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二日に一回、二月いっぱい更新していきたいと思います。
よければ感想等頂けると幸いです。
この文字列に、読んでくれたあなたが少しでも、癒されることを祈って。
『飛鳥プロデューサー、起きて?遅刻しちゃうよ?飛鳥プロデューサー、起きて?遅刻しちゃうよ?飛鳥プロデューサー、おき』
ばん。
…好きな声優さんの声だからって、朝っぱらのこの眠い時にしつこいと、ちょっとイラっとするな。嫌いにならんうちに違う目覚ましにした方がいいかもしれん。
止めた勢いであらぬ方向に転がった目覚まし時計を拾い上げる。時計の中には、今日もかわいいあの人の姿。
…前言撤回。一生ついていきます。
そっと目覚ましをもとの場所に戻す。
一拍。
「…起きたくねぇ」
本当に起きたくない。マジで起きたくない。誰も部屋にいないのに起きたくねぇと口に出してしまうくらいには起きたくない。
学校とかマジ行く意味あるんかと、朝の眠い中でいつも思う。まぁ、行ってみたら行ってみたで楽しいこともないこともないから、行ってみ得ではあるんだろうけど。そこまでのプロセスがだるすぎる。頼むからそろそろ俺を学校まで運んでくれるベッドを誰か発明してほしい。
ただ、今日の俺は一味違うらしい、ということも感じている。いつもなら目覚ましなんぞ鳴っても止めてもっかい寝るのは当たり前、あまつさえ止めたことにすら気づかず寝続けることすら頻繁にある俺が、今日は一回の目覚ましである程度意識が覚醒している。いつも通り起きたくないことには起きたくないのだが、身体の方はどうやら起きる準備万端のようなのである。どうした俺、らしくないぞ。
妙に冴えた頭を掻きながら上半身を起こすと、そこには俺の疑問の答えらしきものがあった。
開けたままのカーテンから差し込む柔らかな朝日に照らされていたのは。
真新しい制服である。
…そうか。今日から高校生か。
と言っても入学式はもう先日終わっていて、今日は始業式だ。新しいクラスが発表され、高校デビューする奴はスタートダッシュをかけ、そんな焦るから失敗するんだと我ら陰者が彼らを嗤う始業式の日である。どうせデビューとか言っても変われないんだろうから、早いとこ自分はザコだと認めておとなしくしといたほうがいいと思うのは俺だけでしょうか。
知らずため息一つ漏れ出て、俺は一人階下のダイニングに向かう。
ダイニングでも、俺は一人だ。両親は共働きで、早くに家を出ているから仕方ない。
そうか。やっぱり一人か。いや、俺が早く起きすぎただけか…?
テキトーに焼いたパンにテキトーにバターを塗って、咥える。ドバっと牛乳を入れたマグカップをもってテーブルに着いて、壁の時計に目をやる。
時刻は七時四十分。
彩菜は、…やっぱり来ないか。
さすがに高校生ともなると、いくら幼馴染だからって家まで起こしにくるなんて、……な。一緒に登校するかどうかすら怪しいのに、家に上がり込むなんてもっとあり得ない。
…ま、現実そんなもんっすな。
なんだかんだ同じ高校に進学することにはなったとはいえね、いつまでも美人幼馴染と一緒に登校なんてそんなんアニメの中だけだわな。
…だーっ!でもあんなかわいい女子が幼馴染ってなかなかないもんなぁ、何かのバグでまた一緒に登校してくんねぇかなぁ…
とはいえ、俺も馬鹿ではない。こういう最悪の事態も考慮しているからこそ、昨日の俺はこんな早い時間に目覚ましをかけて寝たのだろう。…いや、多分ね。なんか似たようなこと昨日考えた気がするし。
こんな生活が今後も続けられるかというと正直不安しかないが、ま、それでも慣れていかなければならないのだろうとは思う。…彩菜JKになんのかぁ、まじかぁ。
色々考えていたら、気づけば歯磨きも終えてあとは着替えるだけというところまで来ていた。…まじ?これ、今日で一生分のエネルギー使ってる説ない?さすがにバグりすぎだと思うんだけど。
テキトーにねまきをベッドの上に投げ捨てて、雑に着替えていく。どうでもいいけどブレザーでよかったわまじで。こんなひょろすぎるやつが学ランとか来たらおしまいみたいになるからな。
姿見で、軽く身だしなみを整える。眼鏡をかける。中身スカスカの手提げを持つ。
「……はぁ。行くか」
正直だるいが、…まぁ、学校行ったらかわいい女の子が隣の席かもしれないし。初日から休むというのも体裁が悪い。気がする。
革靴を履く。玄関のドアを開ける。
…そういや、今日から限定イベントだったかもな。直帰してやるか。