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1ー2 時間の無駄

「多分ですけど・・・。跳掠(ちょうりょう)関係の風系魔石。耐久が切れてます」


「うそだろ!?」


「だから言ったじゃない、リュート!装備はきちんと定期点検しなきゃ。ほら、足見せなさいよ!!」


言うなり女性はその場にかがみ込み、古びてしなる床板の上でたたらを踏みそうになる青年の足袖をつかむ。


頑強な漆黒のブーツの中にたくし込まれたズボンの裾をグイッ、と引き上げれば、ほぼ朽ちてボロボロになった銀の環の足具を確認する。


「ほんとだわ。私の魔術がかろうじで繋がっているだけの・・・・・ゴミね」


「あーあ。結構ユリオン銀貨積んだのに、結構な品だね。今から新品と取り替えてこようかな」


「ダメよ、リュートそんなの。泥棒みたいなこと」


「レティお嬢さん、僕が元々盗賊なの知ってその言葉だとしたら、ずいぶんなお茶目だね。そういうそっちはどうなのさ」


「わ、わたしは。いいわよ!別に」


顔を赤らめて抵抗して見せない素振りの彼女から、リュートは簡単に短刀を奪い取る。


「ちょっ!!」


「あーりゃ。本当だ」


レティと呼ばれた美少女の手から銀色の短刀を奪い取り、その柄頭に嵌め込まれている深緑色の小さな石の球体を見れば、なるほど。 確かに「漆黒のミコト」が言う通り、奥から手前に微々たるものだがクラックが見られる。


やはり彼女は噂通りかなり優秀なクラフターであるらしかった。そもそも、最後と言われる魔獣・魔物の巣窟。アンデットが今にも溢れ出そうなダンジョン近くの最終都市に、結婚適齢の妙齢の女性がいること事態が異常だ。


最後の都市、アルビエント。


最後のダンジョンを封じ、いついかなる時においても対抗する力を持つべく500年前に作られたとされる要塞都市。


もちろん、この都市に女性がいないというわけではない。が、一部の例外ー冒険者やギルド・神職関係者などーを除いて、ここに女性や子供はほぼ存在しない。


さらに言えば職業をクラフターとし、生来持った天恵を職業の御技として必須とする「聖魔法具職人」であるという特殊性を持つ存在は彼女しか知らない。


というより、そこまでに際立った情報であるからこそ、信憑性すら疑ってしまうほど遠くの村や街にも聞こえ伝わっているというのだが。


「はっ。流石は漆黒の聖魔法具職人だな。噂通りということか」


ようやく氷解が溶けたらしいセシルの言葉に、店奥に引っ込んで客であるこちらに背を向けてごそごそやっていたミコトの動きがピクリ、と止まった。


「女性だとは聞いていたが、こんな麗らかな春のひだまりのような人に装備品のダメ出しをされるとは。最終ダンジョンに今まさに挑もうとする上級冒険者の名が泣く」


流暢な言葉に、レティは呆れて天井を見つめ、リュートは肩を竦めた。


「流石は世に聞くラリュードの聖魔法具職人、漆黒のミコト。うら若き乙女の噂に違わぬ、美麗な声と確かな真贋を見抜く目は感嘆に値する」


酒に酔ったように芝居じみた言い回しで語られる言葉の羅列に、ミコトは仕事の手を止め、くるりと冒険者たちに振り返った。


漆黒の相貌に苛立ったような光が浮かんでいる。


「ああ。なんと美しい漆黒の相貌。冒険者たちの命を救い導きたまいし女神・・のようなー」


「お前は吟遊詩人か」


へっ、とせせら笑うような言葉が耳朶を打ったとセシルがハッと我に返ると、先程までカウンター越しにいたはずの小柄な女性が目の前に移動していた。


「!?」


「いつの間に!?」


全ての状況を目を逸らさず見ていたはずなのに、とレティは息をのみリュートは全身の肌が泡立つような感覚を覚える。


「なっ」


セシルが目を見張るや否や、凶悪な笑みを唇に刻んだ黒髪の女性は彼を見上げる格好で顎下から誘うように人差し指をその顎に掛け、妖艶とさえ言える笑顔で次なる一言を低く言い放つ。


「ーー出ていけ」


音なく3人は消えた。


最初から誰もいなかったように。


「時間の無駄だったわ」


不機嫌よろしくホコリを払うように両手を叩き、武器や防具、原石のまま転がる魔法石のみが存在する、ガラリとした店内を見渡しミコトはまた淡々と仕事に戻っていった。


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