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かならずの意味。

 私がまだ幼いころ、私はこの世界の主人公だと思っていた。

 だけど、それは少し違っていて、世界はちっとも私の思うようにはならなくて、……だから私は考えた。努力をしなければ、と。



 と言っても、ただがむしゃらに頑張ればいいわけでは無くて。きちんと何をしたいのか、どうなりたいのか、それを成し遂げることで今とどう変わるのか。そこまで考えた上で、そのために、今何をするべきなのか、それをきちんと毎日やっていった。走れば早くなった。野球にサッカーやバスケや陸上だって全て頑張れば大抵のことはどうにかなった。でも、全て上手くいったわけではなかった。頑張れば、努力すれば必ず報われると知っていたから。






 ……だからこそ、負けた時は涙が自然とこぼれた。

「ねえ、雪。今日の試合はどうだったの?」

 車を用意してくれた母が、乗り込んだ私に聞いてきた。

「……負けた。二位だった。」

「県で二位なんて立派じゃない。」

 明るく、話しかけてくれる母に私は言う。

「全然だよ、だって一番にならないと、あの場所でみんなに勝てたって胸を張れないもん」

 それを聞いた母は一拍おいて答えた。

「……そうね。じゃあ、何があれば一位になれたの?」

「……最後のコーナーで、横に並んだ時、一瞬目を合わせようとしてた。今考えれば、今まで勝ったときはそんなことをしていなかったのに、多分焦っていたんだと思う。想像以上に、実力が近かったから。様子が気になって、目が合った時、あっちに余裕があるように見えてた。そう思ったとたん、呼吸が乱れて、心臓の音が近く聞こえた。気が付けば一瞬、自分のプレーに一瞬だけ集中できなくなっていた。その一瞬が、ほんの少しのタイム差を出して、今日の二位につながった。」

「理由は分かっているのね」

「うん。」

 努力はかならず報われる。かならずという言葉は、都合のいい言葉だ。簡単に使えるのに、この世界にかならずなど、ほとんど存在しないのだから。かならずは意思の表れであって、気持ち的な問題であって、結果を従える事実ではない。勝負の上では、とても無意味な言葉なのだ。知っているつもりだったが、私は全く知らなかったのだ。この世界での主人公は私でなく、だからこそ私の都合のいいようにはならないということを。

 だから私は、だから少しでも、都合のいいような結果がでないこの世界で、結果を出せるように努力した。みんな、同じはずだ。主人公でない限り、未来は、結果は、誰だってわからない。でも、自分の思い描いたものに近づけるためのことはいくらでもできる。そのための努力なのだ。毎日楽しいことばかりではない。でも、好きでやっていることなのだから、辛いことばかりでもない。……この一瞬一瞬の日々をいつか忘れてしまう日がくるのかもしれない。だけど、私は胸を張って言いたい。毎日に悔いは無い。後悔はしない。今、やれることを精一杯にやっているのだから。私は、私の人生の主人公になれるように毎日を過ごしている。努力は結果を裏切るかもしれないけれど、私を裏切ることはない。だって今までやってきたことはきちんと私の自信になるのだから。私は前だけを向いて、走っていけばいいのだ。結果は、その後からでも付いてくるのだから。



 夕方だった空は、いつの間にか濃紺へと染まり、どこかからか漂ってくる焼いた魚の香ばしい匂いが私のお腹を空かせていた。


「じゃあ、次は勝てるわね」

「次は一位を取れるようにちゃんと練習する」

「そうね……ならお母さんも、その時のお祝いの料理を何にするか決めておくわね。」

「あっ、それなら焼肉は必ず入れて!」

「はいはい」と笑うお母さんは、苦笑しながら続けた。「焼肉なんて、私の料理とほとんど関係ないじゃない。」

「だって、焼肉が好きなんだもん」それを聞いて、運転をしながらくすりと笑う母。

「はいはい、分かったわよ。かならずね」

 私たちを乗せた車は、何事もなく明日へと進んでいた。


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