第8話
まさかの展開、ぱーと2!
「ウヒャ、いい顔してんじゃん。そそるねぇ」
好きでもなんでもない、むしろ憎い男の指が私の中に入ってくる。
「いや、いやぁ……」
「ギャハハハ! いい声じゃん! その声でアンアン喘がせてやりてぇ! なあ早くやろうぜ!」
「そうせかすな。まずはゆっくり心をへし折ってやらないとな」
下品な男たちが私を蹂躙しようとする。高架橋の下、暗闇の中に申し訳程度にある明かりは、逆に暗闇を引き立てる。すぐそこに、和哉くんが倒れている。局部に、鋭い痛みとぬるりとする変な感覚を感じる。体のいたるところに気持ちの悪い、けれどもどこかを刺激される温さを感じる。変な感じがするたびに、そのどこかがキュッと締まる。涙があふれてくる。私は悔しくて、まぶたを強く閉じた。
「お、感じてるな。もっと気持ち良くしてやるから待ってろよ……」
「アビャッ!」
私に触れる男の一人が次なる行為に移ろうとしたとき、別の男が奇妙な声を上げた。
「なんだよ。野郎が変な声出してんじゃねぇよ……」
「やあ、諸君。ごきげんよう」
「「「「!」」」」
リーダーの男の声に続いて、新たな声が聞こえた。ここ最近で聞き慣れた声が。目はつぶっているけれど、彼の薄い笑いが見える気がする。
「西、条……」
「今朝ぶりだな、華形香織。ずいぶんと淫らな姿じゃないか」
いつもと変わらない、バカにしたような口調で彼、西条要は話しかけてくる。いつもはそれにイラつくけれど、今は…すごく安心した。
「誰だテメェ!」
「おい、大丈夫か!?」
「おいおい、どうしたらこんなケガするんだよ……」
チンピラたちが動揺している声が聞こえる。急に、体に先ほどとは違う、柔らかい暖かさを感じた。うっすらと目を開けると、厚手の毛布がかけられていた。
「大丈夫ですか?」
隣から声をかけられる。横を見ると、白いフリルと黒い布地。そして、蒼く燃え上がるような2つの点が、街灯の光をバックにして、暗い陰の中に見えた。
「メイド……さん?」
「はい、メイドさんです。うふふ。ちょっとお薬を抜かないといけないので、体を楽にしてくださいね」
そう言って、青い目のメイドさんは毛布越しに私のおなかに触れた。やつらの手に塗られていた媚薬のせいで、視界がかすみがかったようにぼうっとしている。だが、
「せーの、ふぁいあー!」
メイドさんが気の抜けるような声を上げた瞬間、メイドさんの瞳が一瞬青の光を強め、彼女の手に青い炎が灯った。炎は数秒ほど揺らめくと、その色をショッキングピンクに染めて、消えた。
「ふー、成功です。にしてもこの類の薬は炎の色が気持ち悪いですねぇ」
「何を、あ、れ……?」
炎が消えた瞬間、私の視界のかすみも消え、クリアになった。驚いた私は、目をしっかり開いて、今の不思議な行為を行った、隣にちょこんと座る女性をもう一度見る。
「?」
不思議そうにかわいらしく小首を傾げながらも、にこにこした顔は、とても優しそうだ。ふわふわしていそうな黒いショートボブに、特徴的な青い目。メイド服なので、フリルで詳細な体のラインはわからないが、そのメイド服ですら隠し切れないほどの双丘。これは、川崎以上では…?ふりふりのメイド服も相まって、全体的にふんわりとした雰囲気をまとっている。
「あの、あなたは……?」
「私ですか? 私は、カンナと申しますぅ。17歳で、要様のメイドを務めてます。スリーサイズはぁ……」
「カンナ、自己紹介は後だ。後片付けを頼む」
「はぁい」
カンナさんの自己紹介をさえぎり、西条が割って入ってきた。割とスリーサイズは聞きたくなかったかも。それを聞いてしまったら、私は駄目だっただろう。たぶん、気絶してた。カンナさんはのんびりとした返事をすると立ち上がり、さっきまで西条がやってきた方向に歩いていく。なんかぼよんぼよんしてるんだけど。
カンナさんを目で追うと、その先には、死屍累々と先ほどまでの男たちが倒れ伏していた。和哉くんは西条が背負ってきて、私の隣におろしている。
「いてぇ、いてぇよぉ」
「血ぃっ、血だぁっ!」
「リーダー!返事しろよリーダー!」
「なんでこんなことに……」
リーダーの男にいたっては、額に穴が開いている。男たちは、先ほどの私に似ているだろう、現状に絶望する表情を浮かべている。だが、真の絶望がすぐそこに迫っていた。
「あらあら、4人も生きてらっしゃるのですか。要様は本当にひどいお方ですねぇ」
「そうでもない。じわじわ殺されるよりはましだろう」
「うふふ。それもそうですわねぇ」
「さあ、早くやれ」
「はーい」
西条とカンナさんは、デートに出かけようとするかのような陽気なテンポで会話をしている。もちろん、陽気そうなのはカンナさんだけで、西条はポーカーフェイスだが。
しかし、その会話によって生み出された結果は、非常に、現実離れしたものだった。
「メ、イド?」
「はいー、みんな大好き、らしい? メイドさんですよー」
「そのメイドさんが何の用だよ」
「女ぁ……」
「いえいえ、皆さんに消えていただこうと思いまして。あと、私は要様以外には股は開きませんよぉ」
「「「「は?」」」
「では、皆さんに。さよならパーンチ」
カンナさんがかなり軽い調子の掛け声をして、軽く握ったこぶしを前に繰り出す。カンナさんの周りの空気がうねり、瞳は一瞬金色に煌めく。そして・・・、高架橋下の空間が強烈に光り、爆散した。
みんな大好き、メイドさんです!
これが書きたかった!!
次回は閑話で、今回削った西条くん側のお話を書きます。