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36:「だから私は」  作者: 郡山リオ
第一章
6/9

掃除当番。

 季節は春から夏へと移りつつある。

 二泊三日の教室はちょっとした遠足なようなもので、とても楽しかった。

 表向きは研修と言いつつ、まだ慣れない人たちもいる中、みんなと仲良くなって、今後の授業に学校生活に打ち込んで行けるようにすることも目的の一つに思えた。だから、精一杯楽しんで、ふざけたりして、仲良くなってきた。


「なあ、今度一緒にどこか遊びに行こうぜ。」

「私は、部活で忙しいから遠慮するよ。」

「そう言わずにさあ」

 ……と思えば、こういう輩も現れるのだ。

「な、いいだろ? 今度遊びに行こうぜ?」

 ……はぁ。純粋に、めんどくさいなと思った。


 丁重にお断りをした私は、授業終わりの掃除へと足早に向かった。


「……ねえ」

「ん? どうしたのー?」

 私は休み時間に買った紅茶のパックにストローを挿して、口にくわえた。

「田中くん、ゆきのこと好きなんだって」

 ごほぉっと、飲みかけの紅茶を少し吹き出してしまった。最悪だ。気分を一周させ、私は何事もなかったかのごとく、近くに紅茶を置いて、口元をふきふきしながら。

「えーもう、やっだー! なんで、それ知ってるの!」

「だって、色々な人に話してるみたいだよ」

 あんの野郎ー! と、心の中で叫びながらも、私は穏やかに微笑んで言った。

「ふーん、でも私はそんな気全然ないしねー」

「そうなんだ」

「そうそう」

「ふーん」

 ……気まずい、視線が痛い。この空気をどうしてくれたものか。

 この噂自体、結構広めているらしく、私の平穏な日常が脅かされている。ただ、それを黙っているのも、私は悔しいと思った。どうしてくれたものか。




 教室の隅に集めた埃を集めて一息。これで教室の掃除は終了だ。

 授業終わりの掃除当番の仕事は、あまり気がすすまないものの、そういうことをきちんとやることがスポーツにも通じるのらしいと、監督いわく、「道具やコートがあるのは当たり前ではないのだ。誰かに買ってもらえたこと、また、練習やトレーニングができるという機会があることに感謝して、それに関わる全ての人に対してプレーや学生生活でその気持ちを示せ。」ということで、私たちはある程度、この学校では模範的な存在として行動しているのだけれど、それにしても、あいつの行動は目に余る。どうしたものか、と考えながら、掃除をしに行くと、今日はいよいよ六人いるはずの人数が二人になっていた。

「あれ? もう一人は?

「あー、なんか帰っちゃったよ」と、笑う彼。

「あはは、まあねぇ」

「しょうがないから、ちゃっちゃとやろう?」

「うん」

 掃除をサボッて早く帰ってもそんなに急いでやることなんて無いだろうし、何を急いでいるのかねぇ。ただ単に面倒なだけなのか、はたまた、それをやらなくても誰かやってくれるだろうという押し付けなのか……。と、私はちらりと、掃除をしている同じクラスの男子をみた。

 軽い会話をしながら、ちゃっちゃと掃除を終わらせている。良いように言えば、優しそう。悪く言えば、甘そう。ガタイも良く、丸坊主だから、えーと、何部だったっけ?

「ねえ、あのさ。」

「ん? どうした?」

 えっと、と私は彼の名前を呼び、続けた。

「部活って、確か……」

 それを聞いた彼は、少し照れ臭そうに私の問いに答えてくれた。

 夕暮れ時の風はまだ冷たく、教室は夕日に赤く染まっていた。


「じゃっ、バイバーイ」

「じゃ、また明日」

 そういって別れ、体育館へと向かう私は、少しずつ始まる文化祭の準備を横目で見ながら、それに参加はできないのだな、とつぶやいていた。教室で始まる出し物のアンケート、役割分担、スケジュール。……参加できないけれど、みんなが楽しめるように少しでも助けられるならと思う。だけど、……。

そこで私は気が付く全部、全部、ないものねだりだと、私は自分の幼さを笑った。

 着替えるため更衣室へ足早に進む。そういえば、確かミスコンテストもやるんだっけ、と私は思い出した。

 どうせ参加できないのだ。なんか私たちでも面白いことはないのだろうかと、廊下を歩いていたとき、あることをひらめいた。

「……!」

 私はなんて天才なのだ。我ながら、ほれぼれとする。自分の頭の良さに酔いしれながら、更衣室をノックして中に入った。

「失礼しまーす!」

「あっ、ゆき……どうしたの? 見たこともないほどの満面の笑みだけど?」

「ん? なんでもない、なんでもない。」そして私は、近くの仲間たちに切り出した。

「ちょっとみんなに手伝ってほしいことがあるんだけどね!」

「ん?」

「なになに? 面白いこと?」

「まぜてまぜてー」

 わらわらと集まるみんなに私は、ニヤリと笑みを浮かべていた。


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