1ー1 「そんな装備じゃ死にますよ?」
「そんな装備じゃ死にますよ?」
しれっと正直な感想を述べると、竜の鱗の甲冑に飛竜の篭手あてを装備した赤髪の青年は酢を飲んだような表情で固まった。
呆然とする青年、店の新しい客セシル・マルトはカウンター越しに備品のチェックを平行して行っている女性を視線で追う。
年のころは20幾ばくかというほどだが、パッとした外見が少し幼く見える。おそらくは彼女が纏う黒髪黒目という、この世界では類い稀で珍しい色彩のせいであろう。
白いシャツに黒いエプロン、黒いズボンにブーツ。ありきたりのクラフターの仕事服。絹のような鴉の濡羽色の髪の毛をひとつに結い上げ、虹色の光彩を放つ耳飾りをしている。
気の強さがわずかに滲む漆黒の相貌だが、剣呑とした色はなく、淡々と仕事をこなしているだけのようだ。
彼女は彼らがダンジョン入り前に訪れた最後の都市の最後の装備屋。曰く「聖魔法具職人ラドリュード」の店員、らしかった。
噂に伝え聞いたところによれば、彼女の名は「ミコト・クロツキ」という珍しい発音の名である。
「それと・・・。そこの、魔術師のお姉さん。ざっと見たところ毒耐性の魔法石」
羽ペンでチェックをいれつつ手元の用紙とにらめっこをしながらラドリュードの店員、「ミコト」はついでとばかりに歌うように声をかける。
「死にますよ?その短剣、守り刀の石に割れ目が入ってるし、ランタークダンジョンの毒系魔獣にそのグレードの守護石は効果がありません」
「え!? ナスレの城下で手に入れた最上グレードの抗魔・抗毒装備のはずよ!?」
金髪碧眼の深緑色のガウンを身に纏った女性は驚いたように、腰に佩いている護身用の短刀を取り上げて絶句する。
「本当だわ・・・。セシル、見て」
「ほんとだ」
動けないでいる赤髪のセシル・マルクトの代わりに顎先を擦って状況を判じたのは、ひょろりと細身のいかにも身軽そうな灰色の髪の青年だった。
薄青色の軽さに特化した衣類に、腰に巻かれた太めの皮布。そこにはびっしりと銀色の短剣や両錐系の尖った得物が固定されている。
暗器の使い手なのだろう。歩く際も、店には入ってきた際も、そして今この瞬間も気配がほとんどない。
「それから、あなたも」
ミコトはチラリと灰髪の青年に視線を送り、羽ペンの先っちょで足先を示した。
冒険者を支援する「武器防具職人」=クラフターに焦点を当てた、異世界転移ストーリーです。
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