表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

追放されたんじゃない。俺が全員を追放したんだ。

作者: 小春日和

追放される話が流行っているみたいだから、書いてみた。

お暇潰しになれば幸いです。

 まったく、ため息しかでない。だが、動かないわけにはいかない。やってられないが、やるしかない。ふざけた世界に呪詛を吐きつつ、言うべき言葉も吐き出す。


「……そうだな。まずは、自己紹介でもするか」


 独り言みたいな声量だが、これでも全員に向けて言ったつもりだ。そして、それは通じた。その証拠に、ここにいる全員──殆ど初対面の奴らである──が、俺に目を向けた。よろしい、ではよく聞け。二度は言わん。


「クロウ、僧侶のレベル53だ」


 嘘だ。本当は72。だが、教会の発表した公式な俺のレベルは53だし、人間のレベルの限界は50前後と言われているからそういうことにしておく。50いってるだけでも英雄扱い、または化け物扱いだ。わざわざ自分の人外具合を晒す必要はない。

 50でもやはり驚くべき事案だったようで、戦士とおぼしき女が食って掛かった。


「53だと!? 謀ってるのではあるまいなっ」


 謀っている。


「謀ってどうする。何の益がある」

「それは……そうだが……」


 信じられない、と女がぼやく。レベルのあげにくい僧侶だから尚更、と。

 神さえ信じているなら他は何を信じようと自由だ。疑うなら好きにすればいい。俺は視線を戻して紹介を続けた。


「スキルとスキルランクは棒術A、法術S、悪食C、堅固B、剛力Bだ」


 持てるスキルの数はレベル÷10の切り捨てだ。50台を名乗っている以上、5つだけ開示した。またも、唖然とされる。


「な……貴様、本当に僧侶か? 戦士武闘家の類いじゃあるまいな?」


 法術以外に僧侶の要素を持っていない、とそういうことらしい。下らん。法術さえ使えれば僧侶なのだから、なにも問題はない。その他の僧侶らしいと言われるスキルは全て飾りのようなものだ。お前達はそれがわかってない。

 スルーして紹介を続ける。


「使える法術は、治癒系統と結界系統、身体能力向上系統、状態異常の解除だ」


 詳細を語ったところで法術の門外漢どもには分かるまい。ざっくりと教えた。

 さて、こんなものか。次、紹介しろと目配せをする。さっきから煩かった女だ。


「わ、私の番か?」

「そうだ」

「私の名は、アンゲーリカ=ドロテア=フォン=エーレンベルク。エーレンベ──」

「長い。呼ばれたい名はどれだ」


 自己紹介中に水を差されて女が鼻白んだが、この女の長い御託に付き合うつもりはなかった。さっさと言え、と目で促すと諦めたように、呟いた。


「……アンゲーリカと呼んでくれ」


 思いの外、それでも長い。忘れそうだ。


「フォンじゃダメか?」

「いいわけがなかろう!? フォンは貴族の名に付けられる前置詞だぞ!」

「……そうか」

「失礼な男だ。……っと、話がそれた。騎士をやっている」


 ダメだそうだ。じゃあ女騎士とでも呼ぶとしよう。残念に思っていると、紹介を再開した女におずおずと声を掛けられた。


「……なぁ」

「なんだ」

「その……レベルも開示しなくてはダメか?」

「当たり前だ」


 戦力の把握は必須だ。俺達は今日よりパーティであり──魔王討伐の同志なのだから。

 とても気まずそうな様子をいぶかしむと、慌てて女騎士は首を振った。そしてまた気まずげにそわそわとして……ぽつりと呟いた。


「……レベルは、10だ」


 ……は?

