第ニ〇話 自宅半壊後①
ウィルはリエルを連れて移動する。
向かう先はリエルが生成した木の幹が落ちたであろう場所。人に木の幹がぶつかれば最悪、死人が出ると考えていた。
なお、ブリシュは蔓に絡まって動けない状態なので放置した。
「あったよ!」
リエルは木の幹を見つける。
「思いっきり民家に突き刺さ、あれ、待ってくれ、嘘だろ」
ここは仮設住宅が建ち並ぶ空き地。
ウィルが見慣れた場所だ。
木の幹は仮設住宅の一つに突き刺さっており、日が暮れたにも関わらず野次馬がいる。
ウィルは膝をつき項垂れる。
「どうしたの?」
リエルは心配していた。
「あれ、僕の家なんだ……」
あろうことか半壊した家はウィルの自宅だった。頑張れウィル。
――それから2日後。
家が半壊したこともあり、ウィルはアルバイトを休んでいた。現在、彼は人工島の南西にあるリゾート地区にいる。国が補償としてホテルの部屋を貸し付けてくれたのだ。
ちなみにリエルは公的機関に自重聴取される前に霊体化してウィル以外の人には見えない状態になっている。リエルには戸籍が無いため、ややこしい事態になるのを恐れたウィルが指示をしたのだ。
「初めて来たけど、本当にいい景色だ」
ウィルは南国チックなバルコニーで眼下に広がる海辺を見ていた。
「ウィール君っ!」
「ぐえっ!」
リエルは実体化した瞬間、青年の背後から抱きついた。一方、ウィルは突然のことでバランスを崩してうつ伏せで倒れる。
「ごめんね、お家壊しちゃって」
「う、うん、それはいいけど、どいてくれないかな」
「えー」
馬乗りになっていたリエルは渋々、背中から離れる。
その後、二人は室内へと戻る。室内も南国チックになっており木製の家具が多い。羽付き照明がゆったりと回っていて優雅さを感じさせてくれる。
リエルがベッドに腰掛けるとウィルは壁掛けテレビを点けてローカル局のニュース番組を見る。
『一昨日、住宅街で脱走したブリシュ・ナイガ及び脱走を手引きしたと思われる公安委員会のツハン・ギスを自警団が捕らえたのちに公安委員会に引き渡しました』
と、女性のニュースキャスターが言う。
『また、ギス容疑者は魔法物を使い、青年に暴行を働いた疑いがあります』
青年とはもちろんウィルのことだ。
『また、容疑者は取調べで青年がフィユドレー家の指輪を保持していた、緑髪の女が水を出して木で縛ってきたなどと意味不明な供述をしており――』
ウィルはテレビからリエルに視線を移す。
リエルは「んー?」と表情に疑問符を浮かべた。
(世間は精霊という存在を伝説として扱ってるし魔法物がないと魔法を使えないと思っている。魔法による攻撃手段と武器を持っていないからあの男がどんな供述しても与太話になるはず。僕の指輪はリエルに預けてるし見つかりはしないはず。ただ、問題なのが)
再び視線をテレビに戻す。
『また、被害者である青年の家屋を使えない状態にした疑いもあり、この点については今後調査を進めるとのことです。えー、それでは次のニュースです。ちくわを郵便ポストに入れる悪戯が五〇代男性の間で流行っており――』
ここで別のニュースの話に切り替わる。
(木が家に刺さった件だ。家を壊したのは僕らなのにそれで罪が重くなるのは凄く申し訳ない)
ウィルは嘆息しながら眼鏡を外してレンズを拭いていると、
「ちくわを郵便ポスト入れたら駄目なの?」
「駄目だよ」
リエルの疑問に即答した。




