第三三話 復活した自宅
合格発表から五日後。
入学式を間近に控えた頃。ウィルはホテルに仮住まいしていたが以前、住んでいた仮設住宅の再建が終わったので早朝から自宅に戻っていた。
「ただいま」
ウィルは自宅の玄関を開けてエントランスに入る。
今日の彼はちゃんと服を着ているようだ。また、今の視力に合うように度を変えた眼鏡を掛けている。
「たっだいまー」
「うわっ!」
廊下を歩いていると横の壁からぬめりと半透明のリエルが急に出てきたのでウィルは腰を抜かし、尻餅をつく。
「ふ、普通に入ってこようよ」
「びっくりした? ウィル君を驚かしたかったの」
悪戯っぽい笑みを浮かべるリエルは実体化する。
「うん、というか普通に怖かったよ」
霊体化したリエルはあらゆる物質を通り抜けることができると知っていたウィルだったが突然のことだったので肝を冷やしていた。
「ウィル君のお部屋、楽しみっ」
リエルはるんるん気分で廊下の先にある六畳一間の部屋へと向かった。
「部屋にはほとんど何もないよ」
ウィルはリエルに家具ごと家を破壊されたからね、と内心で言葉を付け加え、六畳一間の部屋へと向かった。
「テレビ以外、全滅みたいだね。とりあえず家具を注文しないと……」
部屋に入ったウィルは壁に設置されてある薄型テレビの近くに寄る。すると、リエルが横から青年の服の裾を優しくちょんちょんと引っ張る。
「どうしたの?」
ウィルは首を傾げて尋ねる。
「ウィル君、もうすぐ学校が始まるんでしょ?」
「うん」
「ウィル君と離れてても話せるようになりたいからリエルもスマートフォン欲しいの」
その言葉に青年は思案顔をする。
「んースマートフォンを持たせたいのは山々なんだけどリエルの場合、未登録の住人だから難しいんだよ。身分証を手に入れる以前に戸籍を登録しなきゃいけないし」
「そっか……残念」
「ほら、念話とかで話せない? リエルと僕なら出来るんでしょ?」
リエルの声のトーンが明らかに落ちたのでウィルはなんとかテンションを上げさせようと話題を捻りだした。
「そんなに便利なものじゃないもん」
「……まぁ、離れすぎたら出来ないか」
「うん。多分、二キロ以内じゃないと念話できない」
「え! 広っ! 学院までは届かないけどそれはそれで凄いよ」
ついつい感心するウィルだった。
そのとき、ポケットに入っているスマートフォンが振動する。
「なんだろう」
ウィルは懐から物を取り出すと、メールが届いたことが分かった。
「えっとなになに?」
ウィルは床に座ってメールを開くと、アダムイブ学院の在校生向けに発信しているメールマガジンが届いたことが分かった。
「リエルも見るー」
「いいよ」
リエルが横で女の子座りをすると、ウィルはスマートフォンを彼女が見える位置に持っていく。
二人はメールマガジンを読み始めると見出しには、
『入学試験お疲れ様です! 合格おめでとうございます!』
と書かれており、入学試験を合格した人達への賛辞と労いの言葉がつらつらと載ってあった。いわゆる社交辞令だ。
次にウィルは人差し指を使って画面を下へとスライドさせると『今年のコラム第一弾』というタイトルで添付されているファイルがあったので、それを開くと、
『前代未聞の試験結果! 三つ巴の戦いか? 天才クロディスク家のご子息、秀才ルーデリカ家のご令嬢、そして四教科のみで試験を合格し、乱痴気騒ぎを起こした手抜きの変態ガードレッ――』
ウィルは携帯の電源を落とした。
「えー! 見たかったのに!」
リエルは駄々を捏ねる。
「僕は嫌だよ。だいたい、手抜きの変態ってなんだよ。字面が酷すぎる」
「じゃあ、リエルだけ見るから貸してっ」
「どうぞ」
「ありがと!」
ウィルは快くスマートフォンを精霊の少女に貸した。
彼は気分転換に別のことを考える。
(リエルと契約したときは体の部分的なところでしか魔力を感じれなかったけど、今は全身に――体の隅々まで水が伝うみたいに感じ取れる。それに視力も前より良くなってるし……なんなんだろう)
ウィルは自分の体に起きている変化を把握していた。




