変わらない日常。
桜並木の通りは、毎年見慣れた光景が広がり、よくこのあたりで昔遊んでいたなと、思い出が蘇った。隣にいる親友にそのことを話すと、親友も懐かしいね、と返してくれた。私たちは、保育園の時から一緒なのだ。
親の言う通りにしたと言いつつも、大半は私のわがままだ。部活で使う道具や遠征の費用や、お金だけではないその他諸々の時間や手間や、……色々。それだけでも感謝しているし、それを一切見せない父と母を私は尊敬もしていた。それを一回も口に出したことはないけれど。
「もう、桜も満開だね」と、親友が口を開く。
「うん」と、私が答える。
「入学式ぴったりで良かった」
「だね。」そして、その桜を見上げながら私は言った。
「まるで、私たちに合わせ咲いてくれたみたい。」
春の陽は温かくて、でも風はまだ冷たい。そんな中を私たちは高校に向かって歩いていた。
張り出されたクラス分けの紙を頼りに、私たちは自分のクラスを見つけた。どういう決め方なのか、全くわからないが、いくつかのクラスから偶然、私たちは一緒のクラスになった。
「あきー。やったね!」
「……」
「あきー?」
短くため息をついた親友は言葉をこぼした。
「そろそろ、同じクラスじゃなくても良いんじゃないかな。」
小学生の時を除いて、中学の時は三年間クラス替えがあったのに同じクラスになっていた。そのことを踏まえての言葉だった。
「えー! そんな風に思ってたの……!」
「なんてね」
と、舌を出す親友は、してやったりという顔をしていた。
「しょうがないから、これからも相手をしてあげよう。」
「もー!」
あっはっはと親友が笑っていた。
教室に行くと、仮の席順が出されていた。名前順の関係かなんかで間に知らない男子を挟み、私たちの席が前後に書かれてあった。
「クラスだけじゃなくて、席まで、近いよ」
「もう少し離れていても良かったのにね」
「……!」
無言の圧力に、親友は、なははと笑っていた。昔から親友はこんな感じなのだ。そんなやりとりが、私は好きな時間だったりする。この時間をいつまでも失いたくないと思っていた。小学生の時の友達とは少し疎遠になり始めた。年賀状を送らなくなり、メールを交わさなくなり、ふと思い立った時には連絡先で登録してある番号やアドレスには繋がらなくなっている友達がちらほらと現れ始めた。こうやって、どんどん新しい友達が増えるごとに、古い友達から消えて行く。入れ替わりでは無いのだけれど、私たちの一日の時間が二十四時間と決まっているように、私たちの持っている時間はとても限られていて、その中でも授業や部活動が大半を占めていて、自由に使える時間はとても少ないのだから、学校や部活で会う人はいいけれど、それ以外の人と連絡を交わす必要性が薄くなってしまうのだと、私は私なりに考えてみたのだ。全てのことは優先順位。必要か必要じゃ無いのかもわからないような関係を維持するために時間を費やすよりも、今やるべきことに費やす方が良いに決まっている。思い出に浸るよりも、今は先に進むことが重要なのだ。だから私は、そのことで悩むのはやめた。考えるだけ、無駄なのだ。
担任の先生……になりそうな先生が教室に来るまで、私たちは席に着かず、いつまでも親友や同じクラスだった友達と集まって話していた。意外に知った顔が多くて、少し安心している私がいた。先生は挨拶をした後に、入学式の説明に入った。周りから、少し緊張した空気が伝わって来るけれど、私はあくびをしていた。窓の外を見ると、雲ひとつない青空の下、優しく吹く風に桜が揺れていた。
また、変わらない日常が続いて行くのだと思って、私はもう一度あくびをした。