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最終話 精霊と共に②

 その日の午後。


 ウィルが受けている専攻科――精霊遊学科の授業が始まろうとしていた。小教室にはウィル、ゼル、ラナック、クルーナ、パプリカの面々が着席していた。


 ゼルは周りを見渡す。


「先生まだこねぇぞ」

「最近知り合ったっていう精霊に詳しい人を連れてくるらしいよ」


 ウィルはゼルの疑問に答えた。


「へぇー、なんでそんなこと知ってんだ」

「いや、グループチャットで連絡きてたよ」


 ウィルは呆れ気味に答えるとゼルは不思議そうな顔をした。


「グループチャット? なんだそりゃ」

「いやトークアプリのグループチャットのことだよ」

「いや知らねぇんだけど」

「あっ」


 ウィルはゼルを誘うのを忘れていた。


(そういえば、ゼルが休んでた日にグループ作ったんだっけ。僕があとからゼルを誘うって言ってたけど、色々あって忘れてたんだっけ。森林地区での戦いの前だっけ……いや、AIロボットと戦う前だっけ……駄目だ覚えてないや)


 グループチャットを作った日すら覚えてなかった。戦いで日々を忙殺されていた。


 ゼルは慌てふためく。


「ど、どういうことだ! ラナック! お前は誘われていたのか!」

「当然だ。ゼルここだけの話だが、君はハブられている」


 ラナックは適当なことを言う。


「そんな……」


 ゼルは絶望し、項垂(うなだ)れた。


「なに嘘ついてんだよラナック」


 ウィルはラナックを咎めた。


「嘘?」


 ゼルの目に希望の灯が宿る。


「ゼルが休みの日にグループを作ったんだよ。ハブられてるとかそんなんじゃないから」

「なんだよ、そんなことだろうとは思ったぜ」


 気を取り直したゼルだが、パプリカとスマホで絵しりとりしているクルーナがあることをウィルに指摘する。


「貴方グループ作るとき、あとからゼル・レイッサを誘うとかいってなかったかしら」

「え、ウィル、どういうことだよ。連絡なかったぞ」


 戸惑うゼルはウィルを問い詰める。


「…………コホン」


 ウィルは誤魔化すようにそっぽを向いて咳払いをする。彼は事情を説明するとき、責められないよう、不利なことを言わなかった。


 パプリカは手を止めてぽつりと言う。


「ウィル様、ゼル様のこと普通に忘れてたってこと……?」

「あはは、最近、忙しかったから」


 ウィルは後頭部を掻く。


「嘘だろ⁉ どうかしてるぜ!」


 ゼルが驚嘆していると、ラナックが口を開く。

 

「諦めろゼル。ウィルグランは女のことは覚えるが男のことは覚えない生き物だ」

「それもそうか」


 ゼルは納得し矛を収める。


「なんで納得してんだよ」


 ウィルはラナックに抗議したくなるが、ゼルに責め立てられなくなったのでこれで良しとして何も言わなかった。


パプリカは鼻をスンスンと鳴らしてウィルに話しかける。


「あのウィル様、変なこと聞いていい?」

「いいよ」

「ウィル様の戦闘力が上がってる気がする、かな?」

「せ、戦闘力⁉」


 パプリカが言わなそうな単語が飛び出してきたのでウィルは驚く。


「私たち竜人族は鼻がいいだけじゃなく、匂いで色んな情報を取得できるの。それに他の種族より戦闘に特化してるから、その辺のことに敏感かな」

「なにそれ(すご)っ、というか怖い」

「ふふっ」


 パプリカはおしとやかに笑う。


「正直、パプリカちゃんって、か弱いイメージだったけど、竜族だからそんなことないんだよね」

「どうだろ? 試してみる?」

「どうやって?」

「腕相撲とかで」


 パプリカは机の上に肘を置く。パーカー越しだが細めの腕が窺えた。しかし、見た目のか弱さに惑わされてはいけない、竜族は他の種族と比較して筋肉の密度が非常に高い。


「簡単に負けそうで怖いんだけど」


 ウィルはパプリカに応じて手を組もうとするが、


「ちょちょちょちょ! それは駄目だろ! おまっ、手を繋ぐなんて羨ましすぎるだろ! 獣めが!」


 ゼルが腕相撲を阻止した。

 ラナックもゼルと共にウィルを止めようとする。


「パプリカちゃんのマネージャーとして見過ごせんな」

「いつマネージャーになったんだよ、パン屋兼学院生だろ」


 ウィルは事実をラナックにぶつけた。


 そのとき、教室のドアが開く。精霊遊学科を担当しているユリカ・サエがやってきた。


「お待たせ~」


 ユリカは生徒の前に立つ。


「先生、俺、グループチャットに入ってなかったんだけど、ウィルのやつ最低ですよね!」

「先生、ウィルグランが私のパン屋で無銭飲食してました」

「してないって」

「あはは……相変わらずウィルグラン君は人気ね」

「面倒だからって適当に流さないでくださいよ」

「まぁまぁ、落ち着いて」


 早速、賑やかになる一同をユリカは(なだ)めようとした。

 教室内が静かになると、ユリカは話し始める。


「今日は最近、図書館で知り合った人を先生として連れてきました。とっても精霊分野の学問に造詣が深い人でね。先生が尊敬してしまうぐらい博識なのよ。博識のわりには幼い見た目しているから特殊な種族な方だと思うわ」


