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欲望の赴くがままに  作者: えっひょい
15/19

14話:ゴブリン襲撃

「積めるだけ積めろ!どれだけ積めるかでお前等の給料が変わんだぞ!!」

「ここはもう無理だ!次の号車の方に行ってくれ!!」

「1から11は重量一杯です!」

「なら今あるのは12号車以降の馬車に移動しろ!!」


朝日がまだ上りだし始めた時間帯に、アルタートゥム鉱山では数百の人間が出荷する為に、何十台もある馬車の荷台に採掘した鉱石を台車などを使って載せている。

そんな光景をルッツの隣で欠伸をしながら暢気に見ている。


「朝早くから大人数で荷載せとはな。ご苦労なこった」

「すまんな、こんな朝早くからに変更して貰って」

「別に良いさ。責任者なら色々あるのは分かってるし、保険をかけるのは当たり前の事だし仕方ねぇさ」


首の後ろに手をやりながら、こちらに頭を小さく下げるルッツ。

本来の荷載せの時間はもう二時間ほど遅い時間帯なのだが、オーク達の襲撃の事を考えて時間を早めたのだ。早朝や夜なら可能性が低くはあるが、もしかしたらオーク達の活動が止まっているのではないかという憶測を立て、夜の場合もし襲われたら戦うにしろ逃げるにしろ、暗闇で支障をきたしてしまうのではないかという事で早朝で出発すると計画になったのだ。

後、俺が護衛に成功しても多少時間が遅れてしまう可能性があり、そうなると納入先との金のやり取りが発生してしまうからというのもあるとルッツが言っていたのを聞き、どこまで金に必死なんだよと呆れたものだ。

ルッツに聞こうと思っていたことを思いだし、あっと小さい声を漏らして笑みを浮かべながら尋ねる。


「それで。もう一つの保険で出した緊急依頼の方はどうなったよ」

「げっ……聞こえてたのか」

「これでも地獄耳なもんでね。俺に話し聞かれたくなきゃ、もっと俺が離れてから話し始めるべきだったな」

「ったく……、兄ちゃんにゃ隠し事できない、か」


頭をガジガジと搔きながら下を向き、はぁと溜め息を着いて諦めるかのように語り始める。


「兄ちゃんが言った様に、緊急依頼をこの辺一帯のギルドに送らせて貰ったけど、連絡は未だ来て無くてね。もし受けてくれた奴が居たとしても、今この場に来てなきゃ結局間に合わなかったってのが結果てやつさ」

「自分が言うのもなんだが、良いのか?今の俺の立場なんて所詮雇われの立場だし、俺に遠慮して予定を変更しなかったってんなら気にしなくて良いんだぞ。今ならまだ待つっていう手もあるし。」

「こんな多くの業者も呼んで、受け取り先とのやり取りもあるんだ。もし来もしないギルドの人間を待つために一日遅らせるってだけでも結構な金が掛かるんだよ。こういう仕事はな、人数が多い分だけ時間への縛りってのがキツくなる。なんせ、一日遅らせる事は待ってる側は下手したら一日待ちぼうけって事も珍しくは無いし、雇ってる奴は従業員の一日分の給料を払わなきゃならんからな。一日突っ立てるだけの奴に金を払うなんざ、堪ったもんじゃない」

「また金かよ。嫌だねぇ、管理職は」

「まったくだ」


互いに卑屈に笑い合う。そんなやり取りをしながら、知り合ってから数日という短い期間だが、互いの距離が近づいているのを実感する。その理由は二日前の夜の事だ。護衛の仕事が終わってしまえば俺が再びこの依頼を受けない限り、もう会う可能性はほぼ無いと言える関係なのだが、せっかく会ったのも何かの縁だという事で、俺とルッツは二人で二人で酒を飲み交わしたのだ。

最初は色々と取り繕っていたルッツだったが、酒の勢いでボロが出始め色々と赤裸々に語ってくれたのだ。曰く、こんな女気が一つもないムサ苦しいだけの鉱山で日々泊り込みで過ごしている自分の唯一の楽しみは、貯めに貯めた金で数少ない休暇で王都に帰り賭け事や高級な風俗に行くだけが唯一の楽しみなのだとか。

あんだけ俺が女好きで馬鹿にしてたくせに結局お前もかよと思いながらも、話せる相手だという事で結局日が昇っても下世話な話で飲み続けたのだ。それによりルッツと俺は次の日二日酔いで仕事も禄に出来ずに寝込んでしまったが、俺は特に仕事は無かったので良しとしよう。