 消え入りそうな声に、聞き間違えたのだろうか。今、信じられないレベルを聞いた気がするのだが。


「すまない、もう一度言ってくれ」

「だから……レベルは、10だ!」

「は……?」


 聞き間違えではないらしい。まさしくレベル10なのだろう。ふざけるな。

 魔王を討伐するのに、レベル10の小娘が参加する? 意味がわからない。舐め腐っていやがる。この女を推薦したのは誰だ? 元老院だったか。ふざけるな。何を考えている。

 そして俺は無意識に言葉に出した。


「チェンジで」

「嫌だ!」


 即座に拒否されたが、しかし譲れない。今度は意識的に女騎士を追い出しにかかった。


「嫌だも糞もあるか! 人類を存続の危機に陥らせた魔王を討伐するんだぞ? 分かっているのか!? そいつを倒すのに、レベル10が何を出来るって? ええ!?」

「に、人間誰しもはじめはレベルが低いだろう? 私だって成長すればお前みたいに強くなる!」

「は、それは貴様のレベルが育つまで御守りをしろっていってんのか? 馬鹿を言え、魔王討伐の旅だぞ? そんな余裕は何処にもない!」

「そんなこと言って、勇者殿だってレベル1ではないか!」


 ぐぅ、と言葉に詰まった。

 勇者。そういえばそんなのがいた。この窮地を逆転させる起死回生の術だと信じ、わざわざ教会総出で異界から呼んだ勇者が。……実態は、レベル1のいかにも頼りげない、そこで怯えた表情をしている小娘だったが。

 大々的に召喚をしたにも関わらず、失敗したとは言えないから結局勇者として祀りあげ、この一行に加えることになったのだったか。足手まといだが、置いていっても問題になる。連れていくしかないお荷物だ。

 ちらりと小娘を見やり、そして溜め息をつく。


「勇者殿は例外だ。此方が勝手に呼んだ以上、保護する義務がある」

「なら!」

「だからといって、貴様の御守りをする義理はないな」

「ぐ……しかし私は、足手まといにはならない!」


 現実を見ろ。レベル10が足手まといじゃないわけがあるまい。無論、俺のように70台になれとは言わない。50台でも高望みだと自覚している。しかし、最低限30はあって然るべきじゃないのか? 人類を救う旅の人選なのだから、高水準の人間が選抜されるのが当然だろう。


「チェンジだ。元老院が何を考えているのかは知らんが、貴様のような雑魚は要らん」

「雑魚……っ」

「さぁ、出ていけ。人類の未来のために」

「……」


 女騎士は俯いた。あとは知らん。俺は言うべき言葉を言い終えたので、次の者に自己紹介を促す。そうだ、小娘。話の流れ的に丁度いいから貴様の番だ、勇者殿。

 しかし、目配せをしたのに気づいたにも関わらず、勇者殿は困ったように女騎士を見ている。放っておけばいいものを。


「……嫌だ」

「……あ?」


 女騎士が項垂れたまま呟いた。まだ言うのか、往生際の悪い。俺が睨み付けるのも構わず、女騎士は俺を見上げた。


「嫌だ。絶対に嫌だ。私はこの日のために剣を習ってきたんだ。レベルだけで追放されるなんて、認められるものか!」

「知るか。お前の感傷なんざより魔王を討伐できる確率をあげることの方が重要だ。足手まといは出ていけ」

「足手まといにはならない!」

「まだ言うか! レベルがないのに──」

「私には剣姫Sがある!!」


 一瞬、何を言っているのか分からなかった。そして、スキルのことを言っているのだと気づいたときには、思わず声が漏れた。


「……嘘をつけ」

「嘘じゃない。騎士の誇りに掛けて、本当だ」


 剣姫。剣術スキル系統の、最上位スキルのひとつだったか。殆ど固有スキルと言っても良いほど保有者の少ない、しかし強力なスキル。歴代の保有者は戦場で千人斬りを成したり、竜殺しの称号を得たりとそのスキルの実績は折り紙付きだ。それの、Sランクだと? 馬鹿な。レベル10の小娘が持っているスキルではない。

