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2ー1 誰にでも欠点はある

「いつになったら戻ってくるんだ、あいつは」


怒気を隠す様子もなく、一人の男がぶつぶつ文句を口に出しながら、人で入り乱れる大通りの中央を歩いていた。


彼の名はジーク。


もう少し格式のある、形式上の名前や呼び名はあるにはあるのだが、仰々しすぎて彼は嫌っていた。


「クソッ」


全く何時間かかるんだ、と眉間に皺を寄せ白群びゃくぐん色の青みを帯びた薄い緑の髪の毛を乱暴にかきむしる。


指先が半分露出した漆黒のグローブに同色の外套ローブを纏い、揺らぐ焔のような金刺繍が施された上衣と、合わせた色のズボンを纏っている。


歩く度に衣擦れのような音がし、同時にしゃらしゃらと連なる玉がかち合って鳴り合う響きがした。それは、男の腰に吊り下げられているややねじ曲がった木の棒の端から下がる七色の玉の粒からのようだった。


赤、青、緑、黄、紫、水色、乳白色に見える虹色。それぞれの珠の大きさはまばらで、銀色の房飾りのついた飾り紐に長さを変えて螺旋を描くように配置され、動く度に時計回り、反時計回りに回りながら互いを弾き合っていた。


「方向音痴にもほどがある。もう半日だぞ」


目に少しかかるほどの長さで切り揃えられた前髪の奥には緑柱石りょくちゅうせき色の瞳が苛立つ炎を内包している。


「やはり付いていくべきだったか・・・いや」


ジークがくだんの人物と別れたのは早朝のことだ。到着するや否やこちらが待てというのも聞かず、はやる気持ちをそのままに、自分や部下数名を置き去りにして気づいたときには宿屋から消え、急いでその後を追ったが完全に見失ってしまった。


犬のように首輪を付けていればよかった、と後悔したが後の祭りである。


どこに行ったのか、全く見当がつかないわけではない。いや、むしろその見当ははっきりと付いていてジーク自身がそこに赴いて待っていればーー恐らくいくらかの時間を要するのはほぼ間違いないがーー、彼が首輪でも鈴でも付けておけばよかったと後悔した渦中の人物の来訪は期待できたはずなのである。


この都市に来た目的地はひとつ。


とある場所にあるものを取りに行くことが「彼らの目的」であった。


ーーのだが、同行を主から命じられた彼自身がこの案件に対し空を飛んで逃げ出したいほど甚だ億劫であり、できれば避けて通りたかったという手前勝手な理由もあって、しばらく放置すれば勝手に目的地にたどり着いて帰ってくるだろうと算段を付けたのが甘かった。


臨時ではあるが彼の「保護すべき対象」は保護が容易でないほど極度の方向音痴であったのだ。


こうなるのがわかっていただけに、さらに腹が立つのはジークがやや、普通とは呼べない性格ゆえだ。通人であれば、自己嫌悪に陥って自分の失敗を責めるのであろうが、彼の場合は真逆だ。


「いい加減己が方向音痴だということを学習しろ」


毒づいてジークは近くにあった空箱を蹴っ飛ばそうとして。


「ぐっ」


失敗して、箱の四方をガッチリ覆っている鋲が打たれた鉄枠に焦げ茶色のブーツの先端を思いっきり下した。


痛さで顔をしかめる様子を何事かと子供連れの女性が訝ように視線を送り、子供の手を引いて足早に通りすぎていく。


残念ながら、他人のことを悪し様に言う割に、彼には大陸随一の才能でも容姿でもどうにもならない最大の欠点があったのだった。


それはーー。


「何でこんなところに、こんな堅いものがあるんだ!」


運動神経が破滅的に悪いことである。



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