第四六話 専門科の見学②
ここは精霊分野の研究をしている生徒が座学を受ける部屋である。
「どうにかなりませんか⁉︎」
「クルーナ様、わしではどうしようもないんよ。今となっては精霊分野の研究をする人は青い目で見られるからの」
教卓と三人掛けの机が三列だけ並んである小教室でクルーナが机を平手で叩き、精霊工学科を受け持つ先生を問い詰めていた。
そのとき、ウィルら三人が廊下側のドアを開けて室内へと入る。
「ウィル、クルーナお嬢様がお怒りだぞ」
ゼルは先生に詰め寄っているクルーナを見て言う。
「うん、そうだね」
「お前またニーソ脱がしただろ」
「脱がしてないよ! ていうかまたってなんだよ! 常習犯みたいに言わないでくれ」
一方、教室にいる二人はやってきた三人の方を向いていた。
「あら、奇遇ね」
クルーナはいつも通りの様子だが先生の方は、
「ち、ちみは……!」
ウィルに指を向けて声を震わせる。
なお、青年はどこかで会ったことある人物なのかもしれないと思い首を傾げて考えを巡らすが、
「噂の変態じゃないか! 聞いたぞ! 一時間前にまた問題を起こしたそうじゃないか! なんでも人の着ている服をむくのが好きだという」
先生はあらぬことを言い出した。
そのあとすぐにラナックがウィルの肩を叩く。
「え、なに? いま僕とんでもないこと言われてるんだけど」
「君が新しく得た、服をむくという性癖を広めといたんだが、効果が出たようだ」
「ラナックのせいかよ! なんてことしてくれてんだ!」
ウィルはラナックに食ってかかると、
「事情はよく分からないのだけど貴方が私に叩き潰される前に捕まったら困るわ。それに現行犯逮捕されたら私個人の権威を振りかざしても前科ぐらいはつくわよ」
話を聞いていたクルーナがそんなことを言う。
「今のところ捕まってないから大丈夫だよ」
と、ウィルが答える。
「むしろウィルが何してもお嬢様がいつも通り接してるのがすげぇよ」
「ふっ……これが次期当主になる人間の懐の大きさだ」
「なんでラナックがイキってんだよ」
ゼルは鼻高々なラナックが癪に触ったようだ。
「そもそもいつも言ってるじゃないか、僕がやらかすことは事故だって不幸が積み重なってるだけだって」
「「「……………」」」
「なんで皆無言なんだよ!」
誰もウィルの言葉を信じなかった。
次いで彼はため息を吐き、先生に語りかける。
「あ、あの僕達、精霊工学の授業を見学しにきたんですけど――」
「う、うわ! こないでおくれ! ひぃ! むかれる‼︎」
ウィルが近づいてくると先生は外に向かって走る。ドアを出たあたりで思わず転ぶが自分の身を気にすることもなく去っていった。
「クルーナ・ルーデリカよ、あれが普通の反応だ」
ラナックは固まった状態のウィルの背を見て言う。
「誰だろうと庶民の行動を気にしてる余裕はないわ。それに人間、悪いところもあれば良いところもあるわよ」
「器ひろっ!」
ゼルは思わず大声を出していた。
呆然としていたウィルだったが、しばらくすると皆がいる方向を向いた。
(最近、気づいたけどクルーナって人を見下そうとしたり高慢な感じだすけどただのいい奴なんだよ。もはやファッションで傲慢ぶってるよ)
勘違いからニーソを渡してきたり、家が半壊した際にホテルを手配してもらったり、あらぬ噂が立っているウィルに以前と変わらず接してくれるので青年の中ではほぼ聖人と化していた。
なお、勝負を挑んでくる一面はクソほど面倒臭い模様。
「そんなことより精霊工学を見学しにきたって言ったわよね!」
「う、うん」
急にテンションが上がったクルーナにウィルはたじろいでいた。