閑話 逆鱗
お久しぶりです。
研修旅行でタイに行ってました。
今後はこういうことのないように書き溜めて行きたいです。
"俺"、西条要は今、金の月の下照らされた中庭にて、青白い顔の男を前にしている。
「なんだ貴様は? 我を誇り高きヴァンパイアと知って、我の前に立つのか?」
男が何か喋っているようだが、心底どうでもいい。前口上は"私"がさっき律儀に聞いてやった。俺が聞いてやる義理はない。
私は合理主義で、完璧主義だ。殺すと決めた相手でも、しっかりと話を聞いてから、効率的に殺す。そこに感情は無くて、ただミスが無いよう淡々と事を成す。
けれど、俺は違う。
より人間的で、より感情的、より……残酷だ。
「"我ガ望ミヲ汝ガ知ル形ニセヨ、“世界ノ記憶”"」
「イングラム」
俺は銃を構えて引き金を引く。パスパスを乾いた音を立てて、鉛の弾丸が男の体を貫く。
「クハハハハッ、宝の持ち腐れとはこのことだな! よりにもよってこの私に対して現代兵器を持ち出すとは! 私はヴァンパイアだぞ? そんなおもちゃで倒せるものか!」
男はそう言って血を流しながらも、平然と俺の方へと向かってくる。
しかし、
「うるさい」
俺が手をかざし、男の流した血が形を持って男を貫きはじめる。
「ぎゃああああああっ! な、なんだっ!?」
血に貫かれて、そこから流れ出た血がまた男を貫く。そしてそこから流れ出た血がまたまた男を貫く。さらにそこから流れ出た血が…………
さながら人間がハリセンボンに変わるかのように、男からは赤黒い槍がどんどん生えてくる。
「た、助け……がぁあああああああああっっ!!」
まるで漫画のようだ。ドシュッという音が何度も、何度も、おかしいくらいに暗闇に響く。
男が血に濡れた目で俺を見る。そこには恐怖があった。だが、その血も槍に変わり、彼の瞳を貫く。
貫く、貫く、貫く、貫く、貫く、貫く、貫く、貫く、貫く、貫く、貫く、貫く、貫く、貫く、貫く、貫く、貫く、貫く、貫く、貫く、貫く、貫く、貫く、……………………………………
華形香織と出会ったのは、随分と昔だ。1年前という大昔だ。
ズシャッ
俺は彼女に恋していた。
グシャッ
そのときは"私"もいなくて、和哉、菜穂、枋美を加えての5人で平和に、幸せに過ごしていた。
ブシャッ
結局彼女は和哉に取られてしまったが、彼女と肌を重ねたこともある。今の彼女にそんな記憶はないだろうが。
「た……す……け……っ」
ズジャッ
愛していた。ひたすら真っ直ぐに前進する彼女が好きだった。彼女1人だけじゃなくて、5人揃ったみんなが好きだった。この幸せを壊させてたまるかと、当時は思っていた。
だから……、俺はこいつを許さない。
愛する人を害したこの男は、絶対に苦しめて殺す。
俺の目の前には、赤黒い針を持った大きなハリネズミが出来上がっていた。
すべての傷が槍で埋まってしまったのだろう。新たに針が生える様子はない。
パチンッ、と俺が指を鳴らすと赤黒い槍は無くなり、先ほどの男が全く傷のない生まれたままの姿で現れた。
「がぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」
「不死身というのも困りものか。苦しみが永遠に続くんだからな」
「わ、れは……高貴なる吸血鬼だぞ……。なぜ、あの……悪魔の使い魔なんぞに……っ。この魔法は確かに……とあいつの使い魔……か使えない魔法……。だが……あいつは……などではない……。ならなぜ……こいつが、れ……を……?」
男はブツブツと何かを言っている。俺に何かしらの疑問を持ったのだろう。
だが、関係ない。
私に戻ってしまう前にこいつをできるだけ苦しめたい。絶対にその罪を贖わせてやる。
再度、男に向かって手をかざす。
「ヒィッ!! やっ、やめてくれっ! 我が何をしたと言うのだ!?」
「生まれてきた」
「はあっ!?」
こいつの間違いは、生まれてきて、俺たちの前に立ったことだ。だから、殺す。
「"我ガ望ミヲ汝ガ知ル形ニセヨ、“世界ノ記憶”"」
俺の手に青白い光線が集まり、1つの拳銃を形作る。ある名銃の形を。
「ガバメントwith silver bullet」
そして俺はその引き金を引いた。
「発射」
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「終わったか?」
「ああ、問題なくな。そっちはどうだ? また気絶させていないだろうな」
「くはははっ、儂が殺気を当てるのは初っ端だけじゃ。2度目はないぞ」
「どうかな。イタズラ好きのお前のことだ、何かしている可能性はある」
西条要が少し目を細めて、キンを見る。
彼女は肩をすくめて、その視線をやり過ごした。
「なに、お主の逆鱗に触れるようなことはしておらんよ。安心せい」
「そうか」
西条要とキンはテラスから中へと入る。
キンは中庭の様子を再び見て呟いた。
「ひどい有様じゃな」
「お前をあんな風にはしたくないな」
「はん、この儂がそう簡単にやられるものか。思い上がるなよ小僧。ただでは殺されてやらん」
中庭は、芝生が赤く染まり、かつての男は、人の形をしていなかった。身体中に穴が開き、関節や骨など無いかのようにあらゆる方向へと曲がっている。その傍には、拳大の臓器が潰れて捨てられていた。
2度目の西条くん何やってた回です。
また戦ってただけですけどw