思わず思い出し笑いをすると、背中をバシッと叩かれる。


「俺達に対してあんだけの啖呵切ったんだ。ゴブリンやオークが想像以上に強かった、多かったから勝てませんでした、なんて下らん冗談は言わんでくれよ」

「はっ、そんなつまんねぇ冗談を吐く位なら自分で首かっ切って死んだ方がマシさ」


日頃から自分の事を最強だ何だ言っているのに、ゴブリンやオーク程度の魔物に負けるなんて事になったら、もう生きてることすら恥ずかしい。フリージアに、どんな顔をして会えば良いというのだ。


「積み込み完了ぉっ!!」


そんな事を考えていると、馬車の最後尾の方から従業員の大声が此方に聞こえた。積み込みが終わったという事は、これから仕事の時間だということ。「うっし」と声を出して隣にたて掛けてあった矢の束を背中に背負い、二つの弓と手に取る。


「んじゃ、行くとしますか」

「おう」


俺の言葉に相槌を打つルッツ。もうここに来ることも彼に会う事も無いと思うと、なんだか考え深いものがある。このたった数日間の思い出を振り返ろうとすると、一番最初に出てきたのがあの棟梁のジジィとの喧嘩ににもやり取りで、思わず「あ、別に来なくていいか」と思ってしまった。

最後だからと、ルッツに振り返り伝えようと思っていたことをルッツに伝える。


「もし依頼受けて来た奴が居たら、俺の分の報酬をくれてやってくれ。流石にこんな鉱山に態々足運んで何も手に入りませんでしたじゃ、納得いかんだろ」

「それだと兄ちゃんはどうなんだい」

「元々ここに来た事自体手違いみたいなもんなんだし、依頼を受けたのだって金の為じゃないもんでな。気にしないでくれ。来なかったら来なかったで報酬は王都でイイ所に行く為の資金にでもしてくれ」

「最後の最後に下らん言うんじゃないわ、馬鹿が」


下らないやり取りに、再び笑い合う。その後は特に声は交わせず、前を向きながら後ろへ手を振る。

別れの挨拶は済ませたという事で、俺は駆け出して少し先に進んでいる先頭の場所に飛び移る。突然現れた俺に驚いたのか呆気を取られた表情を浮かべた運転手が此方を見ていた。


「それじゃ、おっちゃん。移動はよろしく」

「あ、あぁ」



 ◇



「……暇だな」

「こっちとしては暇じゃないと困るんだけどね」


ルッツにオークやゴブリンなんざ楽勝などと息巻いて出発してから10分。軽く高ぶっていたやる気も平和な平地の光景を見ているだけ、もうそのほとんどが沈んでしまい、最初は馬車の運転席で魔物掛かってこいと言う様に弓片手に待っていたが、今は既にもう弓を運転手の隣に適当に置いて荷台に詰まれた鉱石の山の上で寝転がりながら退屈そうに空を見続けている。

最初は鉱石の山の上なんて寝たくないと考えていたが、他に空いている場所と言えば運転手の隣の席しかない為、諦めて荷台の上にあがりこうやって鉱石の山の上で寝ているのだ。

鉱石痛ぇと呟いていると、運転手がワザとらしく溜め息を吐く。


「なんだよ、んな深い溜め息吐いて。辛気臭ぇ」

「……本音を言えば、今回の依頼は受けたく無かったよ。情けない話だけどな」

「いきなり唐突だな。それ、護衛として雇われた俺を目の前にして言う事かよ。ちっとは歯に衣着せろよな」

「俺だってこんな弱音を吐きたくはない。でも、仕方ないだろ?こんな襲われるのが分かりきっている危険な依頼なんて受けちまったんだから。アンタだってそんな弱音の一つでも吐きたいもんだろ」

「オークの噂のことか?」


俺の言葉に運転手は緊張で強張った表情に真剣な目で頷く。後ろに続いている馬車の運転手達を見ると全員この運転手と同じように緊張している表情を浮かべている。皆、噂のオークを怖がっている事が感じられた。


「護衛の人数、強さ、その全て万全の状態だったらいい。そしてら俺達も気楽に出来るってもんだ。でも、今回はこれまでとは訳が違う。ただでさえCランクのオークが複数体居るっていうのに、護衛にいるのは無名の初心者丸出しの弓持った男一人だなんて頭が可笑しいとしか言えない。もし、一匹でも取りこぼして俺達が襲われたらどうするつもりなんだ」

