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銀河通信

作者: 絵南玲子

 とある銀河のかたすみで、ある晩、神様がくしゃみをした。「くしゅん!」と小さなくしゃみをした。ソンブレロ銀河のあたりだったかな。

「‥‥うんむ。まぁた、どこかの星の宇宙船が、花粉を運んできおったな」

「く、くっしゅーーーん!」

 白くきれいな放物線を描いて、くしゃみのひとしずくがはじけ飛ぶ。宇宙の海を漂いながら、ゆっくりと氷のかたまりが育つ。


「‥‥くしょん!」

 天の川銀河のそのまた太陽系のほとりの小さな星で、男の子がひとり、くしゃみをした拍子につんのめった。つんのめった拍子にぶつかった。

「いたいよ!」

 隣の男の子がにらみつける。

「大げさだよ!」

「不幸せな人の気持ちにもなってごらんよ!」

「君の隣に生まれたことが、ぼくにとっての最大の不幸せさ!」

 惑星クサーメの上の小さな町で、二人はいつもこの調子。ほんのささいないざこざのたびに、お隣どうしの境目に、日干しレンガが積み上がっていく。一段、そしてまた一段。


 ところで神様のお仕事は、たくさんの銀河を巡回して、宇宙の平和を守ること。 

 ようやく神様もお年を召して、銀河めぐりの足どりが少々重たくなってきた。

 そこで、弟子の天使たちを、あちこちの銀河に派遣されたというわけだ。『銀河通信員』の輝くバッジと、携帯型の宇宙望遠鏡を持たせてね。


 おたまじゃくし銀河の中ほどで神様がうたた寝をしていたちょうどそのころ、新米の通信員天使が驚いた。太陽系のはしっこで。

「大変だ! 大きな氷のかたまりだ!」

 長く輝く尾を引いて、すい星がまっすぐに飛んでいく。惑星クサーメの方向へまっすぐに。

「報告だ、報告だ!」

 大あわてで、天使は星を光らせた。覚えたてのモールス信号でちかちかと。

『‥‥め.‥‥め、め、で、めーでーーー!』

 天の川銀河からアンドロメダ銀河へ、そしてそのまた隣の銀河へ‥‥‥。かすかな星のまたたきを繰り返しながら、銀河通信がつながっていく。けれども、ちょっとした手ちがいで、神様にはこういう風に伝わったらしい。

 「‥‥ほう、なになに、『えーでー』か?」


 クサーメの上に住む天文学者たちも、いつかこのすい星に気がついた。夜ごとに望遠鏡をのぞきながら、そわそわ、そわそわ、気が気じゃない。

「いったい、どこへ向かうんだ!?」

 彼らのはき出すため息が、クサーメの上を吹く風になった。ザワザワ、ザワザワ、落ち着かない。


「落ち着かないやつだなぁ!」

 くしゃみした男の子がせせら笑う。

「何かが起きそうなんだよ、知らないの?」

 隣の男の子が切り返す。

「ぼくの強さを知らないの? 何が起きたってへっちゃらさ!」

「じゃあ、もう助けてあげないよ。何が起きたって知らないよ!」

 二人はいつもこの調子。すい星がまっしぐらに飛んでくるあいだも、また一つ、日干しレンガを積み上げる。高い垣根を作り続ける。


 とうとうその日がやって来た。ザワザワの風が、悲鳴に変わる。

「落ちてくる。この町に星が落ちてくる!!」

 二人の男の子たちも青ざめた。

「どうしよう!?」

「どうしよう!?」

 二人の男の子たちは考えた。

「‥‥こうなったら、ぼくらですい星を吹き飛ばすしかない!」

 真っ赤な顔で息を吹く。

「ふう、ふう!!」

「ふっ、ふーう!!」

 天文学者たちも息を吹く。世界中の人たちが息を吹く。


 すい星の軌道は、ほんのわずかにクサーメからそれた。大気圏をかすめて過ぎた。『じゅわわわっ!』と七色のけむりが立った。


 みんなのはく息がすい星をみごとに吹き飛ばしたのか、幸せな偶然だったのか、本当のところは分からない。ついでに、あの晩の神様のくしゃみが、こんな大さわぎのもとになったのか、今となってはだれも知らない。


 天の川銀河の通信員天使は、ほっと胸をなで下ろし、急いでモールス信号を送る。

『‥‥ぶ‥‥じ‥‥だ、ぶじだ!』 

 ねぼけまなこの神様は、鼻眼鏡をかけながらこう言った。

『‥‥じ‥‥だ、にじだ!?』

「そうか、どこかの銀河に虹が立ったか!」

 満足そうにうなずいてから、神様はまたぐっすりと眠りこけた。

              ─終わり─

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