 俄には信じがたい。俺は至極冷静に考えた。この女、すぐにバレる嘘をついてまで居残ろうとしている、と。


「謀るな」


 怒りを込めて、女騎士にきつい視線を向ける。女騎士は無言で剣を抜き、俺に刃を向けた。そのまま、首を狙って斬りかかってくる。

 そして、あっさりと剣の刃が首に当てられた。寸止めである。刃は当たっているのに、皮一枚切れていない。恐ろしいほどのコントロールだ。

 ……速いな。悔しいが、反応出来なかった。


「謀っていない」

「……その様だな」


 認めざるを得なかった。剣姫のSランク、或いはそれに比肩する剣スキルでなくば成し得ない業だった。レベル10の分際では。

 ……だが。


「俺の首は刎ねられまい」

「……」


 彼女の攻撃力では俺の防御力を突破出来ない。レベル差は絶対的な実力の差となるから。女騎士もそれは認めざるを得ず、悔しそうに唇を噛んだ。


「いかに優れたスキルでも、力不足には変わりがない。俺の首ひとつ刎ねられない攻撃力では、足手まといを過ぎることはない。だから──」

「クロウ」

「……!」


 大きな声ではない。だが、制止の色の濃い、強制力のある声だった。思わず言葉が途切れた。

 声を遮ったのは、この一行の中で唯一俺が知っていた人物だった。


「……聖女聖下」

「クロウ、その辺で勘弁してくれませんか」


 相も変わらず優しげな表情で俺を諌める。彼女は俺よりはるか高位の僧侶、聖女である。俺はその言葉に逆らえない──常ならば。


「恐れながら、聖下。このパーティは魔王を討伐するために結成されたものです。そして俺はこのパーティのリーダーを務めなければなりません」


 俺がリーダーであることは事前に決められていたことだった。本来は勇者に任せる予定だったが、勇者召喚が失敗したために役割が俺に回ってきた。──つまり、今この場においてのみ、俺は聖女の言いなりにはならない。


「リーダーとして、俺は、目標を達成する確率を上げるための判断をせねばなりません。その観点で、足手まといをパーティに入れることは極力避けねばなりません」


 俺は、正しい判断をしなければならない。俺の判断のせいでこのパーティが魔王に敗北されるなどあってはならない。俺の判断にも、人類の未来が懸かっている。常ならば逆らえないし、今でも逆らいたくはないが、それでも聖女の言葉に流されるわけにはいかないのだ。

 しかしお優しい聖女聖下は、それでも、と俺に説く。


「アンゲーリカは、精一杯価値を示しました。剣姫のSランク、それの力はクロウも知っているでしょう?」

「スキルをSランクまで育てた努力を否定する気はありません。剣姫の力も、勿論」

「それでは──」

「しかし、レベルが低すぎる。俺にすら傷をつけられない者が、何の役に立ちましょうか」

「……傷はつけられないかもしれません。でも、自衛は出来るでしょう」

「自衛しか出来ない者を連れていくメリットとはなんですか」

「クロウ」


 また、たしなめられた。責めるように見つめられる。少し、居心地が悪くなった。

 ……何を訴えているのかは分かっている。

 聖女は、俺の理屈は否定していない。ただ、情義と教義への配慮を求めているのだ。

 ──信じる者には救いを。励める者には助けを。

 教会は、努力する人間には手を差しのべねばならない。聖女は、どうしても女騎士の意に沿いたいようだ。


「クロウ、お願いです」

「ですが」

「アンゲーリカは、わたくしが面倒を見ますから。クロウの負担にはしませんから」


 足手まといの面倒を見るより、足手まといの代わりに働いてもらいたいのだが……という本音はさておき。


「……剣姫は、魔王に相対する頃には武器になり得ますか」

「! ええ、きっと大きな力になっていると思いますっ」

「……旅の始めは低レベル帯で勇者のレベル上げをします。そこでドロップアウトする者までは、連れていけませんよ」

「クロウっ! 大好きです!」


 はぁ、と溜め息をつきながら、俺は言った。敗北宣言である。

 感極まった聖女が何やらおかしなことを呟いた気もするが、気のせいだ。跳び跳ねて喜んでいる女騎士は幻影だ。全部、全部夢だ。悪い夢。こんちきしょう。何で俺は荷物と分かってて背負い込む。プランは再度練り直しだ。やってられるか、馬鹿野郎。