「そうツンケンすんなよ。男からツン貰っても嬉しくもなんともねぇぞ」

「この状況でそんな冗談を吐けるアンタの神経を疑うよ」


額に手を当てて、頭を横に振りながら呆れた様に言う。俺としては、別にオークが10や100来た所で面倒ではあるが大した苦にはならないから、暢気にこうやって寝転がっている訳なんだが。

しょうがない、ここは強くてカッコいい余裕を持ったアドルフさんが気を利かせてやろう。


「オーク程度でそう悲観的になんなよ。もうちょっと気楽に行こうぜ。そんなずっと気張ってるとストレスでハゲ……てる」

「少しは歯に衣着せんかい」

「いや、違う。違うんだ。聞いてくれ。緊張してると思って気を利かせてハゲをハゲまそうとしたら、すでにもうハゲが増してたんだ」

「馬車で轢いてやろうか、この野朗」


そんな物騒な事を呟きながら、手に持っている手綱を血管が浮き出る程に力強く握って、プルプルと震えている。元気付けようとしたのだが、失敗に終わってしまったらしい。まぁ、怒りの矛先が俺に向いているが、不安の震えが無くなり別の意味で震え始めたが良しとしよう。

そうやって話していると、視線の先に左右が木々で囲まれている狭い道が見える。幅は馬車が二台分と少し程しか空いていなく、あそこを通るなら二列では幅がキツイ為、一列にならなければならない。

運転手のオッサンが後ろの方に、手でサインを送る。サインについては分からなかったが、タイミング的には狭い道に入るという知らせか、一列になってという指示のサインなのだろう。

俺はそんな光景を見ながら、隣に置いていた弓と矢を手に取り立ち上がる。すると、運転手は驚いた様子で此方を見てくる。


「お、おいおい、いきなりなんだよ」

「なんで立ち上がった位で驚いてんだよ」

「なんでって、そりゃぁさっきまで適当に寝転がってた奴が突然武器持って立ち上がったら驚きもするだろ」


適当に寝転がってとか言うんじゃないよ。まるで俺が仕事サボってた奴みたいに聞こえるじゃないか。あれはただ特にやる事も無いし、座ってるのも面倒だったから自分が一番気楽に休める姿勢でいただけなんだ。


「ま、そろそろお仕事のお時間かなって」

「……ゴブリン共が襲って来るのか?」

「んな情けない声だすんじゃねぇよ。別に確定してる訳じゃない、ただ襲われる確率が高い所に向かってるってだけだ」

「十分怖ぇじゃねぇか!」


分かった。分かったから、耳元で大声を出すのは辞めなさい。耳がキーンとなってしまうじゃないか。

握り拳まで作って力説する運転手に鬱陶しい様な視線を向けながら、荷台をを跳び降りて運転手の隣の所に着地する。


「怖いのは分かった。なら、俺が今これからいう事はしっかりと守ってくれよ。下手に動いて自分から墓穴掘って死んだのにこっちのせいになったら、堪ったもんじゃないからな」

「わ、分かった」

「なら、こっからは進行速度を落として行ってくれ。亀みたいにノロノロとじゃない、見ていて不自然に感じられない程度にだ。あと、もし仮にゴブリンやオークに襲い掛かられても、絶対馬車から降りたりするな。もし降りて殺されそうになっても俺は手を出さんぞ」

「ったく、簡単に言ってくれるよ。こんな護衛は初めてだっ」


悪態をつきながらも、再び後ろに向かってサインを送る。

正直に言えば、人数がこの何十台もの馬車の数に対して俺一人というのはキツイものがある。それに使う武器は慣れもしていない弓ときたものだ。これに加えて勝手に逃げ回る奴まで居るだなんて言われたら、もうムカついて俺が弓で撃ち殺しそうになる。

まぁ、本当に敵が多すぎてどうしようもないとなれば、弓投げ捨てて駆けながら順番に殴って仕留めるという最終手段が、今後の為にもなるべくそうならないように努力しよう。

そう思いながら弓の感覚を握りながら確認していると、隣で運転手が何か閃いたかのように「あっ」と大声を上げた。


「アンタが一人行けばあっちから襲って来た所をまとめて仕留められるんじゃないのか?そうすればアンタも俺達に気にかけないで戦えるし」

「確かに、そういう考えもある。ただの考え無しの単細胞だったらその可能性もあった。でも考えてみろ。態々穴掘って監視まで行かせて、こうやって獲物の集団を来るのを待ってたんだぞ?仮に一人だけ近くに寄ってきたの襲って倒しても、本来の目的である後ろの馬車何十台は逃しちゃいました。なんて可能性があることするか?」

