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GLoop〜やり直し世界と僕〜  作者: 倉里小悠
第1章 華形香織
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第3話

説明回。少々お付き合いください。

「さて、『あの夜』に話したことをここで詳しく説明するとしよう」


 あの夜と同じように、昼でも暗い森をバックにしてそう言った西条は、エリートっぽく見える七三分けの短髪を風になびかせながら、黒縁眼鏡を左手の薬指で押し上げることでかけ直し、いつものバカにしているように感じる口調で話し始めた。


「まずは、この『力』について説明しよう。この力は、"望む人間1人と一緒に望む時に戻ることができる"力だ。この力は、1人の人間に宿るが、一度使えばまた別の人間に移る。移る先は、一緒に時を戻った人間だ。もともと私が持っていた『力』は今は君にある」

「えっ? それじゃあ今私はまた自分の望む時間に戻れるってこと?」


 もしそうなら、やり直しを失敗しても、もう一度やり直せるってことになる。


「そういうことだ。誰と一緒に戻るかは自由だ。手をつないで、戻りたい時を思い浮かべて、『戻りたい』という気持ちを込めて、"ジャンプ"といえば、望む時に望む人とともに戻れる」

「ふーん。それじゃあ、あの夜にあなたが私を一昨日へ戻したから、今は私がそれを行うことができる、というわけね」

「そうだ。ちなみに、相手が望む時に戻ることもできる。手をつないだら分かる」

「それを利用して私が望むあの時間に戻ったのね」

「ああ、そうだ。これはとても便利な力だ。だが制限もある」


 それはそうだ。こんな力が制限なしで使えるなら、今頃人類史は数世紀以上進歩してるはずだ。けれども、こんなにすごいものなら噂くらいにはなっていると思うが。


「制限は4つある。1つ目は、移動できるのは時間、それも過去に向かってだけ。戻る場所は指定できない、というもの。戻る場所は、本人がその時にいた場所になる。さらに、身につけているものも、その時のものになる」


 じゃあ、戻りたての時は、一緒に戻った人とバラバラになるのか。ちょうど私と西条みたいに。服が変わっていたのもこれのせいね。


「2つ目は、制限というよりは事実といったところだな。時間を戻っても、全く同じ未来を歩むことはほとんどない。これはお前も感じているところだろう」

「そうね。あなたが現れるまでは記憶と同じ状況だったけれども、細かな違いはたくさんあったわ」

「そういう細かな違いは、時を戻ったため、外部の要因に微量な違いが発生することによって起こる。時の運は、時を戻せばまた違う結果になるからな」


 2つ目の制限は私が立てた予想と同じ。問題はないだろう。


「3つ目は、同じ人間は『3度』までしか時を戻れない、というものだ」

「あら、結構チャンスがあるのね。私は2回も時を戻れるってだけでも、とっても魅力的な話に思えるわ」

「多い少ないは人の捉え方次第だ。お前の好きなように考えるといい。最後に、これはあって当然のものだな。戻った人間以外は、その人が戻った時間分の記憶と、以前戻ったことがあるという記憶を無くす、というものだ」


 なるほど、この制限のせいでこの『力』が噂になることはなかったのか。この『力』を作った人は、これを目立たせたくなかったのだろうか?


「なにか質問はあるかね?」

「あるわ。2つ質問するわね」


 ここまで聞いておいてなんだけれども、この質問には答えてもらわないと、この男の話を信用することはできない。


「いいだろう」

「まずひとつ、この情報のソースはどこ?」


 そう、まずは情報源がどこにあるのかはっきりしたいのだ。デマを聞かされている可能性は捨てきれない。


「私が1回目の時間遡行をしたときの、この力の所有者だ。その人は私の父だ。もちろん、今は綺麗さっぱり記憶を無くしている。情報の真贋は、父が自分の前の人を含め、3人くらいで検証したそうだ。複数人のグループで順番に時間を戻って、ローテーションを何度も行うことで検証を行った。これにより、先ほど言った制限が4つしっかりと確認されたわけだ」


 なるほど、身内なのがアレだけれど、検証をしっかりしたようだし、信用してもいいかもしれない。どっちにしろ情報については、制限のせいで記憶が無くなってるから確認のしようがない。


「それじゃあ、ふたつめ。なぜあなたは私の望む時間に戻ったの?」


 ここが一番の謎だ。この男とは今までほとんど接点がなかった。にもかかわらず、急にあの夜に現れ、私の願いを叶えた。この男の目的はなんなのだろう。


「……興味、だな。そもそも私は戻りたいと思ったことがない。だからその力を持て余していてね。そこで、クラスメートの中でも興味を引いた人間にこの力を使い、どう動くかを観察してみようと思ったのだ。選んだのがお前だったのは、偶々お前が一番面白そうだったからだ」

「完璧超人には悩みなんてないってわけね。ほんと嫌味な男よ、あなた。それに、私の不幸を面白いとは言われたくないわね」

「褒め言葉として受け取っておこう。面白いものは面白いのだよ。それもまた人それぞれだ。気にする必要はない」


 そう言って、西条は元々浮かべていた薄い笑みを、不気味に深めた。春から梅雨になりかけの湿った風が、私の肌を撫でていく。

 理由はなんかムカついたけど、嘘は言ってなさそうだし、とりあえずは信用できるか。ほんとひどい理由だけれど。


「じゃあ、私はなんの気兼ねもなく、この2度目の3ヶ月をやり直していいのね?」

「ああ、好きにするといい。私は遠巻きに観察している。助言が欲しければこの住所の家に来るといい。大体はここにいる」


 そう言って西条は、住所をメモした小さな紙を渡してきた。


「それでは、今日はこれで話は終了だ。また学校で会おう」

「どうせ会っても話すことはないわ。じゃあね」


 話が一通り終わり、私たちは高架橋の上から降りて、灯りが増えてきた街の中へと戻って行った。

 私はこの時、この男、西条要とは今後長い付き合いになるとは夢にも思っていなかった。

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