第一〇六話 名家征伐戦①
グロウディスク家の自警団が召喚した五〇体近くの精霊はルーデリカ家の自警団の前に立ち塞がる。狼狽えるルーデリカ側だがフィルエットが「世界のため、主君のため、そして自分たちの家族のために戦え!」と、鼓舞をしたことで体制が整った。
「精霊というより悪魔ね」
屋上から地上を見ているクルーナは召喚された精霊の外見を評した。
召喚された精霊のうち五割は火の玉を飛ばして攻撃する青白い玉の精霊――ウィスプ。残りの五割はリエルが森林地区で戦った火を纏った豹型の精霊――フラウロス、リエルがグロウディスク家の屋敷で戦った蛇の尾を持った梟――アモン、青い肌を持ち黒い仮面付け、手から魔力を発する人型精霊――ザミエル、両刃の斧を持ち、頭から二本の洞角生やしており、ケンタウロスに類似した精霊――ザガンなど凶悪な見た目をしていた。
二体のフラウロスと二体のアモンがルーデリカの自警団に襲いかかってくる。
「うわうわ、来るぞおおお!」
ルーデリカ家側は慌てる。
「バズーカ隊! 手筈通り撃ち込め!」
淡々と指示するフィルエット。
バズーカ型の魔法物を持った四人が前に躍り出る。
「俺たちに任せろ」
「一撃で粉微塵にしてやるぜ!」
「今日の活躍で昇進間違いなしなんで団長見ててくださいよ」
「俺も今日の活躍で昇進間違いなしだけど、責任感増えるのはごめんなんであえて辞退するぜ!」
意気揚々と、バズーカから白色の光線を放つ。四体の精霊に光線が直撃すると轟音と共にグラウンド上で粉塵が舞い、精霊の姿が視認できなくなる。
「「「やったか!」」」
ガッツポーズする三人の自警団とスマートフォンを取り出してSNSで「怪物倒したなう」と送信する一人の自警団だったが、粉塵の中から倒れた精霊がよろよろと立ち上がり、
「「ガルルルルッ!」」
「「ホウウウウッ!」」
フラウロスとアモンは力強く嘶く。
「「「ぎゃあああ!」」」
驚いた四人の自警団は互いに身体を抱き寄せた。
「下がれ! バズーカを発射できるまで五分のインターバルがある! それまでわたくしたちが引き受ける!」
フィルエットは四人の部下に後退するように命令する。
(ダメージは与えられてる。攻撃を与え続ければ倒せる可能性があるが……くそ!)
敵の後方にいる数多の人工精霊を見て、一気に襲いかかってきたら防戦一方になるに違いないと、歯ぎしりをする。そして、グロウディスクの自警団たちは、
「一気たため!」
「やっちまえ!」
「囲んで追いこんでしまえ!」
精霊に総攻撃を仕掛けるよう命令し、フィルエットが思った通り、ほぼ防戦を強いられることになった。
五分間、戦況が好転することはなかった。魔法物で結界を張ったり、目くらましで攻撃を避けたりとなんとか犠牲者を出さずに戦闘を続けていた。銃弾を打ち込んでも精霊は足元をバタつかせるだけで効果は無く、アサルトライフルで撃ち続けて攻撃をしてこないように踏みとどまらせるのが精一杯だった。
「意外と持ちこたえてるな。準備に抜かりはないようだ。さすがと言いたいところだが延命するのがやっとのようだな」
グロウディスク家の自警団団長は拳銃を構えて発砲した。
「あぐっ!」
バズーカを持っていた自警団の一人が足に銃弾を受けると、バズーカを落として地面に倒れる。彼とて名家の自警団だ。銃を向けられたことに気付き、後方に飛び退こうとしていた。しかし、バズーカを持っていたために出遅れていた。
倒れた彼にバズーカの標的となっていた斧を持った精霊――ザガンが走ってきた。
(俺はこの戦いで生き残って昇進して、あえて昇進を辞退するんだ。アウトロー感があってカッコいいから!)
正気じゃない願望を抱えつつなんとか立ち上がろうとするも、痛みで立てずにいた。