1ー7 チート○○様が天然過ぎる!
「どこをどう考えても明らかにおかしいでしょうよ!魔術人形が幼女だなんて!どう考えてもひどすぎる幼女趣味です!!人外級美貌の6歳くらいの女の子がじいさん言葉で店頭で接客なんておかしすぎてありえませんよ!?」
わかってますか?
乱暴に言い放ったものの、件の男は不思議そうな表情をしているだけである。
「いいですか?今まで命を助けてもらって養っていただいている手前、文句を心の中にそっと封じてきましたがー」
「少し待て、それは語弊があるのではないか?何かというとお前は小姑のように」
「とにかく!!」
顔を真っ赤にしてミコトはイゼルの声を遮った。
「自分が超引っ込み思案のコミュ症で且つ、人間嫌いが理由で接客できないからって彷徨っていたじいさんの魂を自分が作った最高傑作級の・・・攻撃系魔術人形に封じて、接客店員としてあてがうのは金輪際やめてください・・・」
ミコトがイゼルに拾われ、この世界に順応するためのーやや間違った知識を含めー色々な手解きを受けて店の手伝いがようやく出来るようになるまでの1年間。その惨状を、ミコトはしっかりと脳裏に焼き付けていた。
接客とは名ばかりで、翡翠の瞳の金髪美少女が「かわいいねー」と頭を撫でてこようとした冒険者に向けて脳天目掛けて店中で爆発事件。
店番が幼いと知ってちょっかいをかけてきた神官職員に瀕死の重症を与え、子供だからと金をちょろまかせて防具一式を持ち出そうとした者達を血祭りにあげたこと。
そしてそれらが全て行政的にも、民事的にも、教会的にも、ギルド的(冒険者組合)にも不問となり、一切の圧力や干渉を受けなかったこと。
たった1年でこの状況であったが故に、店奥で家事しつつ様子を伺っていたさしものミコトも「私がやります。やらせてください」を願い出るほどだ。
「お前の妹分として作ってやったのに、それの何が不服だったのだ?」
一人では寂しかろう?
すっかり論点がずれているのは否めないがミコトは頭痛がするとばかりに眉間に手を当てて項垂れた。
「そういう問題じゃ・・・」
「ならばいったい何が問題だというのであろう?」
全く合点がいかないとイゼルは不可解極まりないというような色を顔に浮かべた。
「むしろ、これまでどうやって経営を回してきたのか全く以て不明」
「なんだそんなことか」
ぽん、と手を叩きイゼルは包んだばかりの長物をカウンター下の戸棚の中にしまい込みながら事も無げに応じる。
「お前が来るまでは店は無人であったからな。客が入れば声だけが聞こえる」
「・・・・・なんだ、それ」
初耳である。
「冒険者どもが私の店に来ればいついかなる時、どこにいてもわかるからな。なれば求めるものに応じて、必要なものを揃えて対価さえ向こうが真っ当に用意できればー最も、私には必要ないが、それで万事よいではないか」
入店しても誰もおらず、声だけが直接脳に語りかける。
とんだゴーストストアである。近代国家の夜間コンビニに近いシステムとも言えなくもないが、イゼルがそのことを知っているわけがない。
「以前からドールが店番していたのかと思ってました・・・」
「先程も言ったであろう。あの人形はお前のために作ったのだ。私が横で作業をしていれば気が散るだの、うるさいだの、邪魔だというし、たったの数週間ダンジョンに潜って材料を集めていればどこに行っていたのかなど不安げに尋ねるからだ。ー確かにこの辺りには、お前と同じ年頃の娘はいないし。やってくる冒険者と言ってもすぐに通りすぎるだけの者達だから長くは逗留しない。それではさぞかし寂しかろうと思い、話し相手になるように、ついでに人間の店らしく店番でもさせようと考えただけのこと」
イゼルは立ち上がり、注がれる視線の先を見れば得心が行かない様子のミコトの漆黒の相貌と目があった。頑迷極まりないこの娘は、意外と小さなことで悩み、くるくると変わる表情は退屈を忘れさせる。
今もまた、自分の常識の範囲という人間らしい小さな尺度に当て嵌めながらあれやこれやと憂悶している様子は、小動物のように愛らしい。
「・・・ご自分が店頭に立つとか、絶対にないんですね。ーでも、対話で直見で接客しなければわからない装備品の体のフィット感や適正属性の判断ってものがあるでしょうが」
「それはお前達、人間の感覚的なものであろう」
しれっと悪びれなく言い切ったイゼルを見上げれば、勝ち誇ったように青年は破顔した。
「私はヒトではないからな。お前達が視覚的、感覚的に必要とする判断基準など当てはまらない。離れていようがどうしようが、空間を固定し感知の紐をかければ容易いことよ」
「規格外魔王め」
チッ、と舌打ちすれば心外とばかりに魔王様。いや、元魔王最終ダンジョン、アンタークに棲み着いてー、居住していた齢2000年をとうに越える人外の存在は肩を竦めた。
「ふふん。褒め言葉として受け取っておこう」
面映ゆそうに一笑した魔王様の態度は明らかに狙ってミコトの神経を逆撫でした。