だから私は。
それは、初めての高校生活。地元から抜け出すどころか、家から一番近い高校だけど、だからこそ私は言いたい。親の言う通りにしたのだから、もっと、こう……何かないのか、と。
「何を馬鹿なこと言っているの?」
「えーだって、私は何か、見返り的な物を期待しているのだけど……」
「はいはい、それはあんたの高額な授業料で全部なしよ」
「えー!」驚愕である。もっと、こう、何かないのかな。
本当にこの子は、と呆れている母に向かって唇を尖らす。
「私立は高いの。それもこれも、全部あなたが部活を……。」
私は、はっとする。これは不穏な話の流れだ。これまでの数々の場面が頭をよぎり、私はすぐさま残っていたお味噌汁を飲み干し、立ち上がる。
「ごちそうさま!」
「あっ、ちょっと待ちなさ……」と言いかける母に私は声をかぶせた。
「もうこんな時間! そういえば、アキちゃんと初登校は一緒に行くって約束してたんだった!」
それを聞いて、一拍おき、はぁと呆れ気味なため息をついた母は言った。
「そう、忘れ物に気をつけて行きなさい。」
私は満面の笑みで、食器を下げると、その場を後にする。
「もう……。ゆきは、どうしてこんなにお父さんに似てるのかしら……。」
と微かに聞こえてきたその言葉を、私は聞かなかったことにする。
昨日のうちから準備しておいた荷物を私は持って、鏡の前に立つ。
制服の乱れ、よし。カバンと携帯は持った。いつもの確認をして行き、慣れない制服に少し緊張した面持ちの私と目が合う。そして、つい小さく笑ってしまった。……まだ制服が、少しぶかぶかだったから、慣れてないこの感じが中学生の入学式の時を思い出させたのだ。
「あっ、ゆきー!」
と、手を上げてこちらに近づき、立ち止まった私に向かって親友は言った。
「ちょっと、遅いよー!」
「おはよー! そうだね、まだ少し寒いねー」
「ん?」
「?」という顔をしていると、「また、あれですか?」 と、親友が不機嫌になる。
「都合の悪いことは聞こえなくなる病とか言う奴ですか?」
えへーと笑い、そのまま無言の私に、親友は諦めたのか、まあいいやと言って、笑顔で言った。
「おはよ。うん、まだ寒いねー。」
そう言って、2人どちらともなく歩き始めていた。
中学の時から仲良しのあきちゃんは、今も昔も変わらずにこんなままで、なぜか私と馬が合いいつも一緒にいた。
「でさー」
「えー本当にー?」
「マジ、マジ。でさー」
そして私は大きく笑う。親友も、つられて笑って。中学の時の部活の成績でいくつもの高校から推薦はきていた。東京、神奈川、埼玉、長野……。親は、好きなところに行けと言っていた。正直、どこでも良かった。色々考えた結果、遠くに行くのは、なんだかめんどくさいなと思った。知らない土地で、知らない人しかいない中、寮生活……。それよりも、親友や、中学からの友達のいるところの方が遥かに魅力的に見えた。幸い、一番近い高校は、そこそこの強豪だった。だから私は、そこに決めたのだった。