第四四話 研究棟むきだし事件
魔導理学科の研究室に入った多数の新入生とウィルら三人は扉側に立って研究の様子を見学していた。
部屋の中心に長方形の実験台があってその台を挟んで教員と在校生が向かい合っている。
在校生は白衣を着ているがところどころ破けてたり焦げたりしていた。また、顔には煤が付いてる。
「では先程の新入生に見せたのものを再現してみせよう! そこの君! 頼む!」
「は、はい!」
天然パーマの女性教員が声高々に発言すると在校生の一人がそれに同意する。
(どんな実験をやったらあんな風にボロボロになるんだろう)
ウィルは不安げな顔で実験台の上にある実験器具に触れる学院生を見る。それはラナックやゼル、他の新入生も同じだ。
「では、今から素晴らしいものを我が生徒が披露しよう! サラマンダーの血にミスリル原子を溶かしたものを煮沸させたまえ」
女性教員はサラマンダーの血が入った容器を指でさすと、学院生は網が乗った三脚台にサラマンダーの血を載せて煮沸させる。
ちなみにサラマンダーの血は治療薬としても使われており、ミスリル原子というのは魔力の伝導率が高いと言われる貴金属であるミスリルを構成する原子のことだ。
サラマンダーの血が沸騰して容器から溢れると、見学している人は思ったが溢れることはなくゼリー状になって膨らんでいった。
「「「おおー!」」」
見たことない現象に見学者は感嘆していた。
「このように血は凝固する! そしてこれを引っこ抜いて床に叩きつけるとサラマンダーの血からミスリル原子がなくなるかわりに……」
女性教員は手を伸ばして固まったサラマンダーの血を容器から引っこ抜いて両手で掲げ、
「爆発する‼︎」
真下に投げる。
破裂音が響き渡り、辺り一帯は眩く輝く。
「「「うわああああぁぁぁぁあ‼︎‼︎」」」
「「「きゃあああああああああ‼︎‼︎」」」
悲鳴上げる男女。
それもそのはず視界が光に覆われたその瞬間、爆発に伴い爆風が吹き荒れたのだ。
「うえっ!」
「ぐえっ! この痛み最高!」
「くっ……ポケットに入ってたパン生地が無事で良かった」
爆風によって研究室のいる人達は方々に吹き飛び、壁や床と衝突する。なお、ラナックは顔を顰めながらパン生地の無事を確かめていた。
ウィルに至って腹部に半割れして固まった状態のサラマンダーの血が飛んできたので前向きのまま吹っ飛ぶ。
「あがっ!」
吹き飛んだウィルは後方にある両開き扉に衝突すると、扉は勢いよく開かれる。そのまま青年は廊下へ飛び出す。
(これ以上はまずい! 確か魔力を纏うことで……!)
彼は壁に激突しそうだったのでリエルに教えてもらったことを思い出した。魔力で体を覆うことによって防御力を高めるということを。
魔力のコントロールは上手くできないがやるしかないと腹を括っていた。
「ふんっ‼︎」
背中が壁に激突する寸前、体内から魔力を引き出す。
その直後、ドンっ! と鈍い音を立てるが。
「やった……!」
多少、打ちつけた後頭部と背中を痛めたが大したダメージは負ってなかった。
(ついに魔力を掌握したんだ!)
ウィルは拳を握りしめて歓喜していたが、
「いやあああああ! 変態よ!」
「え………」
廊下にいる女子生徒がウィルを指でさして嫌悪を露わにしていた。
(一体なんなんだ…………あ…………)
ウィルは自分の体を見て固まる。
あるはずのものがない。
服がない。下着もない。
一張羅を超えてしまった。
魔力のコントロールが未熟故に着ているものを吹き飛ばしてしまったようだ。
「ち、ちが!」
「とうとうやりがったぞ‼︎」
「皆、逃げろ‼︎」
ウィルは弁明しようとするが生徒達は逃げていく。
「超えちゃいけないライン考えろよ‼︎‼︎」
「違うんだよ!」
「こっちくんなああああ!」
背後から声をかけてきた生徒にも弁明しようとするが逃げてしまった。
「誤解だよ! これは誤解なんだよ!」
「何言ってんだ現に裸じゃねぇか!」
黒焦げのゼルがウィルに突っ込む。
「よっぽど欲求不満だったように見える」
「違うわ! えっと、こ、こういう術……特技なんだよ!」
ウィルはラナックの発言を訂正しようとした。
魔法が失われたと言われてるとはいえ様々な種族が共存しているため人間が祖先由来で人智を超えた技能を持っている場合もある。
苦しい言い訳だが自分はこういうことが出来る特技を持っていることにした。
自ら着ているものを吹き飛ばす特技になんの意味があるのかは分からないが。
「ということは! 君は服をむくのが得意ということか!」
研究室から出てきた女性教員が言う。
「ま、マジかよ……怖い……」
「ひぃ……」
研究室から出てきた在校生と新入生は危機感を覚え。
「「「うわああああああ! むかれる‼︎」」」
ゼルとラナックを除いた生徒が走り去って行った。
「あああああああ! なんでこうなるんだよおおお!」
それを見てウィルは頭を抱えて絶叫していた。