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忘年会の帰り

 

 忘年会の帰り、僕は一人で駅から家までの道のりを歩いていた。

 

 さっきまでの喧騒が嘘のように、静かな夜空が広がっていて、道はひっそりと静まり返っていた。

 

 寒かった。とても寒かった。僕はコートの襟をあわせて、風が入らないようにした。体の中は酒のせいもあって火照っていたが、外の空気は冷たく、厳しくて心地よかった。

 

 さっき話した事、居酒屋で騒いだ事、喋った事、それら全ては今の僕、深夜に一人で歩く僕には全く無効だった。意味がなかった。それはもう遠い過去になっていた。遠くからの星の光のように、淡い輝きを微かに伝えているにすぎない。僕は歩きながら、ふと思った。

 

 (僕はこのまま地べたに寝そべって野垂れ死にできる)

 

 それを思いついたのは、僕にとっては解放だった。人々の善意、愛情、幸福から逃げ出してたった一人で人は死ぬ事ができるのだ! なんの役にも立たず、なんの意味もない存在として、地上に転がり、ただの死骸になれる! それは人間に残された最後の自由だった。僕はそんな自由に思いを凝らしながら、夜道を一人歩いた。

 

 しばらく歩いてから振り返ると、地べたに転がっている僕自身の姿が見えた。僕は凍死していた。僕の笑顔はひきつっていた。でも嬉しそうだった。僕はーー僕の方でもニヤリと笑った。くるりと振り返って、僕は僕の死体を置き去りにしたまま、家に向かって歩き出した。

 


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― 新着の感想 ―
[良い点] なんだろこの一瞬沸き立つ安部公房の作品みたいな感じは…
[一言] 喧騒を離れた後の、「あれ何だったんだろう感」。 さっきまでの自分が死んで、次の自分が歩き出す。 「自分自身」から、少しズレて、見る世界。
2019/01/06 20:56 退会済み
管理
[一言] うわあ……時々……いや、日々湧くこんな感情……。 それを見事に表現されたような気がします。(←コイツ、アブねぇ)
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