第13話
お久しぶりです。
エタる訳ではないのです。
ただこの話を書くのに悩んでいただけなのです…。
ダメな作者でごめんなさい…。
「それでは、まずここに来てもらった理由を説明しよう」
残念メイドさん(カンナさんというらしい)が淹れた香りのよい紅茶で一服した後、西条が口を開いた。
「実を言うと、そこまで大した用ではない。ただ現状において、お前が川崎奈々美を殺しても、その後お前は沙原和哉とは幸せに暮らせないだろうと思ってな」
「私一人にできることは限られてる。この国で誰かを殺せば、確実に足がつく。それ故にあの女を殺しても、幸せが得られるわけじゃない、って言いたいんでしょ?」
「そうだ。そこで、私がお前に手を貸そうと思ってな」
あの時、西条がいただけで、私の計画はとん挫した。それが今の私ができることの限界を示している。あの女を排除するには、やはり誰かの手を借りなければいけない。私より圧倒的に、この国で強い権力を持つ、または国家権力の象徴たる警察の目をかいくぐれる人間の手を。
「確かにそうだけど、あなたに何ができるのよ」
「本当は分かっているだろう? 私にできることは多いと」
まあ確かに西条は完璧超人で、こんな豪邸の持ち主と知り合いを持ち、警察に信用されるくらいのパイプを持っている。確証はなくとも状況からみてそうなる。
「そういうことじゃなくて、私に手を貸すって言っても具体的に何をしてくれるのかってことよ。それに、私はあなたを完全に信用してるわけじゃないし」
「信用してもらう必要はないな。どちらにしろお前は私を頼る他ないだろう? お前に強い権力を持った知り合いなんていないはずだ。もしいるならとっくに頼っているはず」
西条は薄い笑みを崩さず、私の現状を言い切った。
「高層ビルの屋上を貸し切ってやる。防犯カメラも無いし、他に人が来ることもない。君がそこに立ち入ることは誰も知らないし、知ることもない。屋上で2人きりになったら、あとは好きにすればいい」
「へぇ……とっても魅力的な提案ね。でも、何か条件があるんじゃないの?」
私はつれない感じの態度を崩さず、質問を投げかけた。本当は西条の提案に飛びつきたいくらいだが、この男は何を企んでいるのか、そこがはっきりしない。
私にとっては利しかなく、彼にとっては損しか無いこの提案は、非常に怪しいのだ。
だから、何かしらの条件があるはずなのだ。西条が得する、何らかのものが。
「…やはり気づくか。いや、気づかないのはカンナくらいなものだろうな」
「ふぇ?」
カンナさんが情けない声を出して西条に返事をする。確かにこんな天然な人くらいじゃないと、怪しいって思わないのが不思議なほど怪しいわね。
「駄メイドは放っておくとして」
「今駄メイドって言いました!? 言いましたよね!? 要様ひどいですー! 私ほど優秀なメイドはいないというのにぃ!!」
どこが優秀なのだろう……。紅茶は美味しかったけど……。
優秀なメイドは何もないところで転ばないと思います。
「特に条件は無い。私としても、川崎奈々美は消えてくれた方が助かるからな」
「……えっ?」
カンナさんの訴えを見事にスルーした西条の口から発されたのは、意外な言葉だった。
「あなたも、なにかあの女に思うところがあるっていうの……?」
「別に思うところはない。だがこちらは色々なことをしている。川崎奈々美がその障害になっているが故に、君が殺してくれるならこちらとしても都合が良いのだよ」
西条は口の端を上げ、悪どい笑みを作った。彼の感情が分かるような表情を初めて見て、ちょっと私は驚いた。しかし、どこか作り物めいているようにも感じた。
「そう、それなら良いわ。あなたが言った通り、私はあなたの手を借りなければやっていけないしね。殺す方法を決め次第、連絡するわ。携帯アドレス教えてくれる?」
「アドレスですか!? ちょ、ちょっと待っててください!」
そう言って、カンナさんは慌ててゆっさゆっさバタバタと部屋を出て行った。いや、あなたじゃないんだけど……。
「すまない。カンナは同い年の友達が少なくてな。仲良くしてもらえると嬉しいんだが」
同い年だったんだ……。高校生でメイドって、フィクションくらいでしかないわね。しかも天然で、あの双丘。丘というより山よあれは。中々すごい人ね……。
「メイドなんてやってれば、そりゃ同い年の友達なんてできなくて当然よね。雇い主が悪いんじゃないのかしら? そう言えばカンナさん、高校はどこなの?」
「……行っていない」
「え?」
「カンナは学校に通ったことがないんだ。複雑な事情でな。詳細は話せないが、とにかく仲良くしてもらえると私も嬉しい」
驚いて西条の方を振り向くと、いつもの笑みが消えていた。
彼の顔には何の表情もなく、ただそこに顔があるだけのようだ。けれども、私は、少し暖かいような、そんな感じのする表情がある気がした。
「ケータイが見つからないので見つかるまで待っててくださーーーーーい!!」
「はぁ……」
とにかくカンナさんが駄メイドなのは十二分に分かった。