「むぅ……」


俺の説明に何も言えなくなってしまい、悔しそうに唸り声を出す運転手。せっかく自分達が無事な方法を思いついたと思ったのにこうも簡単に論破されるというのは、あまり良い気分ではないのだろう。

運転手が何かないかと頭を働かせて案を捻り出そうとしているが、とうとう馬車はゆっくりとだが確実に狭い道に入った。


「うっ、入っちまった……」


震えるような声を出しながら周りをキョロキョロと見渡し始める運転手。そんな事をしていたら敵側に貴方達がくるのは分かっていますとでも言っている様なものだろう。最初は辞めて自然体でいる様にと注意しようとしたが、今の彼の様子を見る限り無理だろう。それに、これ以上何か言ってしまうと余計にボロが出てくるだけだろうし。

そんな彼を見て思わず笑ってしまいながらも、俺は自分のすべき仕事でもやるかと思いながら少し頭を下げて目を瞑り、気を研ぎ澄ませる。


「10、20……23、か」

「な、なにブツブツ言ってんだよ。まさか怖気づいてるとかじゃないだろうな?」

「人が気ぃ張ってる時に無闇矢鱈に声を掛けるんじゃないよ」

「あだっ!」


その焦り方に少し鬱陶しくもなってきて、彼の横腹を肘でド突く。まさかド突かれると思わなかったのか、モロに肘を受けてしまい思わず大声を上げてしまった。声を出してしまった後、周りにゴブリン共が居るかもしれない状況に置かれている事を思い出したのか、慌てて俺に掴みかかってきて小声で「なにしてくれてんだ……!」と必死に怒り始める。あんな声で気づくなら、その前に集団でガラガラと車輪の音をこんな道のど真ん中で鳴らしてたら気づいてるもんだろ。


「おっさん。俺が飛び出したら全員停止してその場で待機。さっき言った様に絶対逃げ出したりすじゃないぞ」

「わ、分かった」


手綱を握る手を震わせながら、答える運転手。その姿を見て「よし」と呟き、腰を少し落として弓を番える。初心者の弓のような安物とは比べ物にならない程に握りやすく良い硬さをしている。長弓の方を使っても別に構わないが、この狭い道で短弓があるのに遠距離使用の長弓を使うというのは無意味過ぎる。

感覚を確認しながら、緊張しまくっている彼に悪戯心にも似た気持ちで質問をした。


「馬車の集団はこういう一列で狭い道行ってる場合、方向転換は難しく一つ一つが左右にバラけるというのも木が邪魔で出来ない。こういう集団を襲う定石ってのは分かるか?」

「じょ、定石?こんな時に何を言ってんだ、アンタ……ッ!?」

「勉強だよ勉強。人生は一生涯勉強って言うだろ?良いから答えてみろって」


まぁ、俺は生まれてこの方ロクに勉強なんてした事が無いがな。男は言語と足し算引き算できれば生きていける。後は自分の生き様で補えば万事OKだ。

そんな事を考えながら、暢気に答えを待っている俺を信じられないような目で見みながら、「あぁもうッツ!」とやっつけ感丸出しで答えた。


「周りから一斉に襲うとかじゃねぇのか!?そんなんで良いだろ!!」

「馬鹿だな君は、実に馬鹿だな君は。こういう問題は、なるべく少なく効率的な方法を聞いてるんだよ。ゴブリン100体1000体いりゃ全方位一斉に掛かるって答えが正解になっちまうだろ」

「いいから!もういいから!あんま分かんねぇけど、もうすぐ敵が来んだろ!?こんな悠長な事やってる場合じゃないだろ!?」

「分かった、分かったから」


あまりに必死な運転手にこれ以上は酷だと判断して、もうイジるのは止めることにした。

面倒だが仕事をやろうと、やる気も無いまま少し神経を研ぎ澄ませ再び周りの気配の動向を探る。馬車に追随しながら、今にも襲い掛からんとジリジリと馬車との距離を縮めてきている気配がある。合計で23体。接触するまでにはもう少しといったところか。周りにある気配に合わせる様に小さく「30、29、28、……」と小声で数え始める。

