第15話
2話連続投稿です。
こちらは本編になっております。
すっ、と暗い部屋の中に一筋の光が差す。
「ん、んぅ……」
私は、目を擦りながら体を起こした。
「起こしてしまいましたか」
ドアから入ってきたのは、銀髪の女の子だった。紅の瞳を持ち、メイド服で身を包んでいる。小柄で華奢な体型を白いエプロンが引き立てていて、とても可愛らしい。見た目からして私より年下なのだろうが、纏う雰囲気が少し大人っぽい気がする。肌は白磁のように白く艶めいている。
どこか誰かに似ている気がした。
「すみません。華形さん」
「う、ううん、気にしないで。ただ目が覚めただけだか……だけですから」
「ふふっ、お気になさらないでください。私は年下ですし、敬われるのは慣れてないんです」
彼女の見た目ゆえ思わずため口になってしまったが、彼女は気にしていないようだ。
「あ、ありがとう……」
「ご夕食はどうなされますか?」
小柄のメイドさんが私に問いかける。
夕飯より先にお風呂をいただいてしまったので、実はまだご飯を食べていないのだ。けれど、なんだかお腹が空いていない。時間が遅いからだろうか?
「えっと、今何時?」
「はい、午前1時です」
結構気絶してたんだ……。うーん、多分この時間だと起きてればすぐに空腹になるけれど、寝てれば朝まで持つわね。あんまり迷惑はかけられないし、このまま寝ちゃおうかな。
「夕食はいいわ。このまま寝ることにする」
「了解しました。この部屋は屋敷の奥の方ですので、朝になりましたら、私かメイド長のカンナがお迎えに上がります。それでは」
「あ、ちょっと待って」
メイドさんがそのまま去ろうとするのを止めて、私は尋ねた。
「あなたの名前は?」
彼女の名を。
彼女は振り返って口を開いた。
「アテネ。天○洲アテネ。この星で最も偉大な女神の名よ」
その言葉で一気に、カンナさんとは少し違った残念臭が漂ってきた。
私が複雑な表情をしていると、彼女は再び口を開いて言った。
「すみません、和ませようと思いまして。本当はサキホと申します」
「和ませるにしては選ぶネタがおかしいわよ……」
私は確信する。
この子は、オタクだと。
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サキホちゃんが部屋を出たあと、私は眠れないでいた。思った以上に気絶がきいているようだ。目を閉じても全く眠れる気配がない。
仕方ないので、夜風に当たろうと部屋の窓を開けた。ふと上を見れば、金色の丸い月が見えた。
「あの女を殺す方法、か……」
ついさっき気づいたことだけれど、よくよく考えれば、私はキンちゃんの殺気にも耐えられない、ただの女子高生なんだよね。そんな普通の人が、人を殺すなんてできるのかな。
多分、キンちゃんは人間じゃない。そして、その周りにいる人たちも。さっきの出来事で、私はそう思った。そんな人たちだからこそ、人を殺すのに躊躇しないし、殺気なんかに気絶したりしないのだろう。
彼女たちが人を殺したところは見たことないけれど、なんとなく、彼女たちは人を殺したことがあると、感じている。
実は、苦しめて殺す想像はできるけれど、私は、それを実行できるかわからない。まだ迷っている。
「人間じゃなくなれば、こんなこと思わなくなるのかな……」
「人間でなくなりたいのか?」
「!?」
いつの間にか、窓の外に黒いマントを羽織った青白い男が浮いていた。
男は、ニヤニヤと下卑た笑みを浮かべ、こちらを見ている。
「なら、我が眷属に迎え入れよう。喜べ、我に血を捧げれば、その快感に心を奪われるぞ。1つの悩みもなくなり、全ての枷から解き放たれる」
男の笑みは西条のものと違い、私に不快感しか与えない。
絶対に言うことを聞いてはいけないと、私の直感が言っている。
「いやっ、そんな怪しい話になんて乗らないわ」
「クハハハッ! 残念、これは決定事項だ。さっさと我に血をよこせ!」
男は私に向かって真っ直ぐ突き進み始めた。私は急いで窓を閉め、鍵をかける。ひとまずこれで入ってこれないはず。
しかし、黒い霧のようなものが窓の隙間から這い出てきた。
「何……これ……」
「我をただのガラス戸で止められると思うたか?」
「っ!」
霧は徐々に男の形を作っていき、私に手を伸ばした。
「いやっ!」
私はドアの方へ走り出す。
しかし、
「面倒だ。女よ、止まれ」
「っ!?」
男の声と共に、私の身体は前に進まなくなってしまった。
「今度は何!?」
「念力は初めてか? 我の力をもってすれば、この様なこと容易い」
男はそう言って、私の両肩に手を添えた。
その手は、氷の様に冷たく、私の背筋を凍らせた。
そして男は、
「血をもらうぞ」
口から牙の様なものを光らせ、私の首筋にそれを突き立てた。
刺された痛みは無く、ただ私の中から何かが吸い上げられていくのが分かる。その吸い上げられる感覚が、私の中にある悩みや苦しみ、全てを消し去っていくようで、
この上なく気持ちよかった。
胸が熱くなるような快感。足から腰へ、腰から腕へと順に、身体から力が抜けていく。
私の身体のどこかがジュン、と音を立てた。
「あ、はぁ……」
口から熱い吐息が漏れる。視界がぼやけてきて、他の感覚も無くなっていく。
最後に残ったのは、この強烈な快感だけだった。
「ようこそ、吸血鬼の世界へ」
次の話は閑話で、ハロウィンにちなんだ話にしてます。