第一一六話 次元が違う
イフリータはリエルに敵意たっぷりの視線を送る。
敵の視線に気づいたリエルはなんともないような顔をしながら構える。
(馬鹿息子めが)
他方、グリアードはグラウンドに現れた息子――ベルリックを睨む。
(親父。こんなことをしても母は返ってこない。いや返ってこないからこそ、世界を乱暴なやり方で変えることで満足しようとしているのか)
父親と目を合わすベルリックは憐憫な眼差しを送った。
リエルは背中を向けながらウィルに声をかける。
「さっ、ウィル君下がって下がって」
「リエル、気をつけろよ」
「うんっ」
リエルの近くにいる、ウィル、クルーナ、ベルリックそしてフィルエット、アルフは数メートル後ろに下がる。
すると、イフリータは腕を突き出し両手で三角を作り、
「三点熱波!」
三角から熱光線を放つが、
「えいっ!」
リエルが跳躍し、空中で緑色の魔力を纏わせた左足で熱光線を蹴り上げる。
熱光線は真上へと捻じ曲げられ、上空に消えていた。
三点熱波を飛ばされたイフリータは空中にいるリエルに向けて回し蹴りを繰り出す。イフリータが足を上げただけで、グラウンドから大量の土埃が巻き上がる。
「巨人之足」
リエルは空中で後ろ回し蹴りを繰り出すと、展開された魔法陣から緑色透明の巨大な足が飛び出して、イフリータの蹴りを弾く。
「ぐっ!」
イフリータは体勢を崩しそうになるが残った軸足で横に跳躍し体勢を整える。イフリータが着地すれば地響きが起こり、ウィルらは足をバタつかせた。
(なんだあの構えは)
イフリータは目を丸くする。
空中から落ちていくリエルは指先をイフリータに向けて、
「空間移動」
と、魔法を唱える。
リエルはその場から消え、構えた指の先、イフリータの腹部辺り出現した。
少女は間髪入れずに魔法を唱える。
「巨人之拳」
リエルは至近距離で透明な拳を顕現させて、イフリータの腹部を殴りつける。リエルが突然現れたことにより反応が遅れたイフリータはもろに魔法の拳を受ける。
イフリータは巨体一つ分飛び、グラウンドに転がりながら立ち上がろうとする。
「ぐっ、かはっ」
イフリータは腹部を押さえてながら息苦しそうにしていた。
地上にふわっと着地したリエルは口元に手を当てて考え込む。
(ん~、手応えはあったけど頑丈そう。巨人之拳百発当てたら石の姿には戻りそうだけど)
リエルはグラウンドを見渡す。戦闘の衝撃で学院本館の窓ガラスが幾つか割れてたり、ところどころグラウンドが削れていた。今の状態ならばリエルの魔法を使えば壊れた部位は治せる。しかし、建物内部や敷地外の建物に被害が及べば完全に修復することができない。建物内部や敷地外の建物の構造や材質までリエルは把握していないのでなんとなくでしか修復できないのだ。そして、巨人之拳を百発も相手が大人しく受けるはずがないので戦闘状況次第でウィルらに危険が及ぶことが考えられた。
(皆危なくなるから、一撃で倒すしかないねっ)
リエルの全身が緑色のオーラで発光する。次いで右腕を前に半身で構える。
リエルから異様な力を感じたイフリータは両手のひらから直径二〇メートルの火の玉を作る。
「なにをするつもりかは知らないが、消し炭になってもらおう。礼儀をもって私めの最大の攻撃を受けるがいい!炎之星!」
イフリータは巨大な火の玉をリエルに放つ。
一方、リエルは、
「覇道」
と、静かに唱え、右手のひらを前に突き出す。
その瞬間、リエルが纏っている緑色のオーラは黒色になり、手のひらから黒色の光線が放たれる。
火の玉は黒い魔力の奔流に飲み込まれてイフリータに一直線に向かう。
イフリータは目の前に迫った黒い光線を両腕を広げて受けとめる。
「ぐおおおおっ」
呻くイフリータ。
(これほどまで一方的にやられるとは! 内包している魔力がやつのほうが高くとも、戦闘経験が豊富だとしても、それだけではここまで差はつかない! この小さき者は生物や精霊とは一線を画す存在、次元が違う!)
リエルの正体を掴みかけたイフリータは黒い魔力に飲み込まれた。
「はっ」
リエルは光線が街に飛んでいかないように突き出した右手のひらを上へと振るうと、光線は上空へと消えた。それと同時に魔力に飲み込まれたイフリータは塵となって消え、巨大な石の姿へと戻っていた。