第17話
朝。
私はカーテンを開けて、体いっぱいに柔らかな日差しを浴びた。
「う、うぅん……」
陽光がベッドまで伸び、カンナちゃんの顔を照らす。
彼女は眩しそうに目をしかめ、寝返りをうった。
まだ眠る気のようだ。
しかし朝早い時間とはいえ、
「メイドさんがそんなでいいのかな……」
「カンナさんはそういう人なので仕方ないですよ」
私が独りつぶやくと、部屋のドアを開けてサキホちゃんが入ってきた。カンナちゃんと違って、彼女はしっかりとメイド服に身を包んで仕事に移ろうとしている。
「サキホちゃん、おはよう」
「はい、おはようございます」
「んんぅ……」
「ほら、カンナさんも起きてください。さもないとその堕肉をもぎますよ」
熟睡中のカンナちゃんをサキホちゃんが起こそうとする。ちょっと私怨が混じってる気もするが、かなり強引に彼女の体をゆする。
当然の帰結として、カンナちゃんの立派な双丘が大きく揺れた。それはもうぶるぶると。
「ぐはぁっ!!」
サキホちゃんが血反吐を吐いて床に倒れ伏す。
「このくだり何回やるの……」
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朝食を終えて、私は西条とは別々に屋敷を出た。一晩で新品のようにクリーニングされた制服を身に着けて、私は学校へと向かう。
隣には、私の通う学校から少し離れたところにある私立女学院の制服を纏うサキホちゃんがいる。
お嬢様学校で、制服がかわいいと評判の有名校だ。
確かに、赤のタータンチェックサロペットスカートと白のブラウスを組み合わせ、その上に金が縁どられた紅いブレザーを羽織っているサキホちゃんは、明るくおしゃれで、とても可愛らしい。
「なぜ主様と一緒に登校なさらなかったのですか?」
小首を傾げ、私に質問を投げかけるサキホちゃんは、さながら学生アイドルのようだ。
「いや、なぜってそりゃあ……変な噂たてられたくないし……」
「変な噂、ですか」
「一応、私彼氏持ちだし」
「ああ、そういうことですか。ちょっと違いますが、"汝、隣人の妻を欲すること無かれ"、というわけですね」
「ま、まあそういうことかな」
昨日の夜話していて気付いたことだが、サキホちゃんは実は熱心な"金十字教"信者だった。
金十字教とは、現在世界中に広まった有力な宗教の一つで、一神教に分類される。司祭などはみな金の十字架を模したアミュレットを持っている。
さきほどサキホちゃんが言った言葉は、金十字教を作る上で非常に重要な役目を果たした預言者の言葉で、"他人の恋人や配偶者を奪ってはいけない"という意味だ。
本当に熱心な信徒で、金十字の教えを忠実に守っている。少し怖いくらいに。
「それでは、ここでお別れですね」
「うん、またね。カンナちゃんにもよろしく」
「はい。『あなたの道に幸あらんことを』」
「あ、あはは……」
少し大げさに思える挨拶をされ、私は戸惑ってしまう。
その時、ずかずかと不機嫌そうな足音が聞こえた。
振り向くと、そこには足音と同じく不機嫌そうなだが、整った女の顔。人として自然と思える金髪が朝の陽ざしを浴びて輝いている。
川崎奈々美だ。
「「「……」」」
私たち3人は互いに顔を合わせて、沈黙した。
暖かな朝日の中、冷たい沈黙の時間が始まる。
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どれだけの時間が経っただろうか。
本当はほんの一瞬なのだろう。けれども、私たち––少なくとも私には、この時間が非常に長く感じられた。
沈黙を破ったのは、サキホちゃんだった。
「それではこれで。香織さん、また次の機会に」
「え、あ、うん。またね」
別れの挨拶をして、サキホちゃんは早々にこの場を立ち去った。
「…………無視したな……」
川崎も終始不機嫌そうに私たちの通う学校の方へと進みだし、さっさと行ってしまった。
「なんだったの……?」
すごく違和感がある。
なぜこんなにもおかしいと感じるのかはわからないが、非常に不思議でならない。
なぜ彼女があんな表情をしていたのか。
不自然すぎる。
だって、先ほどいたのはクラスのみんなに愛される川崎奈々美ではなかったのだ。
私の知る川崎奈々美は、クラスの皆に愛想を振りまき、その美貌から男どもを惹きつけ続ける美少女だ。
しかし、先ほどの彼女は……
誰かを憎む、一人の醜い女だった。
私と同じように……。
「彼女について、よく知る必要があるのかも……」
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「また誤算があったか」
「申し訳ありません……。まさか姉があの場に現れるとは……」
「仕方あるまい。どう考えても偶然じゃ。サキホを責めることはなかろう?」
「そうだな。朝は時間が少ない。気にしても仕方がないだろう」
黒と白と金が路地で出会い、話をする。
「それじゃ、各々行くところへ行けい。解散じゃ解散」
黒と白と金は、金の号令で再び別れた。
カンナちゃんは今回眠り姫でしたね。




