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第一〇二話 自白映像

 流れる映像の中でのちの簀巻(すま)き男は暴れることはなかったが強い口調で怒りを露わにする。


『なにをされても俺は(くっ)しない! 誇り高きグロウディスク家の人間だ! 舐めるな!』


 捕まっているのにも関わらず足を組み、テーブルを拳で叩いて気の強さを見せていた。


「口が堅そうで自白しそうにないんだけど、この人自白したんだよね」


 ウィルは疑わしい目でクルーナを見やる。


「したらしいわよ。そうでしょ、フィルエット」

「ええ、無論です」


 クルーナが確認を取るとフィルエットは首を縦に振る。


「拷問せずにですか?」


 今度はフィルエットに問いかけるウィル。


「無論だ」

「ということは話術で説き伏せたんですか」

「いや、そういうわけではない……見れば分かる」


 ウィルは不明瞭なことを言われて困惑していたが、一旦、モニターの映像を見ることにした。映像の中はルーデリカ家の自警団が男に人工精霊や真・精霊石について訊いていた。また人工精霊の発現に囚人を使用したのではないかと問いただそうとしていたが相手は、


『黙秘する!』


 の、一点張りだった。

 そんな不毛なやり取りしばらく続いたあと、ルーデリカ家の自警団が三人出てくると一人は男を羽交い絞めにし、もう一人は左腕を伸ばすように引っ張っていた。そして残りの一人は注射器を持ってきていた。


「「え?」」


 ウィルは思わず驚嘆し、声が出る。

 クルーナも声を出していた。


「もうほぼ拷問なんですけど。なんでクルーナまで驚いてるんだよ」 


 ウィルの指摘にクルーナは目を泳がせて下方を見る。


「驚いてないわよ。まぁ、今回はそういう方法とるんだと思っただけよ。平気よ平気、こんなの日常茶飯事だわ、慣れてるし」


 なんだかんだちょっと引いてたクルーナ。


「付け加えるなら拷問はしようとしてた」

「しようとしたのかよ」


 ウィルはフィルエットの言い直しに噛みついた。


『これがルーデリカ家のやり方かあああ!』


 モニターの中の男は激昂していた。


(人の命奪って精霊を作り出してクーデター起こそうとしてる人がなに言ってんだよ)


 心の中でウィルは素直にそう思い、男を冷ややかな目で見ていた。

 

 そのあと、注射器を持った人物が男の左腕に近づき、


『これは自白剤だ。お前の意識を朦朧(もうろう)とさせるが本当に打っていいんだな? 意識が混濁していることで訊いていないことまでベラベラと言うかもしれんぞ』

『そんな脅しには屈しない! さっさと打て!』

『では遠慮なくそうさせてもらおう』


 拷問が始まると思ったウィルだったがその考えはすぐに改めることになる。


『いやああああああ! 痛いよおおおおおおおおおおおお!』


 注射の針が腕に当たった瞬間、泣き叫んでいた。注射の針は触れただけで刺してはいない。

 一方、ルーデリカ家の自警団三人は驚いて空いた口が塞がらなかった。また、録画映像を見ていたウィルとクルーナもぽかーんと口を開けていた。


 数十秒間は驚いた自警団に離された男は針があった部分を擦って口を開く。


『この程度か! お前らに話すことはない! 屈しないと言っただろ!』


 拷問対象は何事もなかったかのように勇ましい顔を見せた。


「この人、情緒がおかしいよ」


 ウィルは端的に男を評していた。

 

 再び映像の中ではルーデリカ家の自警団が男を動かないようにして注射を刺そうとするが、針が皮膚に触れた瞬間に、


『いやああああ! 怖いよおおお! 嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!』


 男は泣き叫んで子供のように身体を左右に振って駄々を捏ねていた。

 それから、同じように男は自警団から離されると何事もなかったように振る舞っていた。しばらく、羽交い絞めからの注射の針が腕に当たって泣き叫ぶという一連のシーンが繰り返される。


「なんだこれ」

「なにこの人。よくグロウディスク家に入れたわね」


 ウィルは同じことの繰り返しに飽き飽きとしており、クルーナは雇用者の観点からグロウディスク家の採用基準が気になり始めていた。


『――島に連れてきた囚人は全員、終身刑を受けた人間と死刑囚だ。全員すでに島にある屋敷の地下で人工精霊を生み出すために命を落としてもらった』

『連れきた囚人の人数は?』

『一〇〇人以上はいた気がする」

『つまり一〇〇体もの人工精霊を作り出したということか!』

『色々と実験をしていたから詳しいことは俺にも分からない』


 しばらくして男は注射が嫌でベラベラと内情を喋っていた。


「口が軽い部下は持ちたくないわね」


 クルーナは呟いたあと、コップを口に運ぶ。コップには給仕の人が注いでくれたミルクティーがあった。


『四日後、学院でなにをする気だ』

『この島を人工精霊で制圧する』

『民間人を巻き込むのか!』

『人工精霊さえいれば争いをする気は起きないはずだ! 皆、一〇年前の戦争で精霊の脅威を知っている。重装備をした人間、獣人、エルフとて敵わない存在だ。例え戦闘に秀でている竜人やヴァンピールでさえも複数体の人工精霊には手も足も出ない!』

『それは理想論だ!』


 言い合いが始まっていた。

 見苦しいと思ったクルーナはフィルエットにモニターの電源を切るように指示する。


「貴方が得た情報との整合性がとれたわね。あとは現場を抑えるだけよ」

「そう上手くいくといいんだけどね。ベルリックの方も止めないといけないし」


 ここまで順調に物事が進んでいるぶん、ウィルは見落としていることがないか不安だった。

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