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第四三話 学ぶ理由

 新入生に向けて行われる専門科の見学は本館の各教室又はグラウンドを挟んで本館の裏にある二つ塔のうちの一つ――通称『研究棟』の内部にある各研究室で実施し、そこでいつもの授業風景や研究風景は見せてくれるそうだ。


 ウィルは研究棟へ行き、最上階の六階にある魔道工学科か魔道化学科の研究室に行こうとしていた。


(どっちも一番人気だから入学試験の順位的に駄目そう。それに僕はもう――)


 希望する科の定員を超えた場合、入試の成績順で足切りされるので一番人気を争う魔導工学科と魔導理学科を希望してもウィルの希望が通る望みはない。四教科満点とはいえ一教科受けてないせいで八〇位という結果故に。


(――リエルと再会したことでもう目的が果たされてる。少しでも精霊という存在に近づくために学院に入学して精霊工学科とか行くつもりだったけど、今じゃ、あちらこちらに現れるからね)


 ウィルは研究棟の階段を上りながら苦笑した。彼は入学したばかりにも関わらず一丁前(いっちょまえ)に完全燃焼していた。


(見学することで何か興味があることができたらいいんだけど)


 悪い捉え方をすれば今のウィルのスタンスは『どうにかして僕を楽しませてくれよ』と言わんばかりの上から目線である。


 研究棟六階に到達すると、そこにはエレベータで来た者やウィルのように階段を上ってきた生徒で廊下はごった返していた。


「うわぁ……」

 

 人々を見てウィルは声を漏らす。

 研究棟の廊下は回廊となっており、その中心と外側に研究室、休憩室等の部屋がある。


 ウィルは魔導理学科の研究室に入ろうとすると、


「いや、お前はそこに入ったらだめだろ」


 通りすがりのゼルに咎められた。


「おはようゼル、ってなんで入ったら駄目なんだよ」

「入試で化学のテスト受けてない奴が理学と名がつく科に入るのは冒涜すぎるぜ」

「君はまだ僕のことを理解できてないみたいだね」

「え?」


 ゼルは小首を傾げる。


「裸同然の格好でテストを受けた僕に失うものなんてないんだよ」


 と、言ってウィルは中指で眼鏡をグイッと上げた。


「お前も逞しくなったな……」


 呆れたような目をするゼルだが思い出したように言葉を紡ぐ。


「そうだ。ついさっきのガイダンスでお前の新しい名前が生徒の間で決まったぜ」

「いやいや、今日は何もしてないんだけど。先生勝手に狼に変身してたし」

「鬼畜パン野郎だってさ」

「何がどうなってそう呼ばれたかは分からないけども、あのパン狂いのせいなのは違いない」


 そう言って、嘆息するウィル。


「なんでもラナックはお前に妹を人質にされて無理やりパンを作らされてることになっている」

「えっ! ラナックに妹いたの⁉︎」

「何⁉︎ 私に妹がいるのか⁉︎」


 ウィルがゼルに泡を食ったように問うと、どこからともなく突然現れたラナックが口を挟む。


「なんでラナックも驚いてるんだよ」


 ウィルは呆れていた。


「私に妹なぞ、いないからね」

「僕が君の妹を人質にとってることになってるんだけど」

「それはパン作りに緊張感を持たすための設定だ」

「お前の都合かよ」


 最後にゼルがぼそりと言った。

 

 そのあと、ウィルら三人は重厚感のある両開きの扉を開けて魔導理学科の研究室に入ろうとするが、


「うわああああああ! 助けてくれ!」

「命が! 命がいくつあっても足りない‼︎」

「長生き! 長生きがしたいよ!」


 扉を開けると数人の新入生が飛び出して走り去って行った。


「うわっ!」


 と、ウィルは思わず尻餅をついてしまった。

 それを見た廊下にいる生徒達は不思議そうな顔をして逃げた人達を目で追っていた。


「なんだが穏やかじゃないぜ」


 ゼルはどこか楽しげだったが、この台詞を言いたかっただけなので他意はない。


「うわっ! 押すなよ! 待て待て!」


 ウィルが立ち上がると研究室を入ろうとした生徒達に背中を押されていた。見学はしたいが逃げた人達を見て危険を察知したのでウィルを盾にしようとしたのだ。


(この変態なら犠牲になってもいい)


 と、皆思っていた。

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