第三四話 一度あることは二度ある
ウィルは床に寝転ぶ。
彼は引き続き、自身の体に起きた変化について考えを巡らせていた。
「んっ」
リエルはスマートフォンをウィルに差し出す。
「もういいの?」
「うん」
ウィルは物を受け取り、なんとなしに携帯の画面を見ると、チーズケーキ特集と書いてあるサイトが開いてあった。
(甘いものが好きなのかな? 今度、買ってきてあげよう)
ウィルは携帯をポケットにしまった。
一方、リエルはテレビを点けていた。
『今年、企画されていた人と人がパイナップルを投げ合うパイナップル祭りですが、大怪我が想定されるため中止となってしまいました』
ローカルニュースの番組をやっており、リポーターが海を背景に嘆いていた。
テレビの画面を見てないものの、リポーターの声が耳に届いたウィルは、
(そもそも、そんな危ない祭り企画するなって)
と、最もなことを思った。
「…………」
ウィルは寝転びながら右手のひらを天井に向ける。彼は意識を右手に集中していた。
(お、きたきた)
彼は右手に魔力が集中するのを感じ――右手が緑色に発光する。それも輝かしいぐらいに。
「おおお! リエル、これもしかして魔力をコントロールできてるってこと?」
ウィルは破顔し、精霊の少女を呼ぶ。
リエルは青年に近づいて発光している手を見る。
「多分ね。こんなにギラギラに光らないと思うの、もっとふわふわした感じで光るかなー?」
「そうなの? じゃあこれ、どういう状態、あ、ちょっと待って止めれない」
ウィルの右手のひらを覆っている光がどんどん大きくなる。当の本人が光の眩さに目を細める。
「え、え、どうなるのこれ!」
もうすでに光は部屋全体を照らすぐらいに大きくなっていた。もはや、ウィルの視界の先にある天井は光が眩しすぎるため見えない。
「そろそろ、どかーんってなると思うよ!」
と、リエルが言った瞬間、
「なんかでたあああああ! うわああ! 天井が‼︎」
右手のひらから緑色の光――円柱状の魔力が放出されると部屋の天井を消し去って天に向かって奔流した。
「ぐええええええっ! 死ぬ死ぬっ!」
際限なく魔力を上空に放出しているため、ウィルは反動で床にメキメキッと体がめり込んでいた。
「死なないで! このっ!」
リエルは魔力を放っているウィルの手の上に向かって回し蹴りをすると、放出され続けた光は途切れて空の向こうに消えていった。
その光景に唖然とするウィルだったが、
「……ありがとう」
上体を起こして礼を言う。
「ふふん。どういたしまして」
対してリエルは誇らしげに胸を張った。
「なんか明るいね」
「だって天井ないもん」
ウィルが立ち上がって上を見る。
一分近く前はそこに天井があったはずだった。
「この天井高いね。鳥が飛んでいるよ」
「違うよウィル君。天井はもうないの。鳥が飛んでいるのはお空だよ?」
ウィルは現実逃避をするも純真なリエルは事実をありのままに言う。
そのあと、青年は視線を空から床へと移す。真下にはへこんでいる床があった。先程、自分自身がめり込んだ場所だ。
「リエル」
「ん?」
「危険な薬品を貯蔵するときは飛散した薬品が溜まるように、この床みたいに傾斜をつけるんだよ」
「何言ってるか全然分からないよ。ウィル君しっかりして!」
急に知っていることを語り始めたウィルの体を揺さぶるリエル。
そんな青年に追い討ちをかけるように点けっぱなしだったテレビの向こうにいる天気予報士が喋り始める。
『明日の降水確率は一〇〇パーセントです!』
ウィルの思考は現実を見据え始める。
「終わった……」
このままだと家がびしょ濡れになると。