 だが、聖女にああまで言われて、譲歩を尽くされて、なおも折れないわけにはいかなかった。……聖女に逆らうことへの抵抗感に屈したともいえる。


 くそ、もう今日は疲れた。自己紹介とかもう聞きたくない。というか、再準備のために今日のところは早く解散したい。もう名前と職業、レベルだけ聞ければいい。後で詳細を個別に聞くからそれだけ教えてくれ。


 まずは勇者殿。


「は、はい……っ。フジサワ=ユキです。その、あの、よろしくお願いしますっ」


 職業とレベルを言え、と言ったのだが……まぁいい、元より勇者殿は戦力ではない。それに、両方とも把握している。

 結構、次だ。


「聖女のフレイです。レベルは41、スキルは──」

「結構。後で聞かせていただきます、聖下」

「……そうですか」


 困ったように、聖女が笑う。申し訳ないが、そろそろ休みたいのだ。プランの練り直しも、準備のやり直しもあるのでな。……時間もない。

 しかし、40台か。流石は聖女だ。どこぞの騎士と違って役に立つ。パーティに僧侶がいるのに聖女もいる、という違和感はさておくとして。

 次。


「冒険者代表、クレオだ。スカウトの……レベル、21」

「……」


 どこか申し訳なさそうに告げられたレベルは、21。足手まといだ。足手まといだが……騎士よりはましだ。追い出そう、と思いつつも、大した問題ではない、とふと思ってしまった。錯覚である。首を振って血迷った考えを払拭しつつ、追放の宣告をしようと口を開けば、聖女に機先を制された。


「では、次のお方」

「あ……最後は、私ね?」


 やられた。聖女に読まれていた。やりきった表情を見せる聖女を軽く睨めば、「わたくしが面倒をみますから」と囁かれる。くそ、何でもかんでもその言葉で許されると思わないでください。

 だが、反駁する前に最後の一員が紹介を始めた。


「同じく冒険者代表、プリシラよ。アーチャーのレベル32」


 ……最低限の、レベルはあった。コイツに文句はない。だが、待て。


「冒険者代表が、二人だと?」


 各代表は、原則一人だったはず。何故、冒険者ギルドは二人も出している?

 疑義を挟むと、弓士は何でもないように返した。


「あら、教会代表も二人いるじゃない。勇者ちゃんを含めれば、三人かしら」

「俺は勇者の代わりの戦力で、勇者は代表としてカウントしない。教会代表は聖女聖下お一人だ。そんなことより、何故冒険者代表が二人もいる?」

「戦力が増えるのは良いことだわ」

「スカウトはレベルが低い。突き返せ」

「出来ないわ」

「何故」


 足手まといはたくさんなのだ。もういい加減にしてくれ。そんな思いで弓士を見る。そうすれば、弓士に睨み返された。


「私の妹だからよ」

「意味がわからん。だからどうした」

「離れたくないわ」


 お話にならん。肉親の情を取って周りに迷惑を掛けるつもりか。


「妹は私が守るわ。それで問題ないんでしょ」


 そういって、弓士は女騎士と聖女を見やる。ああ、全く、無意味な前例を作るのではなかった。


「貴様ごときのレベルで守りきれると考えるのは増上慢というものだ」


 30というのは最低ラインであって、戦う際に誰かを守れるほどの余裕はない。いや、ただの旅であれば十分な力なのだが。あいにくと、俺達の旅においては不十分と言わざるを得ない。

