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1ー11 人生に刺激は必要?

「ちょっと!いい加減にしなさいよね!!この、オタンコナスッ!」


「オタンコ!!」


不幸にも聞き覚えのある「野太い、甘ったるく濁したような男の声」にミコトはすぐさま上体を引き戻し、臨戦態勢を取るようにザッと退く。


後ろ手に店の商品ブレイドソードをまさぐって手を伸ばし、漆黒の相貌を警戒するように向ける。


「いっっ、つ、ま、で、待たせんのっっよ!!」


黒い塊から声が放たれるや否や、反射的に左に避けたアルザスの横を通り、巨大な鎚が振り下ろされた。


「な!?」


驚いたのはアルザスで、目の前に振り下ろされた大槌がミコトが先ほどまで前のめりに体を預けていたカウンターをものの見事に粉砕した。


大槌は木片と埃を空中に撒き散らしながら、まるで棒切れのように軽々と持ち上げられて、次なる一打のために瞬時に引き戻される。


「ーー遅い!」


短く息を吐くのと寸分違わぬ時間でミコトは頭上から振り上げていた銀の剣をソレ目掛けて全力で振り下ろす。


が。


ギィイイイン、と鈍音が空間を痺れさせた。


「は」


息を吐くタイミングで弾かれた剣を引き戻し、息つく前にもう一撃繰り出す。


「せいッ!」


利き腕の右側に肩脇から垂直に付き出した剣が相手に届く前に、ミコトはピタリと剣を静止させた。みれば、相手に届くのとほぼ同じ距離に鬼の金棒のような大槌の尖った先端が止まっている。


「今日も・・・」


「引き分けね。いい殺気放つようになったじゃない、ミコト」


「ユース、いったい何時になったら普通に入店してくれるんですか」


頭痛がします、と小さく溢して剣を突きつけたまま、ミコトはソレにうんざりと視線を送る。


彼の名はユース。


ラドリュード御用達の出入り素材商人である。


「あら?人生には刺激が必要でしょ」


ハートマークを語尾につける勢いで、相手の大槌がミコトから離れた。持ち主をみやれば、屈強な体つきの筋肉粒々のポニーテールの男が薄手のタンクトップについた木片をパラパラと手で払っているのが見受けられる。


ミコトも剣を退け、慣れた手付きで刀身を確認する。すれば、やはり。


「欠けた・・・・強度としてはやはりいまいちだったわね」


「あったり前でしょ~。それより大槌に剣で立ち会いするとは思わないわよ。今日は大盾で来ると思ったのにぃ」


ユースは不服そうに体を捻らせてカーキ色のだぼっとしたズボンの尻ポケットからレースのハンカチを取り出し、大槌の先端。燻銀色の金属を丁寧に磨き出した。


「この間大盾壊しておいて良く言いますね」


非難を込めてじろっと睨み付ければ彼、と呼ばれるのを嫌う彼女、とも言いがたい大男はぷりぷりと憤慨する。


「あんたが用意した盾が貧弱だっただけでしょー」


「夕食の買い出し途中、大通りのど真ん中で突然奇襲をかけられて、咄嗟に状況判断するこちらの身にもなってください!毎回毎回、飽きもせず暇な人ですね」


「あんたに言われたくないわ、この淡泊失礼娘!」


「語彙が稚拙ですよ。本でも読んで教養と学識を深めたらどうですか~、脳ミソ筋肉男」


容赦ないミコトの一言に、図星と言うか真実を突かれユースの右の眉毛が大きく波打った。鳶色の瞳に怒気が走る。


ユースは大股でミコトの胸ぐらをつかむと、がくがくと上下に振る。


「おとっ、おとこですって!? もう一度言ってごらんなさい!むしろ謝りなさい、訂正しなさい!」


床からからだが少し浮く格好で、ミコトはへっ、と吐き捨てるような表情でユースに対峙した。


「私は真実を口にしただけですよー。どこをどうみても、男!お嫁さんがいるくせにどうしてそんなキャラなのか一度聞いてみたいと思ってたんです。どーしてですかー?きーかせーてくーださーい」


片耳に大仰に手を当てて挑発すれば、ユースはさらに顔を真っ赤にしてミコトに稚拙な悪口を乱暴に吐く。が、それが痛恨の一撃となる。


「うるさいわ!この胸平ら娘!」


一瞬何を言われたのか判然としなかったが、飄々としていたミコトの態度が一気に変じた。


「だ、誰が胸平らぁ!?ありますよ!胸ありますよ!!ほーら、これでもCですよ!!」


「なによその、しー、ってのは!あたしのこの豊満な胸と比べれば、あんたなんかつるぺたよー!」


「それは胸筋だ!」


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