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欲望の赴くがままに  作者: えっひょい
16/19

15話:お礼参り

「凄ぇ………」


何十もある馬車の行列にいる運転手の誰かが、目の前に繰り広げられている光景にそう呟く。

今回の輸送依頼を聞いた時、誰もがのる気にはならなかった。それはそうだ、ゴブリンやオークが出ると言われている付近に行くだなんて危険以外の何ものでもない。最初は皆断りを入れていたのだが、相手はお得意のアルタートゥム鉱山。あそこは大御所も大御所、儲けが良い分支払ってくれる金額が他の依頼者の所より1割ほど多めにしてくれているのだ。

お得意様を他に取られたくなかった上の人間は、危険手当を普段の5割増しで払うとまで言い始め、金を上乗せをしてくれるのは有り難かったし、上からの命令を拒否し続けるのも良いものではなかったので、渋々従ったのだ。

だが、アルタートゥム鉱山に着いた時には驚愕した。あんな物騒な噂が飛び交っているにも関わらず、護衛者としていたのは初心者装備で全身を包んだ一人の弓使いだった。普通、危険が予想されているならいくつものパーティー、もしくはAランカーなどの一人で何人分もの力を持っている人間などを呼んでおくものだろう。それなのに居たのは初心者丸出し装備の弓使いの男一人というのは冗談にしてはあまりにも質が割る過ぎるというものだ。

到着して直に不安に思った何人もの運転手がアルタートゥム鉱山の責任者の下に抗議に行った程だ。だが、帰って来たのは「大丈夫」だの「心配無い」だのと此方を宥めるかのようにしている様な言い方の言葉だった。


彼の言う通りだった。

あの初心者丸出しの男は凄まじい勢いで数多くのゴブリンを仕留め続けている。敵と認識された彼は全方位から襲い掛かってくるゴブリンを無傷で殺し、彼の目を盗んで馬車へと標的を変え襲い掛かろうとすると彼は敵の間を掻い潜り、馬車の上や木に登ったりして矢で射抜くのだ。本来馬車を挟んで向こう側にいるゴブリンなど見えるはずなど無いのにだ。後ろに目どころか、其処ら中に目でもあるんじゃないかと思う位の動きだ。

気づけば残るゴブリンは襲い掛かってくる3体と木の上で威嚇をし続けている数体だけとなった。あまりの圧倒的な攻防に最初は防ぎ漏れたゴブリン共に殺されると怯えていた運転手達は呆気を取られていた。



「すげぇな兄ちゃん!」

「野朗の嬉しくない声援ありがとうよ。でも、興奮して前に出てくんなよ。流れ矢云々で死んでも知らねぇぞ」


そう言いながら手に持った矢で飛び掛って来たゴブリンの首を切り飛ばす。やはり腐っても元王都で有名だったと言い張るジジィの特性の矢だ。鏃の刃の部分まで切れ味が良くて助かる。


「流れ矢って、アンタ殆ど矢で斬って殺してるから飛んで来ないだろ。普通弓使いって遠くから矢を打って仕留めるもんじゃないのか。」

「うっせぇな。揚げ足とるんじゃねぇよ。矢だって無限に溢れ出る訳じゃねぇんだから打つより、こうやって切り殺した方が経済的で手っ取り早いだろっと」

「その考え自体がもう弓使いの考えじゃないんだが……。それに、仕留めた内の何体かは殴り殺してるだろ?」

「見間違いだ、忘れろ」

「あんなのを見間違えるとか無いだ――あっぶねッ!?」


五月蝿い野朗だ。記憶でも飛ばないかと偶然を装ってゴブリンの死体を蹴り飛ばす。

あれだけ弓で倒せと念を押されたのに、何体も殴り殺していただなんて事実を、もしフリージアにバレてもしたら俺が殺されてしまう。


「ったく、弓使いの闘いってのは難しいな」

「いや、そんな殆ど矢を握って斬り続ける弓使いなんていねぇよ。弓じゃなくて矢使いだろ」


まったく、何を訳の分からない事を言っているのだろうか、この運転手は。弓使いは弓矢を使うのだ。だったら、「弓」を引くのも「矢」で切り殺すのも弓使い範疇だろ。

運転手に呆れながらも襲い掛かってくる最後のゴブリンを斬り裂く。


「何か色々と釈然としないが、兄ちゃん凄ぇじゃねぇか!」

「はっ、別に驚く事じゃない。ゴブリン程度、瞬殺さ」

「後残り数体だ!!」

「バシッと決めてくれぇ!!」


女の声援には到底及ばないが、野朗のでも声援を受けて悪い気はしない。それに、これまであまり人目のつかない所での依頼が殆どだった為、こうやって声援を受けること自体懐かしくも嬉しく感じる。