 言えば、弓士はますます鋭い視線を向けた。


「さっきからレベル、レベルって! 強さはレベルだけで決まるものじゃないわよ!」

「レベルだけでは決まるまいが、レベルがなくては話にならん」

「~~っこの、レベル至上主義め!」

「当然だ。レベルシステムは主が人間にお与えになった最大の武器ぞ。使わずしてどうする」

「わからず屋っ」

「貴様がな」


 ふーっ、ふーっと唸るように荒く息を吐き出す弓士。どうやら退く気はないらしい。

 くそ、面倒になってきた。

 勇者、女騎士、スカウト。足手まといをこのまま三人とも連れていくなんて、正気じゃない。聖女も弓士もそいつらの面倒を見る等と言っていて、つまりはお守りしながらだから能力を十全に発揮できないわけで、ということは実質的にまともに働けるのは俺だけだ。

 ……ん? 六人もいて、まともに働ける奴は、俺だけ? いや、同じパーティにいる以上、俺もこいつらの面倒を少なからず見ることになるだろう。つまり、俺も全力で魔王軍に当たることはできない?


 愕然とした。

 無理だ、勝てねぇ。こんな面子じゃ勝てるわけがねぇ。

 教会は何を考えている? いや、教会はまともだ。俺も聖女も本気の人選といって問題はない。元老院と、冒険者ギルドは何を考えている?

 召喚に失敗して、勇者が偽で、人類の未来に希望がないからといって、適当な人選をしたのか? 高レベル保持者は各々が好きなように使いたい、と? ふざけるな。

 自棄になるのは構わないが、俺を巻き込むな。やってられん。こんな様では倒せるものも倒せんだろうが。


 ……ふぅ。


 もう、いいや。邪魔だ。全部捨てるとしよう。


「オーケイ、解散だ」

「クロウ?」


 俺は無表情で宣告した。

 弓士は俺が折れたと思って喜色を浮かべたが、聖女には怪訝そうな表情で尋ねられた。仕方がない、もう一度言おうか。


「解散です、聖下。どうぞ各々家に帰ってください」

「ええと、クロウ。その前に、次の集合についての連絡がほしいのですけれど」

「解散なのです、聖下。次に集まることはありません」

「……! そ、れは」

「このパーティを解散します」


 静寂が満ちた。よろしい、解散だ。解散。好きに散りたまえ。俺は教会に報告しに行かなければならないので先に失礼する。


 場に背を向けて扉に手をかけると、一瞬早く我に返った女騎士に声を掛けられた。


「待て!」

「なんだ」

「臆したか! 逃げるつもりなのか!」

「馬鹿を言うな。魔王討伐は神命ぞ」

「では、何故解散などというのだ」

「貴様らを連れていけば倒せるものも倒せなくなるからだ」


 そういって、部屋を見回す。混乱の最中の弓士とスカウト、泣き出す勇者、愕然とする聖女。不甲斐ない。精神面も脆すぎる。この程度ではやはり魔王の城にすら到達できまい。これだから女は、などと差別にも近い言葉が脳裏をよぎり、そしてまた驚く。なんと、この場には俺以外は皆女であったか。くそ、危ないところだった。女の集団に男一人などと、何の罰ゲームだ。戦闘以前に、日常生活からストレスで胃に穴が開きそうだ。

 あらためて女騎士に目を戻し、告げる。


「俺は自分で選んだ人間を使って魔王を倒す。貴様らは真っ平だ」


 そういって今度こそ扉を開き、外へ出た。


「お、おい……待て……」


 もう声は無視し、俺は次の場所へ足を向けた。まずは教会に報告を。その次は準備のやり直し、終われば酒場だ。飲まずにいられるか。


 ※※※


「──と、こういう経緯でパーティは解散しました」


 直属の上司に、俺は報告していた。

 上司は渋い表情で、ゆっくりと告げた。


「……解散は、認められない」

「知ったことではありません」

「クロウ」

「無理なのです。どうかご理解ください、枢機卿猊下。あの者達を連れてでは、人類の未来はないのです」

「しかし、魔王は誰かが倒さねばならん」

「俺が、一人で行きます」

「無茶だ」

「無茶ではありません」


 ここで、何としても説得しなければならない。さもなければ、未来はない。俺はプレゼンテーションを始めた。


「主のしもべでない以上、魔王には厳密にはレベルがありませんが、これまでの研究によりレベル65相当の力と言われております」

「うむ。だから、人数を揃えなくては勝てないといっている」

「その通りです。しかし、俺はレベル72です」


 さらっと真実を暴露する。しかしここはアピールポイントではないので流す。


「レベルに関しては後程アカシックレコードなり神問いなりをご使用なされば判明することでしょう。さて、いくらレベル72でも、単身で魔王を倒すというのは無理に思えるかもしれません」