 その言葉にウィルとクルーナはを思わず怪訝(けげん)そうな顔で目を合わせた。


「入ってきていいわよ」


 ユリカに呼び寄せられて教室のドアが開き、


「どうもっ、リエル先生ですっ」

「「⁉」」


 ウィルの眼鏡をかけたリエルが登場すると、驚愕したウィルとクルーナは椅子から落ちそうになっていた。


 他の三人もリエルと面識があるので、ベルリックやラナックも多少は驚き、パプリカは「あ、リエル様」と呟いた。


「やっほ、ウィル君っ」

「さすがにその登場の仕方は想定してなかったよ」


 ウィルはリエルの不意の登場に慣れていたが、さすがに先生として出てくるのは予想外だった。


「もしかして、皆と知り合い? なら話が早いわ」


 なにも知らないユリカは単にリエルの自己紹介を手短にできると思っていた。


(そりゃ、精霊分野に詳しいだろう……精霊の祖そのものなんだから)


 ウィルはリエルを見て、そう思った。その後、リエルとユリカの話に耳を傾ける一同だった。


――放課後。


 本館の屋上庭園にウィルとリエルがいた。まだ一般生徒に開放されていない場所なので二人以外に人はいない。


 ウィルは柵越しに下校する学院生を見下ろし、横にいるリエルは柵に背中を預けていた。


「どこでユリカ先生と知り合ったんだよ」

「んー、この島にある図書館とか行ってたら何回もユリカちゃんと会って意気投合しちゃったっ」

「先生もクルーナに負けず劣らず精霊が好きだからね。リエルが精霊だって分からなくてもどこかに惹かれたのかも」


 リエルは「そーかな?」と()に落ちない反応をしていた。そのあと、思いだしたように元気よく喋る。


「聞いて聞いてウィル君」

「聞いてるよ」

「リエルね、今度、クルーナちゃんに身分証明書貰うんだっ」

「おお! そういえばルーデリカ家の力で作ってもらうって話してたね。どんな形の証明書か分からないけど用意できてるなら、もうリエルの戸籍は作ってくれてるんじゃないかな」


 ウィルは自分のことのように喜んでいた。


「これで、リエルもスマートフォン手に入れることもできるねっ」

「うん」

「パスポート取って、ウィル君と一緒に色んな国に行けるかもねっ」

「そうだね」

「あとは――」


 リエルは指折り数えながら、今後できることを挙げていた。そんな様子をウィルは微笑ましそうに見ていた。


(そういえば、もうすぐ中間試験だったような。そのあと、期末試験があって夏季休暇か……。しばらく退屈しそうにないや)


 ウィルは春から夏への季節の変わり目を感じる。


「ウィル君、これから楽しみだねっ」

「なんか面白いイベントあったけ?」

「違うよ」


 リエルは口を尖らせたあと嬉しそうに言う。


「ウィル君と一緒にいるのが楽しみなのっ。だってだって、これからユリカちゃんに呼ばれてたまに学院にも行くでしょ、夏は旅行に行くかもしれないでしょ、あ、海に行くのもいいかもっ」

「そういうことね。うん、楽しみだね」


 二人は向かい合う。


「ねぇ、ウィル君、ずっと一緒にいようね」

「ああ……僕たちはずっと一緒だ」


 普段通りの口調。だが言葉には重みがあった、二人だけの誓いの言葉だと通じ合っていた。


 寿命がない精霊と人間では生きる時間が違い過ぎる。そんなことは分かっていたが、二人は今の言葉を言わずにはいられなかった。


「あっ、クルーナちゃんだ!」


 リエルは上空を指差すと、ワイバーンに乗って帰るクルーナがいた。

 

 ウィルは帰っていくクルーナを見上げながら口を開く、


「僕たちも帰ろっか」

「うん!」

 

 ウィルとリエルは帰路につく。


「今日は僕が夕食作るけどなにがいい?」

「クワトロフォルマッジがいいっ」

「なにそれ山脈の名前? クワトロフォルマッジ山脈とかありそう」

「違うもん。四種類以上のチーズを使って作るピザなのっ、ハチミツで味付けするんだよっ」

「ハードル高すぎるんですけど、もっと簡単なのにして」

「えー」


 二人の物語はまだ始まったばかりだ。はちゃめちゃで、ときには戦い、ときにはほっこりする。そんな二人の日常はこれからも続くだろう。

読んでいただきありがとうございます。

掘り下げてない部分がまだあると思いますが物語として区切りがいいので完結させました。

本作品を読んで楽しんで頂けたらなにより嬉しいです。


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