表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
GLoop〜やり直し世界と僕〜  作者: 倉里小悠
第1章 華形香織
12/21

第10話

遅れました。

ハロゲンって難しいですね。

 翌日、月が変わって5月1日、今は学校で体育の授業としてバスケットボールの試合ゲームをしている。本来なら(・・・・)、バスケ部である和哉くんたちが主となって進む授業なのだろう。昨日しょげていたらしいバカも、今日の授業前に


「うっしゃあ! このバスケでいいとこ見せて、クラスの女子をメロメロにしてやんぜ!!」

「そのいきっす! 俺たちの力を見せてやるっすよ!」


 と、騒いでいた。しかし現在、授業は異様な状況となっている。


「うぎゃあああ、またスリー入れられたっす!」

「マーク外してんじゃねぇよ!」

「外してないっす! けどどうやっても抜けられるっす…。」


 クラスのバスケ部全員+運動部で組んだチームvs.クラスの文化部&帰宅部男子チーム。この組み合わせなら、バスケ部のチームが圧勝すると考えるのが普通だろう。相手チームに、あの男がいなければ。


「うそ!? なんでもう後ろにいるんだよ!」

「くそっ、抜かれたか!」

「またそこからスリーかよっ!?」

「か、勝てないっす……」


 メガネを外し、黒の短髪を揺らしながら、1人でボールを突いて、バスケ部の男子によるディフェンスをことごとく瞬時に突破する。そして、きっちりスリーポイントのライン上に立ち、ボールを投げる。投げられたボールは先ほどと寸分違わぬ軌道を描いて、ゴールの輪を音も立てずに通る。体育の先生が吹くホイッスルの音が体育館に響き、得点板の数字が片方、3つ増える。


「さすが西条くんだ……これは勝てる気がしないよ」


 隣に控えの選手として座る和哉くんがつぶやく。そう、バスケ部相手に単騎で無双する男は、西条要。クラスで数多くの運動部員を、この体育の授業で打ち破ってきた男だ。見ている側の人間はすでに慣れてしまったが、完璧に同じ立ち位置、完璧に同じフォーム、完璧に同じボールの軌道を取り続ける彼は、正直言って尊敬や感動を通り越して気持ち悪い。


「和哉くん、昨日の仕返しね」

「え?」

「期待してるよ。頑張ってね」


 前半終了のホイッスルが鳴る。点数は0対60。西条に勝つには、かなり絶望的な状況である。けれども、私は言った。西条の圧勝を見るのがつまらないのもあるが、愛しの彼が当然のようにあっさりと負けるのは、イヤだったから。


「ず、ずるいなぁ……。でもまあ、しょうがないか。香織からの仕返しなんだし。彼に勝ってくればいいんだね?」


 彼は私の無茶ぶりに、呆れながらも応えてくれた。もちろん、私の言葉だけで勝てるようになるわけではない。しかし、和哉くんは私の思いに応えようとしてくれるだろう。そう思うのは慢心かもしれないが、私は私の愛する彼を信じたい。輝くような笑顔を見せてくれる彼を。


 先生が後半をそろそろ始めると言った。


「それじゃあ、行ってくる」

「うん、いってらっしゃい」


 和哉くんを見送り、私はコートの中心を見る。そこには、前半であれほど動いていながら、汗ひとつかかず、息もあがっていない西条の姿が。

 西条に和哉くんが近づいて、言った。


「西条くん」

「どうした、沙原和哉。何か用か」


 西条はいつもの薄い笑みを浮かべ、和哉くんの声に応える。


「ちょっと負けられなくなったから、宣戦布告ってところかな」


 それを聞いて、西条は少し笑みを深めた。クラスの人間には動揺が走る。


「おいおい、西条に勝てんのかよ」

「無理だよ、無理無理」

「でも沙原くんって、バスケ部のエースじゃないっけ?」

「ワンチャンある?」

「いやいや、相手はあの完璧超人だぜ? 勝てっこねーよ」


 かなり否定的な意見が多い。しかし、私はそんなのに構わない。和哉くんのコンディションは、そんなものでは下がらないから。


(がく)隼人(はやと)。俺に力を貸してくれないか?」


 和哉くんが、前半から続けて参加することにしたバカ2人に声をかける。


「へっ、しゃーねーな。付き合ってやるよ」

「何言ってんすかかずやん、がくやん。元々俺たち、勝つつもりじゃないっすか」

「そうだそうだ! 俺たち2人だってさっきの前半見てビビるわけねーんだよ。陸上での雪辱、ここで晴らさせてもらうんだからな!」

「おうよ!」

「お前ら……」


 クラスの見学組とは違って、試合をする男子たちの戦意は全く衰えていない。

 そのやりとりが、私には真似できなくて、ちょっと羨ましく思った。


 先生が後半開始のホイッスルを吹き、ジャンプボールによるボールの奪い合いが始まる。

 西条とバカの1人の斎藤岳(さいとうがく)が空中で一瞬の攻防を見せる。


「くっそ、すまねえ。ボール取られた!」


 西条が攻防を制し、ボールを自陣の方に叩き込む。帰宅部の男子が自分の方に転がってきたボールをキャッチする。ボールを持て余してるようで、ただ持ってキョロキョロと周りを見て突っ立っている。


「回せ」


 しかし西条の一言で、彼は西条の方にボールをすぐに投げる。そこに、伊東隼人(いとうはやと)がパスカットを狙って走りこんでくる。


「うぉりゃぁあああっ! とぉったっすぅううう!」


 見事にパスされたボールをキャッチ。すぐさまドリブルでゴールへと向かおうとする。しかし、


「甘い」

「!?」


 スッと音もなく西条が彼の前に現れ、いつの間にかボールを奪っている。


「っ! やばいっす!!」

「沙原っ、スリーに注意しろ!」

「わかった!」


 ものすごい速さで西条がコートを上がっていく。バスケ部2人はあっという間に置き去りにされ、ほとんど和哉くんと西条の一騎打ちのような形になる。


「ここで止める!」


 和哉くんが西条に迫り、進路を妨害し、ボールを投げさせない。あわよくば、西条からボールを奪おうとする。

 しかしここでも、


「無駄だ」

「な、なんだ!?」


 西条が不思議な動きをした瞬間、和哉くんの反応が目に見えて遅れた。

 その隙をついて、西条が和哉くんを抜いて前に出る。再び西条は前半と同じスリーポイントのライン上に立ち、全くぶれることのない軌道で、ボールをリングに通した。

日常的な回の、ちょっとした戦い。

次の話で、試合は終わる予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