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ウィルの学院譚〜魔法が失われた世界で精霊と共に〜  作者: ネイン


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第三七話 入学式②

 アダムイブ学院の東館四階にある多目的ホールで入学式が行われていた。多目的ホールは二階席がある構造で収容人数は一〇〇〇人。


 今年の入学者数は例年通り一五〇名だが民間企業及び国営企業に勤めている重役、また、国や地方公共団体の公務員や政治家等の来賓客達がほとんどの席を埋めている。


 そして最前列の席に居座ってるのはそんな企業や政治家に出資し、実質的に世界を統べていると言っても過言ではない旧三大名家――ルーデリカ家、グロウディスク家の当主と新三大名家――アルデン家、フーフール家の当主がいた。


 ちなみにアルデン家はハーフリング(見た目は人間族だが平均身長は人間族の半分で寿命は倍の種族)の一族であり、フーフール家はヴァンピール(人間族とヴァンパイアが混じった存在の末裔)の一族である。今のヴァンピールは血を摂取せずとも食事だけで生きていける。


「で、では次は学長のあ、挨拶です!」


 ビックゲストだらけなので壇上にいる司会は噛みまくっていた。そして、舞台袖からは学長と思われる人物が登場し、講演用の台の前に立って客席と向かい合う。


「おほん!」


 咳払いをする学長。少しぽっちゃりでスキンヘッドの六〇代男性だ。彼は原稿用紙を懐から出して台の上に置き、一呼吸してから原稿を読み始める。


「これを読んでいる頃、私はもういないでしょう――」

「「「⁉︎」」」


 客席にいる人達に動揺が走る。このおじさんはいきなり何を言ってるんだと。そこにいるじゃん、と言いたいのをグッと堪えていた。


「――トレイやお風呂から出たあとはちゃんと電気を消していますか? ご飯は食べ…………おっと、すまんわい。原稿を間違えたわい」


 校長は新たに原稿を懐から取り出す。

 ほっとした一同だったが、何と間違えたのか気になっている人もいた。


「入学おめでとう!」


 学長は高らかに言い、


「以上です」

「「「ええっ!」」」


 挨拶を終わらせた。これにも生徒は動揺するが短い挨拶は例年通りなので来賓客は沈黙を保っていた。


「とぅ、次は副学長の挨拶です!」


 少し噛みかけた司会。

 副学長は舞台袖から学長と入れ替わるように現れた。校長と違い原稿用紙は出さずに喋り始める。


「諸君、アダムイブ学院への入学おめでとう。本学院を代表し、心から祝福して歓迎しよう。諸君は学院生活に夢と期待に胸を膨らませていると思われる。副学長として――」


 少し上から目線という点と学長を差し置いて代表を名乗り出ている点を除けば、ありきたりで無難な祝辞の言葉を新入生に送っていた。


「――最後に一つ、注意喚起をしようかね」


 挨拶の言葉を言い終えると、言葉を付けたしながら前方にいる学生を見据える。


「学則に違反する者に対しては戒告も指導も停学もせん。行われるのは退学処分のみ。最悪の場合、警察や公安委員のお世話になるだろう。諸君がモラルある優秀な学生であることを願う。入学試験に騒ぎを起こした者も入学してからは慎むように」


 と、副学長が言い終えるとほとんどの生徒が後ろを振り向く。生徒一団の一番後ろに騒ぎを起こしたウィルが座っているからだ。

 なお、ウィルは振り向かれたので反射的に顔を逸らす。すると、右隣にいるクルーナを見ることになった。


「皆、君のことを見てるね」

「貴方でしょ!」


 クルーナは心外だった。

 

 また、ウィルの左隣にはゼル、ラナックが順に座っており、ラナックはウィルを見るために振り向いてきた人達を見ながら口を開ける。


「これがエルフ族の宿命か……私の容姿を思わず見てしまうようだ」

「お前じゃねぇよ」


 うんうんと頷くラナックにゼルは言う。


「つ、次は、新入生代表の宣誓!」


 すでに副学長は壇上から消えており、司会が発言していた。


「……」


 新入生代表――入学試験の成績が一位であるベルリックは嘆息しながら立ち上がる。生徒と来賓客からは期待と熱を込もった視線が送られていた。


 ベルリックは壇上に上がるためにひな壇に向かっていると。


 学長、副学長が出入りしていた舞台袖の反対側から現れる人物がいた。


「なっ!」


 ウィルは思わず立ち上がる。

 現れたのはリエルだった。しかも、実体化している。

 ウィルは彼女が霊体化し、彷徨っているうちにここに迷い込んでしまったと判断していた。

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