第三〇話 三者②
円状に立ち並んでいる人達の中心にウィル、クルーナ、ベルリックの三者が顔を見交わしていた。また、ウィルの横にはリエルがいる。
「一体、なんの用でしょうか……」
ウィルは恐る恐る、敬語で訊く。
「貴方がしたこと、忘れたとは言わさないわ」
クルーナは腕を組んで毅然としていた。
「もしかして、ホテルのこと?」
「ホテル……?」
ウィルの予想にクルーナは疑問を抱いて呟き、少しすると、
「あっ……そんなこともあったかしら……」
クルーナはハッとし尻すぼみ言うも、
「それより! 貴方は私との戦いを弄んだわ!」
すぐに気を取り直して捲し立てた。
ウィルからすればなんのことかさっぱりだったが少し安心していた。
(フィユドレー家の事はバレてないみたいだ。良かった良かった)
彼は胸をほっと撫で下ろし、クルーナを見据える。
「あの、何が言いたいのかさっぱりなんだけど」
「私から説明させるわけね。屈辱的だわ、だからこそ叩きのめしがいがあるのかしら」
そう言って、クルーナは言葉を紡ぐ。
「貴方が入試試験を四科目しか受けなかった魂胆が見えたのよ」
「いや、だから遅刻したせいだって」
「そう、受けるまでもなかったのよ! 事実、貴方は四科目だけで受かってるから!」
「話聞けよ、ってかなんで受かってること知ってんの……」
ウィルは呆れ気味に言うと、
「誰だと思ってるのかしら? ルーデリカ家の次期当主よ。欲しい情報なんて手元にいくらでも転がってくるわ」
「酷い社会だ」
クルーナがキッパリと言うとウィルは嘆息していた。
「とにかく貴方は試験を、そして私との勝負を舐めてた!」
「そうはならないよ!」
泡を食って叫ぶウィル。
「ほんと最低だなあいつ、クルーナ様は黒いニーソまであげたというのに」
「この手抜き野郎!」
「普通にクルーナ様と仲良くて羨ましいぞ!」
「横にいる緑の髪の子は妹ですか? 俺に紹介して下さいお兄さん」
周囲の人々は青年を非難した。一部、非難と言えない声もあるが。
そんな人達をウィルは冷ややかな目で見る。
「結局、なんでこんなにギャラリーが多いのか分からないんだけど」
「クルーナ嬢と俺、そしてあんたが実質的に入試の成績が上位三名になるからだろう。民衆は沸き立って飢えている、名家のご子息ご令嬢が異物と闘うのことでその飢え癒されるといったところだろう」
青年の疑問にベルリックが答え、
「誰が異物だよ」
ウィルは反駁する。
「この人、ウィル君に悪いこと言ったの? 倒していい?」
「いやいや駄目だよ。学院が壊れちゃう」
「じゃあ何もしないでおくー」
ウィルは自身の家が半壊したことを思い出しながら、攻撃的なリエルを宥める。
「そもそも上位三名って、僕じゃなくて三位の人が妥当でしょ」
「掲示板をよくみなさないな」
クルーナに促され掲示板を確認するウィル。まず一番上には、
『一位・受験番号ニ三九九・合計点九六ニ』
その下は、
『二位・受験番号ニ五ニ五・合計点九六〇』
と記載しており、最後にウィルは三位を確認する。
『三位・受験番号一一一四・合計点九一七』
と載っていた。
三位と二位の間にある程度の点差があったのだ。そもそも去年の最高点は九三〇点なので三人が注目されるのは必然。くわえて、旧三大名家の次期当主が二人もいると認知されているのだから話題性は抜群。
(三位と二位との点差が大きいせいで四教科で満点を取った僕が唯一、この人達に成績で太刀打ちできる存在になったってことかな。それでこんなに注目されてるわけだ。まぁ……僕が色々とやらかしたのもあると思うけど)
ようやく状況を察したウィルだった。
「いや、まぁ、入試の結果は学院の生活で有利に働くことはあるけど、正直これからどうするかが一番重要だよ」
「そういう最もな意見はいらないわよ」
「えぇ……」
クルーナの発言に戸惑うウィル。
「あんたが知ってるかは分からないが実質的に世界を牛耳っている名家が黒を白と言えば白になる。その上、経済や政治を操作できる以上、反発する者も多い、謀略を仕掛ける者もいる。そのために力が必要だ。俺達は今を全力に生きて世界に台頭する」
「まぁ、うん、そうだね」
ベルリックの考えに理解を示すも、ウィルは憂鬱だった。クルーナに続いてベルリックという自称ライバルがまた増えるのかと。
「そういえばどっちが一位なの?」
「…………」
クルーナは悔しそうな顔をし、無言でウィルに手の甲を向けて指を二本立てる。つまり、ベルリックが一位だ。