そんなこともあって、少し照れながら周りのゴブリン達を見渡す。俺と目が合ったゴブリンは木の枝の上に立ちながらも後ずさる。流石に勝てないと感じたのか、もう最初の勢いも無くなり意気消沈になっている。もしかしたら逃げるかも知れないが、ゴブリンなど百害あって一利なしの存在で、声援を受け気分も良いので残りのゴブリンも仕留めよう。


「まぁ待ってなって。俺に掛かれば残りのゴブリンも一瞬で――」


ゴブリン達に笑みを浮かべながら弓構え後ろへ下がったその時だった。普段ならありえなかったが、声援に舞い上がっていた俺は、仕留めたと思っていたゴブリンがまだ生きていた事に気がつかなかったのだ。

そして、そのゴブリンは虫の息で握っていたこん棒を俺の足の後ろに動かしたのだ。俺は木の上に居るゴブリンにしか気を配っていなかった為、後ろに下がった途端そのこん棒を踏んでしまったのだ。


「あだッ」


そのまま後ろへ倒れ、地面に後頭部を強打した。


『………………』

『………………』

「………………」


運転手もゴブリンも俺も、ここにいる全員がこの光景に言葉を無くした。。仮にこれが日常の光景でも、いい年をした大の男が転んでしまえば見るに耐えないのに、あそこまでの啖呵を切って、いきなりこん棒に躓いて転んでしまったのだ。あまりに哀れで声援を送っていた運転手達なんて、なんと声を掛けたら良いか分かる訳が無い。やってしまった本人である俺なんて尚の事、次にどうしたら良いか分からず立ち上がれず、倒れたまま腕で目元を覆いながら倒れているのだから。

どうしようか、まずは立ち上がって誤魔化しでもしてみるか?と考えながら上半身を起こしたところで、事は起きた。


ゴツンっ!


後頭部に強く硬く鈍い衝撃が走った。体は頑丈な為、痛みは大して感じはしなかったが、あまりに想定外だった衝撃に思わず固まってしまった。

ゴロゴロ……と、目の前には後頭部にぶつけられたであろう物体が転がった。それはゴブリンたちが持っていたこん棒だった。何故こんなモノが俺の後頭部にぶつかったのだと、そのこん棒に手を伸ばそうとしたところで再び



今度は顔面の横に同じような衝撃が襲ってきた。視線を下に向けると新たなこん棒が地面を転がっている。手を伸ばすのを止め、目をこん棒が投げられてきた方向に向けると、そこには此方を「ギャギャアッ!」と腹を抱えてて笑っている姿があった。

なるほど、このこん棒を投げて俺にぶつけたのをゴブリン達か


ゴツンっ!


再び投げられるこん棒。今度は背中に直撃する。


「おい、兄ちゃん……?」

「だ、大丈夫か?」


「ギャギャアッ!」

「ギャァギャッ!!」


運転手達から掛けられる心配する声と、何体からも発せられる耳障りな笑い声。

俺は無言のまま、ゆらりと立ち上がり視線を先ほどこん棒を動かして俺を転ばしてくれた虫の息だが俺をせめて嘲笑おうかと笑い続けている。

そのゴブリンの頭の真上に片足を上げ


グシャッ!


