからあまりいい目で見られないだろ」


 ゼルは思ったことを口走る。

 するとラナックはゼルを肘で小突く。


「あ……いやルーデリカ家のことを悪く言ったわけでは……」


 萎縮するゼル。

 彼の頭の中ではすでにルーデリカ家の自警団に連行されて刑務所送りになる未来が見えていた。


「勝手にいいなさい。下賎(げせん)な者の言葉なんて耳に入らないんだから。それに――」


 クルーナはゼルの発言を気にするわけでもなく二の句を継ぐ。


「精霊の研究をヨルゼル家に悪用されて大戦を引き起こした責任が当家にあるわ」

「別にルーデリカ家のせいじゃないよ」


 彼女をフォローするように言葉を投げかけるウィル。


「お、ラナック、ウィルのやつ急に優しさ見せたぜ」

「ああやって女性を油断させて弱みに漬け込むのが奴の手口だ」


 ゼルとラナックが勝手なことを話し合っていた。

 ウィルは何か言いたげそうな顔をしながら二人を見たあと、クルーナの方を向く。


「ありきたりな言葉だわ。いの一番に戦果に巻き込まれたフィユドレー家の人達が浮かばれないことには変わりないわ」

「フィユドレー家はルーデリカ家と共同研究してたし、研究してる内容からして狙われる覚悟はできてたよ」

「知ったような口利くのね」


 腕を組んでつんけんするクルーナ。

 

(実際に知ってるからね)


 ウィルは困ったような顔をした。


 大戦の事の発端を説明すると、実質的に新三大名家及び旧三大名家が支配する世の中にはなっているが政治体制そのものは民主主義である。

 それをよく思わない新三大名家のヨルゼル家が旧三大名家のルーデリカ家とフィユドレー家に近づいて研究成果を軍事利用することでかつての貴族制を復活させようとしたのだ。


「あまり話したことはない子だったけれどフィユドレー家の次期当主は私やベルリック・グロウディスクと同じ(とし)だったわ。顔も知っていて年端もいかない子を大戦で巻き込んでしまったら罪悪感が湧くわよ」


 クルーナが語るとウィルは悩まし気な顔をする。


(まぁ、その子は目の前にいるけどね)


 ツッコみたくてもツッコめないのがもどかしい模様。

 

「あ、そうだ! なんで精霊工学科の先生と揉めてたの?」


 ウィルは思い出したように尋ねる。


「そうだわ。聞いて、大問題よ!」

「え、あ、はい」


 クルーナが毅然として長机の席に着くとウィルはつい畏まる。ゼルとラナックもクルーナの様子が気になり彼女に注目した。


「精霊の研究がいい目で見られない上に年々、研究する学生の数が減ってるからって精霊工学含めて全ての精霊分野の研究は打ち切りするって、庶民上がりの先生が言ってたわ」

「庶民上がりは余計だよ」


 ウィルは遠慮なくクルーナに指摘した。

 するとゼルは口を開く。


「クルーナお嬢様よ、言葉が悪いかもしれないけど、学院の専攻科を選ぶってことはその分野で修士号や博士号を取得するってことだろ? 世間が厳しい目で見ている研究で博士号を取れても就職先とかに困るぜ。こ、これは俺の意見じゃなくて世間一般の意見だからな、俺は別に悪くないと思ってるみたいな、む、むしろすげぇ分野だと思ってますよ」


 彼は言いたいことを言ったあげくビビり倒したので予防線を張っていた。


「ゼル。君はガイダンスが終わったあとに『精霊分野だけは絶対ねぇわ。露頭に迷うぜ』と、言ってた気がするが」

「お、おおい! 余計なことを! 違うんですよ、クルーナお嬢様!」


 ラナックが再び余計なことを口走る前にゼルは彼の口を塞ごうとした。


「なにあの小物臭い男は? 口調がチグハグだわ」


 名家のお嬢様は厳しい目つきで男を見る。


「ゼルはあれだから、ファッションヤンキーなんだよ。見た目からしてちょっと悪ぶってるけど元引きこもりのネトゲ廃人だよ」

「おいウィル! それは秘密にしてくれって言っただろ!」


 触れられたくない過去をウィルが暴露しているのでゼルは彼に近づこうとするがラナックに引き止められて動けなかった。


 そのあと、クルーナは立ち上がる。

 

「別に当人に興味がないことを無理強いしないわよ。それとガイダンス前に貴方に言ったこと覚えてるかしら?」


 彼女はゼルを横目で見たあとウィルと目を合わせる。


「同じ専攻科に入って勝負しなさいって話?」

「そう、それよ。偶然に同じ分野に興味があるらしいし協力なさい!」

「えっと……まず何に?」


 クルーナは不敵な笑みを浮かべ、


「精霊分野の研究は打ち切ったものの、別に禁止とはなってないわ! 学院の規則に(のっと)て、博士号を持つ先生一人と生徒五人以上の署名があれば新しく専攻科を作れるわよ!」


 勢いよく(まく)し立てる。


「なるほど……いや、先生と生徒を見つけるのが相当に難しいと思うけど」

「一緒になんとかしなさい」

「そういうことなら名家の名前を利用して人とか集められない?」


 その言葉にクルーナはかぶりを振る。


「私はね、大戦で失墜(しっつい)したルーデリカ家の名誉と地位を取り戻したいのよ、次期当主として。だから個人として認められるためにも家の力を借りず、そして貴方のような凡人にも勝たなきゃいけないわ」

「誰が凡人だよ」


 そのご、ウィルが「その分野に興味があるのは本当だし世話になってるから協力するよ」と言うとクルーナは目を輝かせて喜んでいた。

構想は20万字以内です。

もともと、10万字で終わらすつもりでしたが筆が乗りました。

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