「……あ、ああ」

「それは、俺が僧侶であるから、に起因していると思われます」

「……うむ」

「僧侶が弱いのは、攻撃力や防御力、体力に不安があり、回復職であるためです。一人では魔王を削りきれないと感じるからでしょう」

「そう、だな」

「しかし、猊下もご存じの通り、俺は棒術、堅固、剛力のスキルがありますので攻撃力と防御力、体力の心配はありません」

「……ふむ」

「さらに、悪食がありますので道中に飢えで死ぬことはありません。大抵のものは食べられます。法術でも結界系統は修めてますので、大抵の不意討ちは食らいません。勿論怪我も治せます。一人旅に困ることはありません」

「……うむ」

「最後に、今まで非公開でしたが、俺は七美徳スキルが一つ、忍耐を持っております」

「な、なんだと!?」

「これにより、俺は多少死ににくくなっております」

「……」


 一言重ねるたび、少しずつ手応えを感じた。もうかなり、こちらの意見の理を悟ってくれたことだろう。それを信じ、まとめにかかる。


「猊下。つまり、俺は一人で攻撃、防御、回復が出来るパーティなのです」

「……だが」

「レベルでは勝っており、一対一では負けないつもりです。さらに、俺は一人旅が可能なスキル構成です」

「……万が一、仕留め損なったらどうするつもりだ」


 お前以上の人材はないぞ、と。


「されば、俺の身命を懸けて結界を張ります。封印くらいなら、出来るはずです」

「……少し、考えさせてくれ」


 上と相談してくる。上司はそう言い残して部屋を出ていった。恐らく、俺の正しいレベルを確認するところから始めるだろう。

 あれだけ言葉を尽くしても、さすがに即決は出来ないか。仕方がない。

 しかし……もし、仮にこれでもダメだったらどうしようか。強いて、あの女どもと組まされたら。

 ……救えないな。救えない。神をも呪ってしまいそうだ。


 そうだ。

 先に動いてしまえば良い。一人で俺が出ていけば、追認するしかあるまい。仮に後で人を遣るにしても、今回よりはましな人材が来るはずだ。俺に追いつけるだけの人材でなければならないのだから。

 そうと決まれば、やはり準備だ。そして酒。今日のストレスを酒で流して明日の門出を酒で祝わねば。

 さぁ、やるぞ。やってやる。



 ──これが、俺の長い長い旅の始まり。道連れは早くもいなくなり、一人で始めた修羅の道。

読了ありがとうございます。

実は長編にしようとして、力尽きたので短編にしました。無理に変えたせいで、説明が不十分に感じたり、話に違和感を感じたりしたかもしれません。ごめんなさい。

楽しんでいただけたなら幸いです。感想、評価を頂ければ喜びます。

お粗末様でした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 楽しく読ませてもらいました。傲慢で頑固な考え方な主人公に好感持てます。話しの状況がわかりやすいのでスムーズに読めました。 主人公がどういう旅を続けていって、トラブルを起こすまたは巻き込まれ…
[良い点] うーんこのプリースト… とても面白い作品でした できれば長編も読みたい気持ちがなきにしもあらずですが、力尽きたのならしょうがないです 突然呼ばれ、なにもわからない勇者はしょうがないとし…
[良い点] 普通に文才がある件について――― 読みやすかったです、文章力が息してましたよ。 また、登場人物たちも個性がちゃんと出てて良かったです。 [気になる点] ぜひ連載して欲しいのですが……たし…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