頭を踏み潰し、まるでザクロの様に弾け飛んだゴブリンの頭部。


『――――――』


その光景に心配の声も、嘲笑う声も、全てが消えてこの場に居る者全てが息を飲んだのを感じた。

俺は首を左右に動かしゴキゴキと鳴らして、呟くように、だが上に居るゴブリン達に聞こえるように「なぁおい」と言う。

そして、首をぐりっと後ろに動かして俺にこん棒をぶつけたゴブリンを見る


「俺を笑いやがったな?」


一切遊びの無い真顔の俺と目が合ったゴブリンは「――ギィッ!?」と引き攣った声をあげながら体をビクッと震わせて逃げ出した。それを皮切りに周りにいた全員が一斉に同じ東の方向へ走り出した。

恥を搔いてしまった事に大人気なくキレてしまった俺を見て、自分達との格の差というものを野生の勘

怯えて逃げ出したのだろう。

俺はその光景を見て、ハッと我に返り思わず笑みを浮かべ額に手を置く。


あぁ、なんと大人気ないことをやってしまったのだろう。ゴブリンなど所詮赤子程度の弱き生き物。そんな奴等がやってしまった事に一々怒ってしまっては駄目だ。ここは大人として大きな度量を見せて――――


「――――やる訳ねぇだろうがッ!!」


一瞬で怒声と怒りの表情を浮かべて、足元に転がっているこん棒を手に取り逃げていった一匹のゴブリン目掛けて全力で投擲する。それは通過する際に遮る木々を諸共せず、全てをなぎ倒しながら失速することなくゴブリンに着弾し、再びザクロの様にゴブリンが弾ける。


「単細胞如きが人間様笑いやがって。流石に俺の大きな度量からも溢れ出て、ブチ殺し確定だ」


遠くに居る運転手の一人が「……度量小さっ」と言ったが、彼への説教(物理)は後回しで今は元凶であるゴブリンを皆殺しする事だ。

近くに一体逃げ遅れたゴブリンを見つけ、もう弓を使わなければならないという考えも吹き飛び、殴り殺そうと駆け出す。そのゴブリンは襲って来る俺に気づいたのか、慌てて片手に持っていたこん棒を投げつけてくる。


「芸がねぇのかテメェ等はッ!」


止まらずそのまま軽く飛び上がり投げてきたこん棒を勢い良くゴブリン目掛けて蹴り放つ。放たれたこん棒は投げられた時の倍以上のスピードでゴブリンへと向かっていき、ゴブリンを弾けさせた。

仕留めた事を確認し視線を向けると、他に逃げていったゴブリン達は少し遠くの位置に居た。

「チッ……!」と舌打ちをしながら駆け足で投げ捨てていた弓と矢を拾いに行き、地面に肩膝をつき矢を素早く番えて構える。


「スゥ……」


先程の怒りを鎮め、吸った息を止め、矢と狙っている相手に合わせて弓をゆっくりと、だがブレが一切無いように動かし、矢を限界まで引く。自分の位置と今のゴブリンの位置だと、普通の弓ならもう既に射程範囲外になっている。だが、今使っているのは特別性の短弓だ。限界の性能を引き出せば届くはず。

特に根拠も無いのだが、もしこれで届かないことのでもなれば今度帰ったらあのディルクのジィさんに酒の瓶でも投げつけるとしよう。


「――――シッ!!」


シュンッ!と風を切る音をさせ、矢はゴブリンに向かって一直線に突き進む。途中で枝や太い幹などが邪魔をするが、その一切を易々と貫通し飛んで行く。

その矢は3秒もしない内にゴブリンへと襲い掛かる。


「ギ、ギャッ!」


矢は頭でも心臓でもない、二の腕少し上を少し抉った。負傷したゴブリンは悲鳴を上げながら木の上から地面に落下していく。その光景を見て、「うしっ」と納得して弓の構えを解いて立ち上がる。

あの高さから落下したとして、運が悪かったら落下死、良くても重症だろう。


「し、仕留めたのか?」


周りにゴブリンが居なくなり、安全になったところで馬車から降りた運転手がそう尋ねてきた。


「いや、ゴブリンを一匹木の上から打ち落としただけだ。殺しちゃいない、他にもまだ何体かは逃げ切っていったさ」

「仕留め損なったってことか?大丈夫なのかよ」

「んなゴブリン程度で一々喚くなよな。それと仕留め損なった訳じゃない。ワザとだワザと。そこまで落ちぶれちゃいねぇさ」


俺の「仕留めそこなった」という発言がただの言い訳の様に感じたのか、疑うような目で見てくる運転手達。野朗相手に丁寧に説明をするのも面倒なので「ついて来な」とだけ告げて、先ほどゴブリンを打ち落とした場所へと向い歩き出す。俺の言葉に不安そうながらも運転手の数人がついて来る。

