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第一六話 挟撃の階段

 視界が煙一杯の中、脱走犯の持っているアミュレットはウィルがいるであろう方向に引きつけられる。


「そこかよう! へい!」


 ブリシュはアミュレットが指した方向に走る。

 対してウィルは「『クリア』」と呟いて中指の指輪に込められた魔法を発動する。


「出て来いよう」


 ブリシュはウィルがいる方向へと進んでいるはずなのに姿が一切見えなかった。それもそのはず、ウィルが先程、発動した魔法は五秒間ほど自身を透明化するものだ。


(この階段を降りれば住宅街だ)


 ウィルの目の前には高台の公園の出入口となっている階段がある。一定間隔に踏み面が広い踊り場がある構造だ。彼は魔法の効力切れを恐れて再び「『クリア』」と言う。


「くそ〜、どこだよう!」


 脱走犯も出入り口となっている階段へと出る。その頃、ウィルはすでに階段を降りてる最中だ。


(あのアミュレットが厄介だ。このまま警察か公安委員の所まで駆け込もうか)


 その時、階段下に黒スーツを着た男が近づいてくるのが見えた。その男の襟元には青いコスモスのバッジ――公安委員会に所属する人が付ける紀章があった。


 この公安委員会というのは国家の行政機関である市警察と並ぶ組織である。この国では市警察が管轄する市でしか捜査権がないのに対して公安委員会は複数の市にまたがる犯罪を捜査することができる。また、公安委員会と警察より権力は劣るが自警団という組織もある。


「た、助かった」


 一息つき安堵するウィル。時間経過によって透明化の魔法の効力が切れるがおかまいなしだ。助けを求めなければ。


「脱走犯に、はぁ……はぁ……追われてるんです」


 息絶え絶えの青年は踊り場で立ち止まる。一方、スーツの男はウィルが突然現れたので目を見開いていた。次いでスーツの男は階段を下りている脱走犯を見る。


「なんの騒ぎだ。せっかく脱走させたのに水の泡にするつもりか」

「違うんだよう! そいつが魔法物(マジックアイテム)持ってるんだよう」


 脱走犯は立ち止まり、訳を話すとスーツの男は「何?」と呟く。

 なお、この場で一番困惑しているのは当然、ウィルだった。


「えっ……」


 今の僅かな会話だけでも分かる。目の前のスーツの男は公安委員会だがブリシュの脱走を手引きした人でもあると。囚人を逃してなんのメリットがあるのかは分からないが、今はそんなことを考えている余裕はなかった。


(参った。これは詰みかもしれない)


 ウィルは左手に嵌められた指輪に視線を向ける。親指、薬指、小指の指輪に込められた魔法は順に『ヒール』――傷の治癒、『ウィンドウ』――殺傷力(ゼロ)の突風、『フラッシュ』――強烈な光の放出だ。


 唯一使えそうなのは目眩しに使える『フラッシュ』だが一対ニの状況かつ、相対する者が前後にいるので危険な賭けになる。


「坊主。その指輪があいつの言う魔法物(マジックアイテム)だな」


 スーツの男は懐から自動拳銃を取り出してウィルに銃口を向ける。彼は「動いたら撃つ」と脅した。

 ウィルの呼吸は緊張で浅くなるがなんとか口を開く。


「……あ、あなた達の目的は一体なんですか」

「………」


 男は押し黙る。


「あの男が持っているアミュレットは貴重な物のはずです。護送車から脱走したと聞きましたが乗り合わせてた公安委員が持っているとは思えません。脱走犯を利用して保管されているアミュレットを盗んだ、ということですか?」


 ウィルは思いつく限りの推測を言う。相手の目的を知りたいわけではない喋りながらこの場を脱するための策を考えようとしていた。


「俺も坊主に問いたい。世界的な名家と政府の組織しか保有してないはずの魔法物(マジックアイテム)をなぜ持っている?」

「拾い……ました」

「まぁなんだっていい奪うだけだ」

「俺も話に混ぜてくれよう!」


 脱走犯はスキップしながらウィルの背後まで迫っていた。

 銃を向けてきている階段下の男と背後にいる脱走犯との距離はそれぞれ、直線にして三メートルとニメートル。もう逃げ場はなかった。

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