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第ニ四話 言いたかった言葉

「ウィルちゃん。駄目よ! エナとその子で二股なんて」

「そんなことしてませんって」

「そもそもお兄さんと付き合ってないから」


 雑貨喫茶『悠々自適』の店内にあるカウンターの向こう側にエナの母――テレンがいる。

 そのカウンターを挟んでウィル、リエル、エナの順で席に着いていて。


「隣が良いっ」


 リエルは自身が座っている椅子を持って、ウィルの真横に移動した。


「その子はどこの誰なんですか?」


 と、エナがウィルに問うがリエルが口を開く。


「リエルは精霊だよっ」

「そういうのはいいですよ」


 エナがあしらうと、


「ほんとなのに、ぶーぶー」


 そう言って、リエルは片頬を小さく膨らませた。


「えっと、近所の子だよ」

「違うのに! ウィル君と一緒に住んでるのに!」

「まぁ……たまに預かったりしてる? みたいな感じ……」


 リエルに速攻で言い返されたのでウィルは言い淀んでしまう。


「エナと一緒に暮らして私を養う約束はどうなったのよ⁉︎」

「もう、話がややこしくなるからあっち行ってよ」


 口を挟んできたテレンを諌めるエナ。


「つれない子ね。このこのっ」

「……うざい」


 テレンはエナの頬を人差し指でつんつんと叩いたあと、


「あ、そうだわ! 雇ってあげるからアルバイトしない? お給料は他の二人ともちろん一緒よ」


 思いついたことを口にする。


「ウィル君と一緒にいれるってこと?」

「そうよ」

「やるっ!」


 リエルをカウンターから身を乗り出して答える。


「やったわ! また安い賃金で労働力を手に入れたわ!」


 そんなテレンをウィルとエナはジト目で見ていた。


――厨房室にある事務室にて。

 ウィルはリエルの服が汚れないようにエプロンを探していた。


「ここに来たのは別にいいんだけど……どうやって僕より先に着いたの?」


 リエルと二人っきりの状態なのでウィルは気になっていたことを訊く。


「霊体化して、びゅーんって飛んでたら大きな木が見えたから、気になって来たの」

「そんな簡単に移動できるんだ」


 ちょっと霊体化が羨ましいウィルだった。次いで彼は、


「じゃあ、ここで僕に会ったのは偶然ってこと?」

「うんっ」


 ウィルは笑顔を向けてくれるリエルに畳まれたエプロンを渡しあと、リエルをじっと見つめる。

 成り行きで一緒にいるが、なぜ再び姿を現してくれたのか、今まで何をしていたのかなど訊きたいことがまだまだあった。それに最初に言いたいことがあった。


(また現れてくれてありがとう……いや、なんか仰々しい。ずっと会いたかった……いや、ストレート過ぎて恥ずかしいな)


 ウィルは言葉を選んでいた。目の前にいるリエルは疑問符を顔に浮かべる。


「ウィル君?」

「いや、なんでもないんだ」


 青年は目を逸らして言う。


「えー、なになに? ほんとになにもないの?」


 リエルは悪戯っぽい笑みを浮かべてウィルに近づくと、ウィルは前を向いたまま後退する。なんだか気恥ずかしかった。


「リエルっ」

「わっ!」


 壁際まで追い込まれたウィルは意を決してリエルの両肩に手を当てて、動きを抑える。リエルは少しギョッとしていた。


「言いたいことがあるんだ」

「わぁ、リエルなんかドキドキしてきた」

「いや、真面目な話なんだ、えっとそっち系ではなくて」

「そっち系?」

「なんでもない」


 少し早とちりをしたと思ったウィルは一層気恥ずかしくなった。次いで、ふぅと息を吐いてから口を開く。


「君と出会った次の日、大戦が始まって疎開地を転々としてて最終的にはこの島に行き着いたんだ。でもずっと君に会いたいと思ってた。名前を付けるって約束もあったし、あの時の僕にとっては唯一の話し相手だったから。だから今こうして会えて本当に――」


 その時、厨房室と繋がる扉が開いて、


「エプロンありましたか――」


 エナがやって来た。そして、壁際にいるウィルがリエルの両肩に触れているのを見ると、


「お母さーーん! お兄さんが女の子に変なことしてる!」

「ちょっと待て」


 母親の下に行くエナに向けて手を伸ばすウィルだった。ウィルはエナを止めるために事務室から出て行こうとすると背後から、


「リエルはもずっと会いたかった、会えて嬉しかったよ」


 少女は朗らかに言う。


「そっか、ありがとう」


 ウィルは心なしか嬉しそうだった。

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