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決戦の古城は赤い月とともに  作者: 牙龍 仁華
Save data 01.第二章 黒の樹海
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黒の樹海にて 安寧

さあ、苦しみ足掻いてくれよ。異界の人間ども……。それでこそ戦いは輝く。月も、より赤く輝いて貴様らを祝福するだろう。


複雑に絡み合う次元と輪廻と運命の果てで、この世界の全てを呪うならば……いつか我が喉笛に剣を突き立てに来るがいい……。

パッシブスキル【タイムリープ】発動します。


ダグは三日前にいた【黒の樹海】で目を覚ました。

ルインがいる。ローズがいる。サミダレもいる。

夜だ。皆で焚き火を囲み、巨鳥の魔物を塩焼きにしていた。平和だ。ずっとこの時が続けばいいのに。


ルインとサミダレは美少女である。

ローズはおっさんだ。皆いい仲間だ。

……いや待て。サミダレは美少年だったか。

しかしまあ、いずれも魔王の側近、四天王である。

度重なるタイムリープで知った。

何度も魔王に挑み、その決戦の最終局面で、最低二人いないと火力負けするよね、というシーンになり、誰を残しても裏切られた。


先ほどのサミダレだけは白と思いたかったのだが、まさか全員黒だったとはな。ダグは頭が痛くなった。


サミダレは孤児だった。拾って育てて早一年半。ダグとしては、すっかり親と娘くらいの感覚でいたのだ。今回はショックが大きい。とりあえずサミダレの髪を撫でる。ジト目だ。どんな風に考えているのだろう。殺意を感じるほどではないのだが、やはり裏切り者とバレないように抑えているのだろうか。


ダグは寂しくなる。顔に出ていたのか、ローズに小突かれる。


「ダグさんよぉ、何羨ましい事してんだ?おじさんがそれやると、刀持って追い回される訳だが。なんなら全力でスキルぶっ放される訳だが。なぁなぁ。お前にばっかなつき過ぎじゃね?」


「ハハハハー、そう思うなら髭を剃って髪と脇を洗って来たまえよローズ・お・じ・さ・ん」

「ダグさんよぉ、煽ってくれるなよ?雷球食らわすよ?死ぬよ?痺れて死ぬよ?あと髭は誇りだ」


「ダグ。私もサミダレ撫でる。貸して」

「ルイン。サミダレは猫じゃないぞ。猫っぽいけど」


「ダグさんよぉ、無視とはいい度胸だな?おぉん?」

「ローズうるさいです、サミダレは眠いのです。八つ裂きにしますよ」

「これだよ全く。はー俺もサミダレの世話してたのになー!」


焚き火に刺さる肉串を、ストーンゴーレムが裏返したり塩振ったり、面倒見てくれてる。和やかな風景だ。


しかし、三日後には皆、死ぬ運命にある。


古城崩壊に巻き込まれ、あるいは魔王に倒され。古城に行かず逃げれば、残るもう一人の四天王バルバルフとか言う幻術師に古城へ転移させられる。


……そういや、魔王は自分の側近でも対峙すれば容赦しないんだな。ルインにも、ローズにも、手心は加えない。蘇生手段には毎度驚いてくれるし、奴は少なくとも蘇生という奇跡は起こせないはず。なのだが、近づけば誰であっても腕をもぎ首を千切る。目や心臓を抜き取った事もあった。皆、演技でも何でもなく痛みに泣き叫んでいた。


どうしたら、これ以上仲間の苦しむ姿を見ないで済むのだろう。ダグは悩んだが、答えはでなかった。

明日は一日ゆっくり休み、明後日の明朝には進軍を開始する予定だ。そして月夜に照らされる頃には、決戦の舞台、玉座の間に辿り着く。


バルバルフさえ先んじて見つけて倒せれば、或いは挑まずに逃げる事も出来ようが、なかなか痕跡を掴めない。タイムリープ能力をもってしてもだ。どうしたものか。


ダグは作戦を練りながら、サミダレを撫で続けた。

髪さらっさらだ。ルインのたゆまぬ手入れの成果に、暫し浸る事にした。まだローズとルインがちょっかいを出してくる。まったく賑やかな連中だ。


とりあえずこいつらの声は無視し、目を閉じ、耳を澄ます。ぱちぱちという焚き火の音に、怪鳥のぎゃーぎゃー鳴く声がひっきりなしに聞こえてくる。もう何度も聞いた、耳になれた環境音だ。心地よい。たまに遠くの方から、ワイバーン種やウルフ種の雄大な咆哮が聞こえる。ここに来るまでに戦ったから分かるが、どいつもこいつも接触忌避とされる、単体でも災害級の奴等だ。それが、うじゃうじゃいる。どんな猛者でもゾッとするね。間違いない。だが、慣れてしまえば良い音色だ。むしろずっと聞いていたい。


ああ、この時よ。願わくば、永遠となれ。

我が【傲慢】を許すならば、時よ永遠なれ。

無限に続け。この幸せな一瞬を切り取り、幾つも幾つも幾つでも複製したい。

それこそが、来たる絶望の未来への報酬でいい。

せめて、それくらいは願わせてくれよ。

どうせ皆、すぐに死ぬのだから。

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