草木を掻き分け歩きながら、説明を始めた。


「あいつ等は、頭を使った策を実行する事は出来ても、頭を使う逃げ方はできなかったらしい」

「?……頭を使った策の実行と逃げ方って何が違うんだ」

「あいつ等は戦う野生を持っていても、策を駆使した戦いなんて本来出来る筈がない。そこまで考えられる頭が無いのさ。それなのに今回は策として馬車の先頭と最後尾を潰すなんていうものを用意してきた。恐らく、ゴブリンじゃない率いている奴がいる。噂からしてオークなんだろうけどな。まぁ仮に率いていたのがオークだったとしよう。今回ゴブリン達はそのオーク達に頭を使った策を用意して貰ってそれを実行しただけ。予定通りいけば何も問題は無かったが、実際は予定が総崩れで仲間の大半が殺された。さぁ、ここで頭が空っぽなゴブリン達はどうしたら分からなくなってしまった。困った困った。」


ふざけた物言いで笑いながら言う。

基本ゴブリン達は、出来たとして見つけた敵を背後から奇襲する程度の野生的な頭でしかない。用意された策が敗れて対処が出来るほど能力は無い。


「普通、何も考えずに逃げ出すなら単純に真後ろへ逃げた方が敵である俺から離れられる。だが実際は東西南北で離れた位置に居たにも関わらず逃げると決まった瞬間全員が同じ方向、東に全員一斉に逃げ出した。真反対に居た奴もだぞ?それには理由がある」


そこでゴブリンを打ち落としたであろう場所についた。あのゴブリンは運が良かったらしい。下の茂みを掻き分けると、そこに死体は無く俺の矢を受け負傷した傷口から出た少なくない血痕があった。

後ろについて来させた運転手にそれを見せる。


「血、だな」

「これがなんだってんだ?仕留めそこなったってだけじゃないのか」

「はぁ、これだから非戦闘員は困る。アンタ等は動物でも魔物でもいいから、狩りの一つでもやったことがないのかよ?」

「わ、悪かったな。人には得手不得手ってのがあるんだから仕方ないだろ」

「まぁそう言われるとそうなんだろうけどよ……」


一番重要なのは死体の有る無しでも、ここにある血痕でもない。その先にあるものが重要なのだ。


「怪我を負った獲物(こども)ってのはな、もう自分じゃどうにもならない。誰かに助けと欲しいってなるとな」


あのゴブリンは打ち落とされて死ななくて運が良かったが、こっちとしてもあのゴブリンが死んでいなくて運が良かったと言える。もし死んでいたら、目的のものを見つける事は出来なかった。

もう少し茂みを掻き分けていくと、その目的のものを見つけることが出来た。思惑通りで思わず笑みを浮かべてしまう。


「お家に帰ってパパとママに縋りつくんだよ」


そこにはゴブリン達が逃げて行った東の方へ点々と続いていく血痕があった。

俺に恥を搔かせたんだ。ゴブリンの20や30殺したところで納得出来る訳がない。もう少し大物のオーク程度も何体か仕留めないと気が済みそうに無い。


「子供のやらかした責任は親に取って貰わなきゃな」


さぁ面倒な子守の時間は終わりだ。



     ※※※



アドルフ達がアルタートゥム鉱山を出発した次の日の夕方。

ノーランス村を出発したアデーレを乗せた走竜車は、アドルフが馬車で来た道のりと同じ道を走っている。


「着きましたよ、アルタートゥム鉱山です」

「あぁ、分かった。でも、出発から結構掛かっちまったな。一日半近くもよ」

「そりゃぁそうですよ。山を越えたりしなきゃならないんですから。これでも結構とばした方なんですよ?もし、これが走竜じゃなくて普通の馬車だったらこの倍近く掛かるんですから」

「そう聞くとやっぱ走竜ってのは早いモンなんだな。そえにやっぱあれだな、鉱山地帯の道は馬車だと尻が痛くなっちまうな」

「人の手を入れてあるといっても、所詮は岩の所を削り取っただけで、ガタガタなってしまってしますね。このギルドの走竜車の座席は普通の物より改装されていますが、流石に長時間ともなると痛めてしまうのは防ぎようもありません。」


