死神
一生懸命働いて家族を養っている
父親を見てたら
悲しくなった
全力で夢に向かって戦っている
歌手の歌を聴いたら
辛くなった
誰かの為に生きることも出来なかったし
好きなことをやり続けることも、
出来なかった
何も残っていない
何も
ただ、楽をして
欲望に溺れた自分がいるだけ
そんなマイナス思考に陥りながら
松田は自分の部屋で
酒を飲みながら
バラエティ番組を見ていると
「そんなに自分を責めないでください。
」と
後ろから無機質な声が聞こえた
松田が
ハッとして振り返ると
死神が立っていた
「なんだおまえは」と
声をあげると
「私はあなたの理解者です
と、死神は答えた
続けて
「何もない人間は
あなただけじゃないですよ。大体の人間なんて、そんなようなものです」と
冷静に言う
「うるせーな、お前に俺の何がわかるんだよ」
なぜか、恐がらずに
松田は反論していた
寂しかったのかもしれない
死神は、なおも流暢に話しかけてくる
「あなたの人生見させてもらいましたよ」
「俺の人生?」
「ええ、今までの29年間。なかなか楽しめました。あなたは、
自分を卑下してますけど、そう捨てたものじゃないですよ。
確かに、あなたは、自分に甘い。
すぐ諦めるし、根性がない。
でも、逆に潔いとも言える。
たまに、いますよね。好かれてもないのに、しつこく、つきまとうストーカーみたいな人間が、そうゆう人種に比べれば、
よっぽどいい」
そう言われると、たとえ死神からでも
まんざらでもない気持ちに
なってくる
「そうかな」
「そうですよ。あなたは、賢いんです。
自信を持ってください。
才能ないのにダラダラ夢を追いかけている人間よりも
愛情ないのに家族を作る人間よりも
あなたは、自分のことが理解できている」
「そうかな」
「そうですよ。あなたは、
成功者を見て落ち込んでいたけれど、
ああゆう人達は
ごく一部です。
それに、ああゆう人種は
私のようなものからしたら、
めんどくさい
やれ、家族がどうとか、子供がどうとか、ファンがどうとか、夢がどうとか
なかなか、私のような存在を理解して、
受け入れようとしない」
そう言って
わざとらしく
苦々しい表情をした
「ってことは、俺は死ぬのか、」
少し間を開けて
松田がぽつりと呟いた
「さすが、察しが早い」
「そうか。死ぬのか」
他人事のように、松田が反芻する
「はい」
「原因は?」
「生きることのストレスからくる暴飲暴食のようですね。
まぁ、仕方ないですよ」
「仕方ない?」
聞き返した
「はい。あなたは残念ながら
生きる才能がない。
生きる才能がない人間が、
生きているのは辛いだけですから
ストレスになるのです
賢いあなたなら分かっているでしょう」
死神は、諭すような口調で答えた
「なるほどな、」
妙に納得がいった
「大丈夫ですよ。どうせ皆死ぬんです。
松田さん、あなただけじゃないんですよ。
」
「、、でも死にたくないな」
「生きたくもない、、でしょ?」
「そうだな。」
「わかりますよ」
「死神になにがわかるんだよ」
「私だって死神をやっていることが
嫌になるときがあるんですよ。
いっそあなたたち人間のように死ねたら、どんなに楽か」
うんざりした口調で言った
「なるほど、、あんたも才能ないんだな」
理解したように松田は返した
「そうなんですよ。困ったもんです」
「それでもやるしかないんだろ。」
「はい。」
「偉いな。」
「いえいえ、」
「、ああ死にたくないな」
「生きてたって辛いだけですよ」
「、、、」
「潔いのが、あなたの長所でしょう。
らしくないですよ」
「、、、」
「そろそろ時間のようですね。」
「、、、、」
「どう生きれば正解だったんだろう?」
ブシュ。
死神は松田の言葉を遮るように
右手に持ってる鎌を一気に
振り下ろし
松田は、呆気なく死んだ
その後
TVの中で
芸人が
タレントに
「何言ってんねん」と
突っ込み
ハハハハハハと
笑い声が
松田の部屋に、こだまして
死神は何事もなかったように
次の仕事先へと消えていった