第4話
残酷な描写が含まれます。苦手な方は読み飛ばしてもらって大丈夫です。内容の理解には影響させないようにします。
高架橋の上での話のあと、私は自分の記憶を頼りに、あの女がいると思われる場所へと向かった。
川崎奈々美、私が愛する和哉くんを奪った憎い女だ。彼が最後に私を"香織"と呼んだ日、あの女は忌々しいことに彼の腕を抱き、私にこう言った。
「ふふ、悪く思わないでよね。あなたより、私の方がカズくんにとって魅力的だっただけなんだから」
忌々しい、忌々しい、忌々しい! 私がそこまで魅力的じゃないんなんてわかっている! けれどっ、けれどっ! 彼は私のものだ。お前が手を出していいわけがないっ! なんでお前みたいなバカ女が私の彼の隣にいるんだ。
今は未来となった過去の記憶を思い出し、憤怒と憎悪で気がおかしくなりそうだ。
だから、今。彼に手を出す前の彼女を! この手で!!
「コロス」
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腰まで伸びた金髪、クォーターらしく、染めたような不自然な明るさではなく、非常に自然な発色で、その艶やかでふわりと舞うその髪は見る人を魅了してやまない。夜になり、街灯や建物の灯りが夜の黒に映える金をさらに強調させている。
また顔は非常に整っており、鼻筋がすっとしていて、唇は小さいという印象を抱かせながらも、肉厚で触れれば非常に柔らかいだろうと思わせる。さらには、表情に揺るがぬだろう自信を浮かばせている。
体型はモデルのように線が細いが、出るところは出ている。存在をこれでもかと主張するバストに、なめらかなヒップライン。なのに腰まわりや手足は細く、男なら守ってやりたいと思うほどに魅力的だ。
守ってやりたいとウンヌンのところは、クラスの下品な男子が話しているのを聞いたのだが、女の私でもそう思うほどだ。
今も、通りすがる男の9割以上は彼女を見て、思わず振り返っている。
私たちの街の賑やかな夜の繁華街を歩く美少女。彼女こそが私の憎む女、川崎奈々美だ。あいつの毒牙に和哉くんがかからないように、あいつを消す。
まずはあいつを人気のない路地裏や公園に引きずり出し、服をひん剥いて、彼女の尊厳を私の手で奪う。
いや、私の手じゃなくて、その辺の薄汚い男どもをそそのかして、あの女を犯させるのもアリかもしれない。いやいっそ、発情期の犬にでも犯させよう。野良犬どもなら喜んで彼女の穴という穴を汚してくれるはずだ。異臭を放つ雄犬の精液で身体や髪、何もかもが白く、濡れて汚れた川崎を想像すると、体を突き抜けるような快感に体が震える。そうやって彼女の尊厳を汚く、これでもかと踏みにじってやるのだ。もちろん、それを録画してネットばらまいてやる。飢えた男どものいいオカズになるだろう。
そして十分辱めた後に、このバッグに入ったナイフで、メッタ刺しにして、ハラワタを引きずり出して、生まれてきたことを後悔させてやる。もちろん簡単には殺さない。ライターで炙り、汚い髪を引きちぎり、散々痛めつけてやって、あいつからこう言わせる。「殺してください」って。そしたらゆっくりと彼女の目にゆっくりナイフを差して、殺してあげるのだ。彼女を殺した後は、この街から離れて、私と和哉くんで末永く幸せにくらすつもりだ。
だが、私は今それを実行に移せないでいた。彼女はなんと『あの男』といっしょにいたのだ。
「何やってるのよ、西条……」
そう、さっきまで高架橋の上で一緒に話していた、西条要が彼女と一緒にいたのだ。
しかも、私が見つけた瞬間に、物陰に隠れている私の方を見て、目を弓なりに細めて笑ったのだ。さながらピエロの仮面のように。
「いったい、何を考えているの……!」
その表情があの女にも見えたのだろう。彼女と言い合いになったようだ。この距離だと繁華街の喧騒も相まって、何を話しているのかは分からない。だが、なんだか険悪なムードだと思われる。自然と人は彼らの周りから離れるように歩くようになっていた。叫ぶわけでもなく、どちらも余裕の表情を浮かべているが、川崎の方は肩を小さく震わせていて、イラついているのがわかる。西条の方は完全に何を考えているのかわからないが。
少ししたら、川崎はしびれを切らしたのか、近くでパトロール中なのであろう自転車に乗った警察官に駆け寄っていった。
「えっ、警察沙汰!? ちょっとなにやってるのよ西条!」
まさか警察が出てくるとは思っていなかった私は、隠れていた場所から出て、駆け寄ろうとした。だが、西条はまた私の方を見て、
(来なくていい。君が心配することじゃないだろう?)
と、目で制した。西条は、警察が出てきたのにまだ随分と余裕そうだった。大丈夫なんだろうか……。
だが、確かに私が心配することではないのは事実だ。私がでしゃばったところで、ややこしくやるだけ。とりあえず、西条がどうするのかだけ見ることにしよう。
そう決めた矢先に、意外にもすぐ自体は収束してしまった。彼女に呼ばれた警察官は西条と川崎を見て、川崎に対して何か言った。そしたらなぜか、川崎の表情は急に青ざめたのだ。そして警察官は薄く笑って、彼女と西条を交番の方まで連れて行った。
最後まで西条は余裕の顔だった。
「あいつ、何かしたの?」
美少女と気味の悪い少年だったら、当然(認めたくないが)美少女である川崎を信じるはずだ。なのになぜか、警察官は西条を見ただけで、彼を信じたようだった。川崎の表情からはそうだとうかがえる。
あの男がなにをしたのか、もしくは何者なのかは、後日聞くことになるだろうと思うが、はたしてあいつは川崎になにをしたのだろうか。
さすがに交番までつけていくわけにもいかず、その日はそこで家路へと戻った。すでに太陽は沈み、月が静かに街を見ていた。
ヤンデレ香織ちゃん、結局なにもせずに帰宅。ちなみに西条くんは9割以上に含まれていません。