第三六話 入学式①
ウィルは無我夢中で走り、学院前に辿り着くが。
「はぁ……はぁ……」
息を乱しながら校門前にある時計塔を見ると、
「まぁ、うん、間に合うわけないよね」
時計の針を見るに九時五分を示しているのが分かる。入学式が始まってから五分は経っていた。
しかし、交通機関を利用してもユーラ家からアダムイブ学院まで最短三〇分で着くので、
(電車に乗ってるとき以外はずっと走ってたけど、ニ〇分で着くような距離だったかな?)
ウィルは不思議に思い、すぐにリエルの顔を思い浮かべる。やはり、精霊と契約したこと何かしらの身体機能が向上したのではないかと勘繰っていた。
(もしかしたら、リエルのおかげで物凄いパワーを手に入れたのかもしれない)
ウィルは右足を後ろに引いて、入学式を開催している多目的ホールがある東館を見据え、
「とうっ!」
膝のバネを使って跳ねる! 彼は校門前から東館まで一気に跳躍しようした。
「…………」
なお、体一個分前に進んだ模様。
「やめよう……ん?」
「うわ」
ウィルの前方には校門で遅れた生徒がいないかを待っている事務員のお姉さんがおり、ひとりでに跳躍した青年を見て引きつった顔をしていた。
ウィルは顔伏せて学院の敷地内に入っていく。
――東館に入ったウィル。この建物は四階建てだ。一階から二階にはパーティ、ダンス、セミナー、会議等で利用される多目的室がある。
また、三階にはカフェテリアがあり、目的地である多目的ホールは四階にある。
ウィルはエレベーターで一階から四階へと移動することにした。
ティーン!
とエレベーターの到着音が鳴り、青年は四階へと足を踏み入れる。そのまま多目的ホール向かおうとするが。
(あれはゼルにラナック……それにクルーナと学院の先生かな? 何をしてるんだろう)
やましことは何もないのだがウィルは柱に隠れて四人の様子を窺うことにした。
「ではウィルグラン・ガードレッドがどういう生徒なのか教えてくれないかね?」
学院の先生と思われる人物――髪色が白く、長髪オールバックの厳格そうな中年男性が前にいる三人に尋ねてた。男性の見た目はほぼ人間族だが、耳が尖っているのでエルフ族の類と思われる。
「一言で言えば露出狂」
「……噂通りか」
ゼルがそんなことを言うと中年男性は納得していた。
(いやいや、何言ってんだよ!)
何故、自分の事を訊かれているのかは分からないがゼルの発言に焦る青年。
「そういえば――」
ラナックは何かを思い出したような顔をし、言葉を紡ぐ。
「試験中にパン生地を捏ねていた。隣の席だったから良く覚えている」
「試験をなめ腐っているということか」
至って真面目に語るラナック。
中年男性は懐からペンとメモ帳を取り出しサラサラっと何かを書いていた。
(パンを捏ねてたのはラナックだろ! なに平気な顔して嘘ついてんだあいつ!)
ウィルは柱から今にも身を乗り出しそうになっていた。その上、明らかに自分の事がメモされているので恐怖すら感じていた。
「それと彼は興奮すると緑色に発光するわ。ホテルで私に迫ろうとしたとき一瞬だけど光ってたかしら」
「「「っ⁉︎」」」
クルーナの発言に息を呑む三人。
(いや、迫ってないから‼︎ 魔力がコントロールできなくて体から漏れたせいだから!)
ウィルは右手のひらを額に当てて俯く。本来、魔力はこの世に存在しないとされているためどうしようもなかった。
「マジかよ」
「やはり得体の知れない生き物だなウィルグラン」
と、ゼル、ラナックは感想を言う。
「今まで集めた情報から、ガードレッドという問題児は露出狂で女癖が悪く学問を舐め腐ってる青年。さらにいかがわしいお店の店長をやっており、人に殴打されるのも殴打するのも好きで尚且つニーソ好きでもあり、試験中はパンを捏ねたり投げ飛ばしたりする癖がある。そして、緑色に発光すると……ご協力感謝する」
そう言って、中年男性は背を向け、その場を離れて多目的ホールに入室した。
「ほぼ間違ってるから! そんな人間いてたまるか!」
「あら、いたのね。貴方がそんな人間よ」
ウィルは狼狽しながら姿を表すとクルーナは淡々と喋る。
「面白おかしくしといたぜ」
「私達は友達だからな、君をエンターテイメント性溢れる人間族として認識されるようにした」
「あの人、副学長かよ! 明らかに危険人物として君達に僕の事を聴取してなかった?」
悪友のイカれっぷりにウィルは目眩がしそうだった。
「ところでなぜ、寝巻き姿なのかしら?」
「遅刻しそうになったからだよ」
「どうせ遅れるなら、せめて身なりをちゃんとするべきでは?」
「うん。朝は気が動転してて焦ってました」
クルーナに指摘される青年。
ウィルは思わず敬語を使っていた。
「そういや、副学長が集めた情報はほぼ間違ってるって言ってたよな」
「え、うん」
青年はゼルの言葉を肯定する。
「逆に合ってるところどれだよ」
「緑に発光するところだよ」
「は……? お前って人間に擬態した蛍、だったりしないよな」
「そんなわけあるか」
「じゃあ発光すんなよ‼︎」
心から思った事を口にするゼルだった。