20をきったところで、再び運転手に話を掛ける。


「じゃぁ答えを教えてあげよう」


手に持った弓と矢に少し力を込め、少し弦を引く。

俺をポカンとしながら見ている彼に、俺は笑いながら言うのだ。


「先頭と最後尾の馬車を潰すのさ」


その言葉を言ったところで再び数え始め「5、4、3」と言った所で俺は馬車から前方の少しへ跳んだ。思いのほか力んで予想以上に前へ行ってしまい、そして隣にいた運転手が「うわっ!」と驚いていたがまぁ支障は無いから良しとしよう。


「2、1……」


空中で弓を構え、矢と弦を後ろ限界まで引っ張る。

そして


「0ッ!」


0のカウントとほぼ同時に空中で腰を捻り体を後ろへ向かせ、狙いが定まった瞬間に矢を放つ。だが、放ったのはまだ何も現れていない右、馬車から見て左側の道と木々の境目の場所。このままいけば矢は空を切るだけだろう。俺は構わず即座に再び矢を構え今度は逆の左の方に放つ。

放ち終え地面に着地と同時に、俺と馬車の間、つまり馬車の前方とそれにタイミングを合わせる様に馬車の最後尾の左右からゴブリンが数体づつ現れた。

が、そのゴブリン達は馬車に襲い掛からんと木々の陰から出たところで先ほど放った矢に団子串の様に体や

頭を貫かれて後方へ吹き飛んでいく。気配を察知し相手の進行速度と行き先を把握してこそ出来る技だ。

遠くに位置する後方の馬車から阿鼻叫喚の様な声が聞こえた。そりゃいきなり横からゴブリンが襲ってきたと思ったら前方から矢が飛んで来てそのゴブリンを貫くなんて光景を目にしたら驚くのも無理はないか。


「ギャアッ!ギャアッ!!」


最後尾を左右から襲った仲間が殺されたことに気づいていないのか、甲高い雄叫びを上げながら馬車の方へ襲い掛かってくる。遠くに跳んだことによって、今馬車の目の前に現れた三体のゴブリンたちの後ろに位置し気づかれていない俺は、弓を構えず矢を片手に持ちゴブリンの元へ駆け出す。


「フンッ!」


横に振りかぶり、鏃の部分で右の方に居た一体の首から上を斬り飛ばす。


「ギ――――」

「ギァ?」


雄叫びを上げる途中で空中に斬り飛ばされた頭を呆気を取られた様な表情を浮かべながら見上げるゴブリン。俺は間髪いれずに真ん中に位置したゴブリンの首元に踵を引っ掛け鎌で刈り取るように引き戻し地面に叩きつけ握ったままだった矢を握りなおし弓を番え頭に真上から放つ。

放った矢の威力が強かったのか地面にヒビが入り、改めて威力が強いのだと実感していたところで左側に居たゴブリンで慌てて襲い掛かってくる。流石にこの距離で襲って来る相手に弓を放つのも面倒なので軽く怯ませようと軽く左の手の甲で振り払おうとする。


「邪魔」

「ギギャァッ!?」

「ぁ……」


霧を振り払うかのように軽くやったと思ったのだが、ゴブリンは当たった顔面からミシッと鈍い音をたてながら吹き飛び木の幹に叩きつけられた。頭蓋骨を砕いてしまったのか、そのまま力尽きてズルズルと地面へと倒れ伏せた。


「振り払っただけでこれかい……。やっぱ肉弾戦だと、こんなもんになっちまうか。まぁこれを肉弾戦という括りにいれて良いか分からないが」


つまらそうに呟きながら手についたゴブリンの体液を振り払う。気を取り直して首をゴキゴキと鳴らしながら視線を馬車の方に向ける。


「さて、と」


まだ森の中から出てきていない残り十数体。策を弄したから余裕で勝てると高を括っていたのか、それとも元から失敗するなんて事を考える脳が無かったのか、そのどちらかは分からないが先発隊の10体近くを仕留めた想定外の元凶である俺を警戒しながらジッと此方を伺っている。

まるで射殺さんとばかりに此方に殺気を放ってくるが、ここ何年か大物と戦い続けたせでゴブリンの様な弱小である魔物を見ると、何とも小さくてひ弱そうで赤子みたいだと感じ思わず笑みが浮かんでしまう。こんな奴に武器を使うなんてなんとも面倒な事だと思いながら、馬車の元へと走り出す。

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