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第ニ話 遅刻②

 学院内のエントランスにて。


「あのすみせん、受験番号四三四三のウィルグラン・ガードレッドと言います」

「受験生ですね。最初の試験が終わるまで――」


 ウィルはエントランスと隣接してる事務室の小窓に向かって事務員に話し掛け、事務員のお姉さんが対応するも顔を上げて相手を見ると言葉に詰まってしまった。


「ど、どうして濡れてるんですか⁉︎」

「色々と不幸な事故に巻き込まれまして」

「流石にその状態では教室に入らすことができないので医務室で体を乾かして服を借りて下さい」

「あっ……はい……」


 最もなことを言われてしまった模様。


 その後、ウィルは保険医に頭を下げて服を貸してもらうことになった。


「少々待ってくださいねー」


 と言う保険医の先生はロングヘアで有翼人の女性だった。栗色の髪と翼を持ち、柔和な笑顔を向けてくれる。

 その有翼人はカゴにウィルの服を入れて保健室の奥にある部屋へと消えた行った。


(今は人に見られたくないな姿だな)


 ウィルは今、一張羅(いっちょうら)だ。そのため、少し肌寒い。


 彼が医務室で濡れた全身をバスタオルで拭いていると、バタンと廊下と繋がってる扉が勢いよく開かれる。


「ちょりっす! ルアせんせーいる? 暇ぽよ!」


 現れたのは髪の毛の右側がピンク色、左側が緑色をした派手な女性。ただ、見た目の割には童顔である。ウィルは彼女を学院生と判断した。


(うわぁ、なんかすごい人きたよ。見た目といい言葉違いといい)


 青年は萎縮していた。しかし、それは相手も同じである。パンツ一丁で医務室の真ん中で体を拭いてるのだ。


「へ、変質者いるんですけど‼︎」

「ち、違っ」

「マジウケるんですけど、あははははっ‼︎」


 派手な女性は手を叩きながら笑った。

 ウィルは呆れ顔を向けるも変質者として通報されて警察を呼ばれる事態にはならなそうで安心した。


 しかし、


「マジおもしろくて()えそうだからアップしといてあげる」


 女性はハートが描かれてるポップな装飾のハンドバッグから最新の携帯電話端末機――スマートフォンを取り出した。


「いやいや! それは駄目だって!」

「ちょ、邪魔すんなし! てかあたしのスマホに触んな!」


 女性がスマートフォンのカメラを向けてきたのでウェルはそれを握り、カメラを手で覆う。

 対して女性はウィルを引き剥がそうと必死で左右に携帯を振る。


「ふんっ! ふんっ!」

「ぐぇっ! うわっ!」


 左右に振られたウィルは保険医の机に脇腹をぶつけたり、布製のパーテションに体が当たってパーテーションを倒してしまう。

 悲しいかな。青年の力では手を離さないことが背一杯だった。


「マジいい加減にしなよ! 離してって!」

「離すもんか! 僕の人生がかかってるんだよ! うおおおおおおおおお!」

「ひぃ、嫌っ!」


 吹っ切れたウィルの気迫に怯える女性。こんな姿をSNSを晒すわけにはいかない。局所的に画像が広がるならまだしも、万が一にも全国的に広がってしまったら恥ずかしくて外を歩けなくなるので必死だった。


 不思議とテンションが上がってきたウィルとは対照的に女性は怯え始め、ついに目に涙を浮かべ。


「ふ、ふぇぇぇ! 怖いよおお! うぅ」


 その場にへたり込んで泣いてしまった。

この子の情緒はおかしいと思った青年だが流石に泣き出した女性に強く出れなかった。


「えっ、えっとごめん……自分も必死でさ、ついついヒートアップしちゃって」


 彼が申し訳なさそうに弁明した頃。

 キーンコーンカーンコーン。

 一限目の終了を告げるチャイムが鳴り響く。つまり、もうじき二限目にある試験が始まるということだ。


「ごめん! あとで謝るよ!」


 そう言ってウィルは服を求めて保険医がいるであろう医務室の奥の扉を叩く。


「先生! あの替えの服はどうなりましたか!」


 シーンと静寂が訪れる。

 彼の問いに答える者はいない。


「すみません。 開けますよ!」


 扉の先には段上がりの畳スペースがあった。更に奥にはユニットバストに繋がる扉がある。洗濯機がガタガタと音を立てているため服を洗濯してくれたことが分かる。

 しかし問題点がある。畳の上には小型テレビ、ちゃぶ台、そして、


「むにゃむにゃ……すぴー……」


 布団を敷いて寝ている保険医が居た。


「なんで寝てるんだよ! 先生! 替えの服はどこですか!」


 しかし保険医は起きず。


「オゥ…………」


 ウィルの絶望と諦めが入り混じった鳴き声が部屋に響くだけだった。

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