そう言われて見ると、自分の座っている座席の上には柔らかく上質な敷物が敷かれていた。普段は当たり前のように座っていたが、昔自分が駆け出しだった頃は、敷物どころか何もない木で出来た座席に座っていたのを思い出す。あの頃に比べると、そういうところでも変わってきているのだと実感した。

そう言っている間に、走竜車は事務所らしきものが何個か建っている場所に着いた。


「ちょっと待っててくれ。話をつけてくるからよ」

「分かりました。では、この近くに居ますんで話が終わったら声を掛けてください」


依頼書を片手に、走竜車から降りる。


「多分ここら辺の建物の何処かなんだろうけど……」


一度も来たことが無い所の為、勝手は分からないが最高責任者のいる場所とすれば、それなりの建物と身なりをしている筈。そう考えながら探索していると、一人の作業者を見つけた。


「なぁそこのアンタ、ここの作業者の一人だよな。この依頼書を出したルッツって奴に会いたいんだが」

「ん?ルッツさんか。あの人はここより、もう少し先に行ったところにある少し大きめの小屋みたいな所があって、特に何も無かったらそこに居る筈なんだが」

「分かった。わりぃな仕事の邪魔して」

「良いって事よ、まぁそこにルッツさんが居なかったらまた聞きに来てくれ。俺が見つかんなくても、そこらに居る奴に聞けば大丈夫な筈だ」

「ありがとよ」


なかなか人当たりの良い兄ちゃんだったなと思いながら礼を言って、言われた通り先へと進んでいく。一分しない内にさっきの兄ちゃんが言っていただろう小屋に到着した。確かに周りにある小屋の中では一番大きく、扉の前に『管理室』と書かれている看板が立っていた。

ここなのだと思い、早歩きでドアを少し荒く叩くようにノックすると、中から中年の男の声が聞こえた。ドアを開けながら「邪魔するぜ」と言い、部屋へ入る。そこには此方を見ながら目を見開いている小綺麗な服装を身に纏った男性が居た。


「こりゃまた、この男臭ぇ鉱山に似つかわしくない者が来たもんだ。アンタみたいな綺麗所が、こんな所に何の用だい?」

「ギルドでこの緊急依頼を見てな。この依頼書を出したルッツってのはアンタの事か?」

「ん?……あぁこれね。……これかぁ」


持っていた依頼を見た途端彼の表情が曇り始めた。


「なんだよ、その歯切れの悪い感じは。アンタじゃないのか?これを出したのは」

「いや、まぁ出したのは俺なんだが……」


不思議に思い尋ねても、要領を得ない答えに思わず顔を顰める。そんな私に、彼は溜め息をついて首の後ろを搔きながら言う。


「昨日の昼方に片付いちまったよ、悪いな。こんな所まで来させといて。一応ギルドには依頼完了の依頼を出しといたんだがね。入れ違いになっちまったか」

「は?」

「ゴブリンとオークの巣も壊滅させてくれたからな。この依頼は完遂して貰ったんだよ」


依頼完了?

ゴブリンだけでなくオークまでいる巣を壊滅?

理解の追いつかない言葉に、思わず思考が止まってしまう。


「ま、待てって。聞いた話だと、今回の護衛についていたのは無名の一人だったんだろ?もしかして私より早くAランカー位の奴が来たりでもしたのか?」

「いや、結局出発までその無名の奴一人だったよ」

「だったらその依頼完了の報告は嘘じゃないか?あんまり言いたくないけど、適当にデッチあげて報酬を貰ったなんて可能性が高い。Aランカー位なら分かるけど、無名の奴がゴブリンだけじゃなくて、オークもいる巣をたった一人で壊滅なんて怪し過ぎるだろ?」

「俺だって最初「巣、やっといたから」なんて伝言を聞かされたときは、アイツやっぱり頭イッてんじゃないかって思ったけど、実際に見せられたら嫌でも納得するしかなかったさ」

「実際に見た?」

「あぁ。その無名の奴が伝言で残した場所に行くと、ゴブリンもオークも皆殺されてたよ。一匹残らずな」


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