第一九話 再会③
リエルはウィルから離れて階段を下りた。
「何をするつも――!」
精霊の少女に声を掛けようとしたウィルだが口を噤む。半透明だったリエルはじわじわと実体化していたのだ。
「なっ!」
スーツの男は突如、現れた少女に驚嘆するもウィル同様、魔法物を使用したと勘繰った。
「絶対に許さないよ」
リエルの声色こそ変わらないが憤りを覚えていた。
「お前も魔法物を持っているみたいだな。差し出せ」
「うるさいっ」
「ちっ、痛い目に合わないと分からないみたいだな。悪いが撃っちまうぞ」
聞く耳を持たないリエルにイラっとした男は舌打ちをし、ウォーターガンを構え、
再びゴオオオ‼︎ と水を放射した。
「このっ」
リエルは腕を前に大きく振ると前方からウォーターガンと同程度の威力がある水を放った。
放射された水同士は衝突し相殺された。
「じょ、冗談じゃない! 一体どうやって!」
スーツの男は疑問符を投げかける。
対してリエルは 両手のひらを相手に向けた後、拳を握りしめると、
「ばいばいっ!」
「うわぁぁぁぁぁぁぁあああ!」
スーツの男の足元から幾つもの木の幹が絡み合ったものが現れて全身に絡みついた。そして、木の幹はグングンと階段から真横に伸びていく。
「すごい……!」
と呟くウィルだったが、
「え、いやいや、どこまで伸びるんだよ」
木の幹は伸び続け、スーツの男の姿は見る見るうちに小さくなる。それは住宅街上空にまで届いた。結果、木の幹の長さは五〇〇メートル。
「ひょ、ひょぇ〜」
腰を抜かした脱走犯は女の子座りをして頭上にある木の幹を見ていた。
「ねぇ! どうどう? ウィル君!」
「えっと、助かったよ」
「えへへ」
リエルは屈託のない笑顔を見せる。
ウィルは立ち上がり、リエルの近くに寄るために階段を下りた。
(あれ……傷が塞がってる?)
銃弾が掠ったはずの手のひらを見ると血が止まり傷が完全に塞がっていた。精霊――リエルと契約したおかげなのかと彼は思った。
「あの人も悪い人?」
「良いか悪いかで言ったら悪い人だよ。なにをしたかは知らないけど脱走した人だしね」
「じゃあ捕まえよう! えいっ!」
リエルが右手の人差し指と中指をブリシュに向けると、指先から蔓が飛び出してブリシュに絡みつく。
「た、助けてよう! 俺は脅されてただけなんだよう」
脱走犯は首から下が蔓に覆われててミノムシのようになっていた。くねくねともがいていた。
「えっと、リエル?」
「うん、なぁに?」
「次から人を捕まえるときはさっきみたいに大きい木の幹はやめた方がいいと思うんだ。町の人がびっくりするし被害が出るかもしれないから」
「うんっ」
元気よく頷くリエル。ウィルは素直な子だなと思った。
「俺をどうする気だよう!」
ブリシュは近づいてきた二人に言う。
「どうもしないよ。どうせ君は捕まる。この大きな木のおかげで異変が起きてるのは確かだからすぐに警察が駆けつけてくるはず」
「こんなことなら……協力するんじゃなかったよう……」
「君が反省する点はそこじゃないよ。そもそも捕まるようなことをしなければこんなことにはならないんだから」
「…………」
くねくねと動いていたブリシュだったがウィルの言葉に動きを止めた。
「君は一体何をして捕まったんだ?」
「窃盗だよう」
「何を盗んだ?」
「ノートとシャーペンだよう」
「えっ?」
大それた物を盗まれたと思ってたウィルは拍子抜けした。
「なんでそんな物を?」
「大人になってよう学歴コンプレックスが発動してようアダムイブ学院を受験しようと思って勉強のために買ったんだよう」
「ノートとシャーペンぐらい普通に働いて買おうよ」
正論を言うウィルだった。
その直後耳に届く、
メキメキッ、メキメキッ。
と何かが軋む音。
「あっ」
「え、まさか」
リエルが声を上げて自身が生成した幹を見上げてるとウィルも目線をつられて何かを察する。
「待って、不味いって!」
焦るウィルだがどうすることもできない。
バキバキッボキッ‼︎ と、五〇〇メートある幹の先が折れた。
そのまま住宅街に落下し、確実に一棟の建物が崩壊する音が聞こえた。
「あああああああああああ!」
ウィルは絶叫した模様。