忘年会の帰り
忘年会の帰り、僕は一人で駅から家までの道のりを歩いていた。
さっきまでの喧騒が嘘のように、静かな夜空が広がっていて、道はひっそりと静まり返っていた。
寒かった。とても寒かった。僕はコートの襟をあわせて、風が入らないようにした。体の中は酒のせいもあって火照っていたが、外の空気は冷たく、厳しくて心地よかった。
さっき話した事、居酒屋で騒いだ事、喋った事、それら全ては今の僕、深夜に一人で歩く僕には全く無効だった。意味がなかった。それはもう遠い過去になっていた。遠くからの星の光のように、淡い輝きを微かに伝えているにすぎない。僕は歩きながら、ふと思った。
(僕はこのまま地べたに寝そべって野垂れ死にできる)
それを思いついたのは、僕にとっては解放だった。人々の善意、愛情、幸福から逃げ出してたった一人で人は死ぬ事ができるのだ! なんの役にも立たず、なんの意味もない存在として、地上に転がり、ただの死骸になれる! それは人間に残された最後の自由だった。僕はそんな自由に思いを凝らしながら、夜道を一人歩いた。
しばらく歩いてから振り返ると、地べたに転がっている僕自身の姿が見えた。僕は凍死していた。僕の笑顔はひきつっていた。でも嬉しそうだった。僕はーー僕の方でもニヤリと笑った。くるりと振り返って、僕は僕の死体を置き去りにしたまま、家に向かって歩き出した。




